山口修平氏(島根大学) |
第37回日本脳卒中学会総会(2012年4月26〜28日)にて,「脳卒中登録研究の現状,課題および将来への展望」と題したシンポジウムが開催された。ここではその中から,山口修平氏(島根大学)が4月28日に発表した脳卒中データバンクに関する内容を紹介する。
●脳卒中データバンクの現状
脳卒中データバンクは日本人における脳卒中の実態を把握し,エビデンスの検証と構築を目指す脳卒中患者登録研究であり,1999年に開始された。診断,重症度,転帰について国際基準を用いたデータを登録することで診療の国際標準化を目指すとともに,急性期血栓溶解療法の調査や脳血管疾患ガイドラインの検証,薬剤市販後調査にも応用が期待されている。
脳卒中データバンクの特徴の1つは,スタンドアローン型データベースということである。脳卒中協会のホームページ(http://www.jsa-web.org/)からアプリケーションファイル「脳卒中入院台帳」をダウンロードすることにより,各施設で自由にデータベースを構築することが可能となる。毎年のように機能を追加し,改善をはかっている。
現在約200施設,約97,000例が登録されているが,1999から2003年までの8,000例1),1999〜2005年までの16,000例,1999〜2007年までの47,000例についての成果が出版されている。2013年には10万例の解析結果を発表する予定である。
●血栓溶解療法の実態
脳卒中データバンクの大きな目的の1つは,わが国の脳卒中急性期における治療実態や,治療成績の実情などを検証することである。たとえば,1997〜2007年に脳卒中データバンクに登録された虚血性脳血管障害36,705例中520例の解析2)では,血栓溶解療法が行われた病型は心原性脳塞栓が64%ともっとも多く,アテローム血栓性梗塞16%,アテローム血栓性塞栓6%,ラクナ梗塞5%,一過性脳虚血発作2%であることが明らかになっている。また,脳梗塞患者4,174例における解析3)では,血栓溶解療法と脳保護薬の併用患者における神経学的転帰良好(modified Rankin Scale,mRS 0〜1)は約31%で,血栓溶解療法単独患者の約25%より予後が良好であったことが示されている。
●退院後ケアへの活用
脳卒中データバンクをさらに使いやすくし,活用するための試みがいくつか行われている。
入力の負担を軽減するため,電子カルテのデータを脳卒中データバンクに読み込ませるシステムが開発され,2009年に実用可能であることが確認された。
また活用を広めるために,まずpre-hospital stroke care(病院前脳卒中ケア)との連携ソフト開発が考えられている。救急隊との連携を密にし,フィードバックをすることにより診断精度の向上と,t-PA適応例の搬送時間の短縮を図るのが目的である。すでに,川崎医科大学での運用成績によれば,脳血管障害の疑いで救急搬送され,救急隊により倉敷病院前脳卒中スケールが記載された症例について確定診断のフィードバックを行ったところ,救急隊による病型診断の完全一致率が41.2%から58.5%へと有意に上昇した。島根大学でも同様に,救急隊により出雲病院前脳卒中スケールが記載された症例について確定診断のフィードバックを行ったところ,2時間以内に搬送された割合が42%から62%に上昇した。
病院前脳卒中ケアだけでなく,回復期・維持期のリハビリテーション,在宅医療,日本リハビリテーション医学会によるリハビリテーション患者データベースとも連結し,退院後ケアへの連携も進められている。さらに,診療群分類包括評価(DPC)ともリンクし,診療報酬改訂のためのエビデンス作成,インセンティブ効果の検証,医療計画策定にも活用予定である。
山口氏は,「脳卒中データバンクを関連データとリンクすることで,脳卒中医療全般の効率化,レベルアップに貢献することが期待される」とまとめた。
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