Elaine Hylek氏 |
近年,新規経口抗凝固薬の使用において課題とされていた点もいくつか解決されつつあり,本分野は大きく進歩している-第86回米国心臓協会学術集会(AHA 2013)にて,Elaine M. Hylek氏(Boston University Medical Center,米国)が11月18日に発表した。
●手技施行時における抗凝固療法の休薬
新規経口抗凝固薬投与患者において,手技施行前に薬剤を中止するかどうか判断するためには,その薬物動態を理解する必要がある。新規経口抗凝固薬とワルファリンがもっとも大きく異なる点は半減期で,ワルファリンの40時間に対し,新規経口抗凝固薬では約12時間程度と短い。また,最高血中濃度(Cmax)到達時間も,ワルファリンの72~96時間に対し,新規経口抗凝固薬では2~4.5時間となっている。
腎排泄率も異なり,ワルファリンでは1%未満であるのに対し,新規経口抗凝固薬では25%から80%と薬剤間でも大きく異なる。欧州不整脈学会(EHRA)の「非弁膜症性心房細動患者における新規経口抗凝固薬のプラクティカルガイド」1)では,出血リスクおよび腎機能障害の程度により,待機的外科手技前の推奨される休薬期間を提示している(表)。それによると,たとえばクレアチニンクリアランス(CrCl)≧30mL/分の患者では,リバーロキサバンおよびアピキサバンでは一律,出血低リスクで≧24時間,高リスクで≧48時間,ダビガトランでは腎機能の程度に応じて異なり,出血低リスクで24,36あるいは48時間,出血高リスクで48,72あるいは96時間としている。
●侵襲的手技実施時の出血イベント
RE-LYにおいて侵襲的手技が少なくとも1回以上行われた4,591例における周術期出血および血栓虚血イベントについての報告2)によると,ダビガトラン群とワルファリン群の間に有意差は認めなかったが,両群ともに緊急手術では待機的手術にくらべ, 5~6倍の大出血リスク上昇がみられた(p<0.001)。緊急手術の出血発症率は,ダビガトラン150mg 1日2回群では17.7%,ワルファリン群では21.6%であったのに対し,待機的手技ではそれぞれ,3.8%,3.3%であった。
また,手術の24時間前までに中止された場合は,それ以上前に中止された場合とくらべ,大出血リスクが高かった。
●大出血発症時の管理
ワルファリン関連頭蓋内出血は,その2/3はプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)2.0~3.0の治療域内での発症が認められている。死亡率は46%,重度の神経学的障害は17%であり3),非常に予後が不良であるにもかかわらず,研究は進んでいない。中和剤を用いればPT-INR値は是正されるが,抗凝固作用を急速に中和することにより機能転帰が改善するどうかは,明確になっていない。
ワルファリン関連大出血が発症した202例に対し,4因子含有プロトロンビン複合体製剤(4F-PCC)の有効性を血漿製剤と比較した試験4)では,PT-INRの回復は,血漿製剤群9.6%に対し4F-PCC群の62.2%に認められた。24時間後までの止血効果は,4F-PCC群72.4%および血漿製剤群65.4%で,同程度であった。
米国胸部医学会(ACCP)ガイドライン5)では,ビタミンK拮抗薬関連大出血患者に対し,血漿製剤よりも4F-PCCによる急速な中和を,また,凝固因子単独による中和よりもビタミンK 5~10mgの追加的持続静注を提案している。
●新規経口抗凝固薬による出血の管理と中和剤の開発状況
2013年4月,米国食品医薬品局(FDA)はビタミンK拮抗薬の急速中和剤として4F-PCC であるKcentraを認可した。PCC製剤27試験(4F-PCC:20試験,3F-PCC:7試験,計1,032例)のメタ解析6)では,全体の血栓塞栓イベント発症率は1.4%(4F-PCC群は1.8%,3F-PCC群は0.7%),死亡率は10.6%であった。
新規経口抗凝固薬については,リバーロキサバンではPCCによりプロトロンビン時間(PT)の延長がすみやかに是正されたが,ダビガトランでは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長に対する正常化がみられなかった7)。ただしHylek氏は,本試験は健康成人12例という少数例の検討であること,PTやAPTTという出血そのものに対するものではなく,サロゲートエンドポイントを用いていることに注意が必要と指摘した。また,出血モデルを用いた基礎研究結果も報告されているが8),Hylek氏はこれについても,動物モデルの妥当性およびヒトにおける関連性の有無について疑問を呈した。
Hylek氏は,現時点で実地臨床において用いることのできる指針として,Hankeyら9)による新規経口抗凝固薬服用患者における出血管理のレビューを挙げた。本論文では,出血を程度により軽度,中等度~重度,生命に関わる出血の3つに分類し,推奨される対処を列記している。EHRAプラクティカルガイド1)はこれに加え,生命に関わる出血についてPCCの使用を推奨している。
現在,第Xa因子阻害薬(PRT064445),ダビガトラン(ヒトにおける最初のモノクローナル抗体フラグメント)とも,中和剤が開発中である。Hylek氏は「新規経口抗凝固薬の中和剤がいくつか開発されてきており,本分野は大きく進歩している」と講演を結んだ。
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