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第77回日本循環器学会学術集会(JCS 2013) 2013年3月15〜17日,横浜
新規経口抗凝固薬の考え方−適正使用のために−
2013.3.28
後藤信哉氏
後藤信哉氏(東海大学循環器内科)

新規経口抗凝固薬の使用にあたっては,ワルファリンとの違いを理解すること,「エビデンス」と「実臨床での個別患者」との間の定量的差異の有無について,十分な情報を集積することが重要——第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で17日に開催された「教育セッションIII 新しい抗凝固薬の臨床」から,後藤信哉氏(東海大学循環器内科)の発表「新規経口抗凝固薬の考え方」を紹介する。

●抗血小板薬と抗凝固薬の違い

心房細動患者における脳卒中予防に新規経口抗凝固薬をどう使うかについては,アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬をどのように使ってきたかを振り返ることが参考になる。血小板は活性化経路が複数あり,抗血小板薬はいずれも1つの経路のみを阻害するため,ベネフィットもリスクも小さい。すなわち,抗血小板薬による血栓イベント発症予防効果は25%程度にすぎず,頭蓋内出血など重篤な出血合併症は1.6倍に増えるものの,絶対リスクの増加は許容範囲内である場合が多い1)。そのため,抗血小板薬はややもすると雑駁に使用されてきたともいえる。

しかし,凝固系は血小板と異なり,活性化経路は1つのみである。ワルファリンはその1つしかない活性化経路のなかの複数の凝固因子(II,VII,IX,X)の生成を阻害する。すなわち,ワルファリン服用中では凝固因子の量そのものが減少すると理解できる。さらに,ビタミンKは凝固因子の細胞膜への接着に必須の役割を担っていることから,ワルファリン服用中では,凝固因子の細胞膜への結合もできない状態となる。血液凝固反応が血小板膜上などの細胞膜上で起こることを考えると,凝固因子生成抑制効果以上の強力な抗凝固作用が期待できる一方,出血リスクも増大する。

さらに,ワルファリンの抗凝固作用は併用薬剤や食事内容などの外的要因により大きな影響を受けるほか,個人差が大きい。したがって,ワルファリンを使用する際は,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を用い,個別の患者にあわせて最適な強度を保つ必要がある。ただし,PT測定の試薬が複数あるなど測定法の要因もあることから,PT-INRはばらつきが大きく,得られた測定値は信頼性が高いとは必ずしもいえない。

●新規経口抗凝固薬の特徴

新規経口抗凝固薬は上述のワルファリン特有の問題を解決すべく登場した。選択肢が増えたことは歓迎すべきであるが,使用にあたってはワルファリンとの違いを認識する必要がある。新規経口抗凝固薬は,凝固因子の酵素活性を可逆的,選択的に阻害するのが特徴であり,凝固因子の量自体は減少しない。モニタリングは不要とされており,使用するうえでの拠り所は過去の臨床試験の結果(エビデンス)のみとなる。しかし,エビデンスとは人為的に決められた「一定の性質を有する患者集団」に対して,対照には標準治療とプラセボのどちらかを選択するなど,恣意的な選択を重ねたうえで得られたものであることに留意しなければならない。

たとえば,新規抗凝固薬の試験において,日本人患者に対し,対照となるワルファリン群の目標PT-INRは,ダビガトラン2)とアピキサバン3)の試験では70歳未満は2.0〜3.0,70歳以上は2.0〜2.6,リバーロキサバン4)では日本のガイドラインに準じて70歳未満は2.0〜3.0,70歳以上は1.6〜2.6と,薬剤間で若干異なっていた。PT-INRの目標域が1.6〜2.0前後が大半である現在の日本のワルファリン療法と比較して,果たしてエビデンスと同様の結果が得られるのかについては不明である。仮説検証試験のエビデンスを自分の大切な個別患者に適応するに十分なエビデンスがあるといえるかについては,疑問が残るところである。

日本人は一般に欧米人よりも体格が小さい。一方で,新規経口抗凝固薬のエビデンスのほとんどは「世界の標準的な心房細動症例」を対象として検証された仮説である。この仮説が,日本の一般的な症例に適用できるのかについては,十分な情報はない。臨床家が,この迷いを払拭するためには,公表された「エビデンス」と「個別患者」の定量的差異の有無について,十分な情報を集積することが重要となる。後藤氏は新規経口抗凝固薬の課題について,「発売からまだ間もなく,エビデンスはあるものの経験の蓄積はまだこれからであり,時の評価という高いハードルがある。今はまだスターティングポイントにあり,情報を共有しながら前に進みたい」と統括した。

文献
  1. Antithrombotic Trialists' Collaboration. Collaborative meta-analysis of randomised trials of antiplatelet therapy for prevention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients. BMJ 2002; 324: 71-86.
  2. Connolly SJ, et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-51. [構造化抄録
  3. Patel MR, et al. Rivaroxaban versus Warfarin in Nonvalvular Atrial Fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91. [構造化抄録
  4. Granger CB, et al. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-92. [構造化抄録

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