芦川直也氏(医療法人澄心会岐阜ハートセンター) |
低腎機能例,高齢,CHADS2スコア高値の患者は出血リスク増大例と考え,十分な服薬指導とともに,出血時に自己判断で中断や減量する症例もあることから,随時相談可能な体制も重要——第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で16日に「コメディカルシンポジウム1 循環器疾患患者への服薬指導・服薬管理」が開催された。芦川直也氏(医療法人澄心会岐阜ハートセンター)の発表「薬物の特徴に応じた有害事象回避のための服薬指導」のうち,新規経口抗凝固薬に関する内容を紹介する。
●薬剤性有害事象を回避するために
循環器疾患患者は高齢者が多く,服薬指導をしても十分に理解できないことや,有害事象発生時に適切な対処ができないことも多い。当院では,大規模臨床試験における有害事象の発生状況や製薬企業からの情報,さらに院内の全例調査結果を活用することにより,服薬指導の内容を重要項目に絞り込む,有害事象リスクの高い患者を明確にして指導を徹底する,といった理解度向上のための活動に取り組んでいる。また,有害事象を回避するため,院内スタッフにむけた積極的な情報提供や投与法の検討も行っている。今回は,当院における全例調査の結果を報告する。
●ダビガトラン
1. 有害事象
対象は2011年3月〜2012年3月におけるダビガトラン投与患者全例(163例,平均68.4歳)である。有害事象は55例(33.7%)に発症し,このうち出血性有害事象が24例(14.7%),上部消化管症状が29例(17.8%)であった。大出血(ヘモグロビン2g/dL以上低下)は1例のみで,他は小出血(皮下出血12例,下血・血便5例,血尿・尿潜血5例,結膜出血3例,不正出血1例)であった。
出血性有害事象および上部消化管症状のリスク因子について解析を行ったところ,高齢(70歳以上),腎機能障害(クレアチニンクリアランス[CLcr]<50mL/分),女性,CHADS2スコア2点以上が浮かび上がった。
次に活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)と出血性有害事象との関係について検討した。ダビガトラン第III相試験RE-LY 1)の結果から,ダビガトラン群ではトラフ時(Cmin)におけるAPTT≧80秒の場合に大出血発症率が高かったとされているが,大出血の頻度はCminのAPTT≧80秒群では5.1%,<80秒群では3.4%と,両群間に大きな差はなかった。この値はRE-LYでのワルファリン群における大出血の頻度3.57%/年と比較しても大差がないと考えられることから,APTT値に応じて減量などの対応をする場合,日本人でのカットオフ値はさらに低値が妥当ではないかと考えた。
そこで,当院のダビガトラン投与患者で最高血中濃度(Cmax)におけるAPTT値を測定した30例のうち,出血発症例(6例)を非発症例(24例)と比較したところ,年齢,CLcr,CHADS2スコアに有意差はなかったが,CmaxにおけるAPTTは54.1±3.3秒で,非発症例(43.6±9.8秒)にくらべ延長していた(p=0.018)。また,Cmax APTT≧60秒の症例は出血発現率が有意に高かったが(p=0.018),限られた症例数における検討であり,かつ小出血のみの解析であることから,安易な投与量の減量により,逆に有効性を損ねかねないことも鑑み,現時点で当院ではCmax APTT≧60秒で要注意,≧70秒で減量,≧80秒で投与中止としている。
2. 投与開始時の対応
まずCLcr≧30mL/分であること,さらに<50mL/分の症例は投与量が220mg/日であることを確認する。そのうえで全症例に,消化管出血の早期発見のために血便・黒色便が出ていないか毎回確認し,上部消化管症状の発現予防のために少ない水分量での内服を避けるよう説明する。さらに,CLcr<50mL/分,70歳以上,女性,CHADS2スコア2点以上の副作用発現リスク増大例と考えられる症例に対しては,便秘をするようであれば排便コントロールをはかり,出血など何か気になることがあれば病院に連絡することも説明する。患者本人の理解度が不十分であれば,家族にも説明をしている。
●リバーロキサバン
1.有害事象
対象は2012年4月〜2013年1月におけるリバーロキサバン投与患者全例(51例,平均年齢72.8歳)である。有害事象は6例(11.8%)に発症し,すべて出血性有害事象(大出血[ヘモグロビン2g/dL以上低下]3例,小出血[鼻出血,口腔内出血,血尿]3例)であった。
大出血が発症した3例は80歳前後といずれも高齢で,CLcr<30mL/分,CHADS2スコア4点以上と高リスクであった点が共通していた。1例ではクラリスロマイシンおよびヘパリンを併用,他の2例は抗血小板薬を併用し,うち1例は過去にワルファリンで下血を経験した症例であった。
出血性有害事象とリスク因子との関連では,51例中12例がCLcr<30mL/分に投与されており,うち3例(25%)において大出血を認めたこと,かつ抗血小板剤を併用していた2例がともに大出血を生じたことから,これらの因子が留意点と考えられた。
次に,出血性有害事象とCmin,Cmax時点でのプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)の関係をみたところ,Cmin時のPT-INRについては,腎機能の影響を受けている傾向はみられなかった。しかしCmax時のPT-INRについては,CLcr<30mL/分の症例では≧30mL/分の症例にくらべて上昇している症例が数例みられ,CLcr<50mL/分の場合の投与量である10mg/日投与であっても,血中濃度が異常高値を呈している可能性が示唆された。また,大出血が発症したクラリスロマイシン併用例では,CmaxでのPT-INRが4.55と高値であった。今回の調査では大出血とPT-INRの関連は明らかにならなかったが,現時点で,当院ではPT-INRが3を大きく超える症例ではワルファリンに切り替えるか,投与を中止している。
2. 投与開始時の対応
まずCLcr≧15mL/分であること,<50mL/分の症例は投与量が10mg/日であることを確認する。全症例に血便・黒色便が出ていないか毎回確認し,アゾール系抗真菌薬に加え,当院では大出血の事例があったことから,エリスロマイシンおよびクラリスロマイシンとの併用を避けるよう説明している。さらにCLcr<30mL/分の症例,なかでも高齢の抗血小板薬併用例は出血リスク増大例と考え服薬指導をする必要があり,便秘をするようであれば排便コントロールをはかり,出血など何か気になることがあれば病院に連絡することも説明している。患者本人の理解度が不十分であれば家族にも説明し,抗血小板薬を併用している場合はその必要性を担当医に確認している。
●新規経口抗凝固薬の投与における課題
投与例の一部で小出血発症時に自己の判断で中断または減量する症例がみられたことから,随時相談可能な連絡先を患者に伝える必要があると考えられた。当院ではまず薬局に電話するよう伝えており,薬剤師で対応不可能な場合は担当医が対応するようにしている。また,腎機能が経時的に低下し,投与禁忌に該当する症例がみられたことから,新規経口抗凝固薬投与例では定期的なCLcrの確認が必要である。
▲TOP |