長尾毅彦氏(東京女子医科大学) |
第37回日本脳卒中学会総会(2012年4月26〜28日)では「心房細動〜抗凝固療法のパラダイムシフト〜」と題したシンポジウムが4月27日に行われた。ここでは,長尾毅彦氏(東京女子医科大学)が発表した内容を紹介する。
●試験の特徴
第Xa因子阻害剤の第III相試験は,いずれも非弁膜症性心房細動患者における脳卒中/全身性塞栓症の発症抑制効果について,ワルファリンに対する非劣性を検討することを目的として行われた。リバーロキサバン(ROCKET AF)1),apixaban(ARISTOTLE)2)の結果はすでに発表されているが,エドキサバン(ENGAGE AF-TIMI 48)は現在進行中である。
ここで一線を画すのは,リバーロキサバンについては,国際共同試験ROCKET AFとは独立して,日本独自の第III相試験(J-ROCKET AF)が行われたことである。日本人の薬物動態・薬力学的データから,リバーロキサバンの用量を海外で実施されたROCKET AFよりも減量し,日本人独自の用量にてエビデンスを構築することを目指した。そのため,試験デザインはワルファリンに対する安全性に関する非劣性を検証することとし,統計的な検出力はないが有効性についても検討された。
なおダビガトランにおいても,同一用量を投与した際の薬物血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は日本人のほうが白人より平均で20%程度高値であったという第I相試験のデータ解析結果が最近報告されており3),興味深い。最大の論点は薬剤間の優劣であるが,各試験結果を比較する場合,対象患者や試験デザイン,PT-INR至適範囲内時間(time in therapeutic range:TTR)の割合やPT-INRの目標値の違いが結果に大きな影響を与える可能性もあり,解釈には十分な注意が必要である。また,実臨床下では,投与回数の違いなども重要な要素となるだろう。以下,これらの観点から,各薬剤と特徴や試験の概要について論じた。
●投与回数
第Xa因子阻害剤は,半減期は約半日と同程度であるにもかかわらず,投与回数はリバーロキサバン,エドキサバンは1日1回,apixabanは1日2回と異なっている。
エドキサバンについては,最高血中濃度(Cmax)は1日1回投与のほうが1日2回投与より高かったが,出血合併症発症率は1日1回投与のほうが少なかったという第II相試験での結果4)から1日1回投与が選択された。リバーロキサバンについても同様の結果が得られている。このような違いが,実臨床下でどのように影響するかについては今後注目される点である。
●試験の相違点
1.対象患者の背景
各試験の内容をどう読み解くか。もっとも重要なのは対象患者の背景である。
ROCKET AFでは高リスクの患者(平均CHADS2スコアはROCKET AF:3.5,J-ROCKET AF:3.3)を対象としたのに対し,ARISTOTLEでは低リスクの患者を対象とした(平均CHADS2スコア2.1)。ENGAGE AF-TIMI 48の結果はまだ発表されていないが,登録基準はROCKET AF/J-ROCKET AF同様にCHADS2スコア2点以上を対象としている。
また,ROCKET AFは他の試験に比べワルファリン群におけるTTRが低いことが指摘されているが,長尾氏はTTRの算出方法が他の試験と異なっていたという点について言及した5)。RE-LY,ARISTOTLEではワルファリン導入初期および投与中断中はTTRの算出に組み入れられていないのに対し,ROCKET AFではワルファリン導入から維持期を経て投与中断中までのすべての期間でTTRを算出している。他の試験に比べTTRが低くなるのは当然といえる。
2. 有効性
有効性については,トロンビン阻害剤ダビガトラン(RE-LY)6)を含め,ROCKET AF,J-ROCKET AF,ARISTOTLEの4試験について検討したところ,試験間におけるワルファリン群の脳卒中/全身性塞栓症発症率は1.60%/年から2.61%/年と幅があった。脳梗塞の発症率も同様に1.05%/年から2.02%/年となっていた。ただし,各試験における対象患者の血栓塞栓リスク自体が異なり,CHADS2スコアが高いほどその発症率は高くなるため,一概に比較することはできない。
脳卒中専門医にとっては,二次予防効果がもっとも注目される点であるが,RE-LY,ROCKET AF,ARISTOTLEについてはサブ解析の結果が発表されており,試験薬のワルファリンに対するハザード比(HR)は0.75〜0.87で,ほぼ近似した結果であった。 J-ROCKET AFの二次予防効果については本総会で発表され,こちらもワルファリンに対するリバーロキサバンのHRは0.51であったことが報告されている。
3. 出血事象
ARISTOTLE の結果が発表された後にapixaban の大出血発生率が低値であったことに注目が集まったが,対象患者の背景の違いに加え,試験により出血の定義が異なることにも注意が必要である。RE-LYやARISTOTLEは大出血のみを主要評価項目としているのに対し,ROCKET AF/J-ROCKET AFでは,これに加え,重大ではないが臨床的に問題となる出血事象が含まれており,数値自体は高値となる。さらに,ARISTOTLE,ROCKET AF/J-ROCKET AFいずれも,大出血の定義として「2g/dL以上のヘモグロビン量の低下を伴う出血」をあげているが,ARISTOTLEでは,「24時間以内」と限定されているなど,それぞれ定義が微妙に異なることには細心の注意を払うべきである。したがって,出血事象の発生率の違いについて,単純に数値だけで比較するべきではない。
長尾氏は「第Xa因子阻害剤の第III相試験はさまざまな点で試験デザインが異なっていることから,それぞれの試験を十分に読み解き,相違点を理解して日常臨床にあたる必要がある」とまとめた。
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