庭野慎一氏(北里大学) |
新規経口抗凝固薬の周術期管理は,出血リスクが少ない処置では投与は中止しない,出血リスクを考慮する場合では,各薬剤の特性を考慮して,休薬期間を設定——第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で17日に開催された「教育セッションIII 新しい抗凝固薬の臨床」から,庭野慎一氏(北里大学)の発表「周術期・大出血時の対策」について紹介する。
●新規経口抗凝固薬の出血リスク
新規経口抗凝固薬の臨床試験であるRE-LY1)(ダビガトラン),ROCKET AF2),J-ROCKET AF3)(リバーロキサバン)によれば,いずれの薬剤も出血性合併症はワルファリンにくらべ同程度もしくは抑制されており,特に頭蓋内出血に関しては有意に頻度が少ない,あるいは半数であった。しかし,ダビガトランに関しては,高齢者ではワルファリンのほうが有利であるというデータも報告されている4)。新規経口抗凝固薬の使用にあたっては,出血リスクがゼロになったわけではないことを念頭におき,リスクの高い患者に注意する必要がある。
●出血予防のための出血リスク評価と管理
頭蓋内出血の発症リスクには喫煙,高血圧,アルコール,脳内出血の既往,肝炎・肝硬変,高齢,脳梗塞の既往など5),血腫増大のリスク因子には高血圧および高血糖など6, 7),多数の因子があげられている。実地臨床において出血リスクの高い患者を効率的にスクリーニングするには,HAS-BLEDスコア8)が有用と考えられる。同スコアは高血圧,腎・肝機能異常,脳卒中既往,出血の既往または傾向,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)不安定,>65歳,薬物・アルコール乱用を1点または2点として算出するもので,3点以上を出血高リスクとしている。
上述の出血リスクのなかで,血圧,禁煙,アルコール摂取,糖尿病患者における血糖コントロールは介入が可能である。なかでも血圧は重要である。抗血小板薬またはワルファリンを投与されている脳・心血管疾患既往例を対象としたBAT研究のサブ解析9)では,頭蓋内出血発現例は非発現例にくらべ,試験期間を通じて収縮期血圧が高かった。さらに頭蓋内出血の発現率は,直近の血圧値が高いほど直線的に増加することが示されており,抗凝固療法中の厳格な降圧の重要性が示唆されている。
●出血時の対応
2012年の欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン10)では,出血発生時は血行動態,基本的な凝固能検査(活性化部分トロンボプラスチン時間[APTT]:ダビガトラン,PTまたは抗Xa活性:リバーロキサバン),腎機能などを確認した後の対応を3段階にわけて記載している。
小出血では抗凝固薬の次回投与を遅らせるかまたは中止,中等度〜重度の出血では機械的圧迫や補液,服用直後の場合は経口活性炭*の使用としている。さらに,生命に関わる重度の出血では,遺伝子組換え活性型第VII因子製剤またはプロトロンビン複合体(PCC)投与の考慮,活性炭濾過*や血液透析*が推奨される(*:ダビガトラン使用時)。
新規経口抗凝固薬は代謝が速く,リバーロキサバンの血漿中濃度推定予測推移の解析では,投与から5〜13時間後には血漿中濃度は半減していた。すなわち,薬剤の投与中止自体がワルファリンでのビタミンK投与に匹敵する効果をもたらす。またPCCに関しては,健康成人を対象とした臨床試験において,リバーロキサバンではPCC投与後約15分でPT延長が是正されたが,ダビガトランではAPTTの延長の速やかな正常化はみられなかったことが報告されている11)。
●周術期の薬物管理
周術期の薬物管理では,必要に応じて薬物の中止が必要となる。ワルファリンの場合は4〜5日前からの投与中止が必要とされていたが,新規経口抗凝固薬は代謝が比較的速く,各薬剤の特性に応じて,通常は24時間前となるが,薬剤によっては出血リスクや腎機能に応じて, 2〜4日前の投与中止となる。
なお,抜歯や白内障手術,内視鏡検査(生検を除く)など出血リスクが少ないあるいは止血が確認できる処置では,ワルファリンと同様に投与を中止しなくてよい。出血リスクを考慮する場合には,リバーロキサバンでは24時間前に中止すればよい。ダビガトランでは,腎機能や出血リスクに応じて1〜4日前に投与を中止する。なお,肺静脈隔離術のアブレーションなど,処置時の血栓形成と出血性合併症という相反するリスクを考慮する場合については,エビデンスが少ないため,今後の検討が必要である。
術後は,止血が確認できればただちに抗凝固薬の投与を再開する。その効果は2〜5時間後から期待できる。内視鏡手術や生検などで止血が確認できない場合は,慎重な再開が必要である。
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