Elaine Hylek氏 |
ワルファリンは,治療域内のコントロールが維持されていなければむしろ予後不良となり,新規経口抗凝固薬が最良の選択肢となること,実地臨床で新規経口抗凝固薬を有効的に用いるためには,アドヒアランスの維持と,腎機能や血圧の適切な評価と管理が重要-第86回米国心臓協会学術集会(AHA 2013)にて,Elaine M. Hylek氏(Boston University Medical Center,米国)が11月19日に発表した。
●ワルファリン投与のリスク・ベネフィット
米国の調査によると,65歳以上の高齢者における薬剤有害事象による入院の33.3%をワルファリン関連出血が占めていた。これは原因薬剤の中でも第1位であり,そのうち救急部への入院に至る割合は46.2%にのぼる1)。入院の理由を症状別にみると,頭蓋内出血が5.6%(救急部への入院に至る割合は99.7%),消化管出血は40.8%(同84.7%),プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)上昇は23.7%(同59.5%)であった。
ワルファリンの用量調整は複雑で,年齢,性別,体表面積,体重,他の薬剤の併用,日々の食事からのビタミンK摂取量などのほか,さまざまな要因によって変動を受ける。そのため,適正な治療域を維持するためには,個々の患者ごとに変動因子を考慮し,管理しなければならない。一般に,ワルファリン療法中のtime in therapeutic range(TTR)は60%以上が望ましいとされているが,達成は難しい。米国での報告では,抗凝固クリニック通院患者では63%であったものの,全体では55%にすぎなかった2)。
TTRが50%未満では,ワルファリン非投与よりもむしろ予後が悪くなることが示されている3)。これは,適正な治療域が維持されなければ効果が十分に発揮されないだけでなく,出血性有害事象のリスクが高くなることによる。
●心房細動に対する主要ガイドラインの推奨
新規経口抗凝固薬(ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン)はワルファリンの問題点を克服すべく開発された。脳卒中または全身性塞栓症の発症抑制において,3剤とも大規模比較試験でワルファリンに対する非劣性が認められたほか,頭蓋内出血が大きく抑制された4~6)。この結果が欧州心臓病学会(ESC)の心房細動患者管理ガイドライン部分的アップデート7)に反映され,塞栓症リスクスコアであるCHA2DS2-VAScスコア1点以上では,ワルファリンよりも新規経口抗凝固薬が最善の選択肢と位置付けられた。
米国胸部医学会(ACCP)脳卒中予防ガイドライン8)もESCの部分的アップデートと同様に,ビタミンK拮抗薬よりも新規経口抗凝固薬(ガイドライン発表時に承認されていたのはダビガトランのみ)を推奨している。また,2011年の米国心臓病学会財団(ACCF)/米国心臓協会(AHA)/米国不整脈学会(HRS)部分的アップデート9)でも,発表当時唯一承認されていたダビガトランをワルファリンの有用な代替薬としている。ただし,より保守的なアプローチが採用されており,ダビガトランは1日2回投与であること,非出血性有害事象のリスクが大きいことなどから,PT-INRが良好にコントロールされている場合は,ワルファリンから切り替えるメリットは小さいとしている。
●ワルファリンと新規経口抗凝固薬の使い分け
19ヵ国の心房細動患者10,607例を対象としたGARFIELD registry10)では,抗凝固療法の実施率は,全体でも60.3%にとどまっていた。CHADS2スコア2点以上の血栓塞栓症の高リスク患者に限っても抗凝固療法実施率が低かった。今後,より多くの患者が適切な抗凝固療法を受けられるよう,新規抗凝固薬の普及を含めた更なる改善が求められる。
ワルファリンは前述のようにいくつかの問題点を抱えており,新規経口抗凝固薬はワルファリンの代替薬として有用であるものの,機械弁患者,妊婦,重篤な腎障害患者(クレアチニンクリアランス[CrCl]<30mL/分)などでは,ワルファリンが好ましいと考えられる。また,コストが問題となる場合や,PT-INR値を自分で把握したいという患者もワルファリンの適応となる。
Hylek氏は新規経口抗凝固薬について,実地臨床でより効果的に用いるポイントとして「アドヒアランスがよい患者の選択,CrClに応じた用量選択と投与後も定期的な腎機能評価,適切な来院間隔の設定,厳格な血圧コントロール,やむを得ない理由がある場合を除き抗血小板薬の併用は避ける,添付文書上で避けるように記載されている併用薬の確認」などをあげた。
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