福田信之氏(富山県済生会富山病院) |
非循環器内科医外来では,循環器内科医外来にくらべ抗凝固療法を受けている心房細動患者が少なく,抗血小板薬のみの治療が多い——第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で15日に行われたポスターセッションにて,福田信之氏(富山県済生会富山病院)が報告した。
●背景・目的
高齢化にともない心房細動患者数は増加の一途をたどっており,2030年には100万人を超えると予測されている1)。現在,循環器内科医のみでは心房細動治療をカバーできなくなってきており,非循環器内科医がこれらの患者の治療にあたる例も少なくない。ワルファリン投与例では,定期的な凝固能検査と,それに基づく用量調節を行い,効果を維持するためtime in therapeutic range(TTR)を高める必要があるなどの課題があるが,非循環器内科医による抗血栓療法の実態は明らかになっていない。
そこで,当院外来通院中の心房細動患者における抗血栓療法を,循環器内科医外来通院患者と非循環器内科医外来通院患者とで比較し,TTRとイベント発症率の関係を1年間前向きに検討した。
●研究プロトコールと結果
対象は2011年4月の時点で心房細動と診断され,当院外来通院中の患者248例で,2012年3月までのイベント(脳卒中,全身性塞栓症,死亡,大出血)発症を追跡した。ワルファリン投与例については全例TTRの評価を行った。
全例における抗血栓療法の内訳は,ワルファリン単独またはワルファリン+抗血小板薬併用83%,アスピリン単独16%,クロピドグレル単独1%であった。ワルファリン投与は165例で,TTRは57.5%であった。
対象を循環器内科医外来通院患者(循環器内科医群211例,85%),非循環器内科医外来通院患者(非循環器内科医群37例,15%)に分けて治療内容を評価した。非循環器内科医の専門は,内科4人(消化器科2人,内分泌科1人,腎臓科1人),脳神経外科4人であった。
患者の平均年齢は循環器内科医群73歳および非循環器内科医群75歳,男性61%および53%,平均CHADS2スコア2.4および2.1などで,両群間に差異はみられなかった。抗血栓療法は,非循環器内科医群は循環器内科医群にくらべワルファリンが有意に少なく(p<0.05),抗血小板薬単独(p<0.01),抗血栓療法なし(p<0.05)が有意に多かった。ワルファリン投与例のTTRは,非循環器内科医群では38.5%と,循環器内科医群の58.0%よりも有意に低く(p<0.05),その結果,イベント発症率は非循環器内科医群では循環器内科医群とくらべ有意に高かった(15.8% vs 4.3%, p<0.05)。
1年間におけるイベント発症は12例(脳卒中9例,全身性塞栓症1例,死亡2例)で,抗血小板薬単独の症例では11.5%,TTR<62%の症例では8.6%,TTR≧62%の症例では3.8%であり,抗血小板薬単独群とTTR≧62%の高いTTR群との間で有意差が認められた(p<0.05)。
●結論
非循環器内科医の外来では抗凝固薬を投与されている患者は少なく,抗血小板薬単独投与や抗血栓薬を処方されていない患者が多かった。さらに,ワルファリンを投与されていてもTTRは低値であり,イベント発症率も高かった。また,抗血小板薬単独群ではTTR高値群にくらべイベント発症率が有意に高かった。
TTRと生命予後の関係を検討した報告によれば,TTRが低下するほど予後が悪く,TTR 70%以上を維持することが重要であることが示されている2)。そのため,ワルファリン投与例ではTTRを良好に維持する必要があるが,今回の検討から,実地臨床下では十分なコントロールが行われていない現状が明らかになった。今後,処方医や症例に応じて,新たな治療選択肢である直接トロンビン阻害薬や第Xa因子阻害薬の使用も考慮する必要がある。
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