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第77回日本循環器学会学術集会(JCS 2013) 2013年3月15〜17日,横浜
カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン
−心房細動例における周術期管理を中心に−
2013.4.19
高橋 淳氏
高橋 淳氏(横須賀共済病院循環器内科)

2012年,日本循環器学会の『カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン』が発表された。なかでも重点がおかれた心房細動アブレーションは,ほかのアブレーションにくらべて合併症のリスクが高く,抗凝固療法をはじめとした周術期管理がきわめて重要となる。

ここでは,第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で17日に行われた日本循環器学会委員会セッション「ガイドライン解説1 カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」での高橋淳氏(横須賀共済病院循環器内科)の発表について,とくに抗凝固療法に焦点をあてて紹介する。

●術前検査・管理

心房細動のアブレーションにおける術前検査・管理は,心電図検査,経胸壁心エコー,経食道心エコー(TEE),心臓CT検査,抗凝固療法を行う。TEEは左心耳・左房内の血栓の有無,左房機能および卵円孔開存の有無を確認するために重要であり,とくに48時間以上持続する心房細動において必要となる。TEEで心内血栓が確認された場合,アブレーションは禁忌となる。

左房アブレーションにおいて血栓塞栓症は最も重篤な合併症の1つであり,そのリスクを軽減するため,抗凝固療法はきわめて重要である。現状ではアブレーション周術期の抗凝固療法に関するエビデンスは少ないが,本ガイドラインでは班員・協力員のコンセンサスを得て,推奨内容が決定された。術前の抗凝固療法は可能な限り継続すること,経口抗凝固薬中断時はヘパリン投与に切り替えることの2点が基本となる。なお,持続性心房細動患者およびCHADS2スコア2点以上の高リスク患者では,ワルファリンによる術前抗凝固療法を3週間以上行うことが望ましい。

[ワルファリン]
術前にワルファリンを中断する場合は,アブレーションの2〜5日前にヘパリンの持続点滴に切り替え,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)をコントロール時の1.5〜2倍として,ヘパリン点滴を継続のままアブレーションを行うか,もしくは4〜5時間前に中断し,心房中隔穿刺後に再開する。

最近,ワルファリンを継続したままアブレーションを行うほうが血栓塞栓症予防に有効であったとする報告もある。継続したまま行う場合は,術前のヘパリン点滴は不要となり,開始時,あるいは少なくとも心房中隔穿刺直後よりヘパリンの点滴を開始する。

[新規経口抗凝固薬]
ダビガトラン服用例は腎機能を参考にしてアブレーションの1〜2日前に中断する。必要に応じてヘパリン点滴(APTT 1.5〜2倍)に切り替える。リバーロキサバン服用例も同様に対処することが可能と考えられるが,確認を要する。

なお,抗血小板薬併用例はアブレーションの4〜5日前から中止するのが望ましい。

●術中の管理

術中は抗凝固療法,鎮痛・鎮静,食道走行の確認,食道温モニターを行う。アブレーション中のヘパリン投与は必須である。遅くとも心房中隔穿刺直後から開始し,活性化凝固時間(ACT)は300〜400秒に維持することを推奨する。

●術後の抗凝固療法

術後は抗凝固療法のほか,アブレーション後の再発検知のための心電図検査(12誘導心電図,Holter心電図,携帯型心電図)や再アブレーションの要否検討を行う。

抗凝固療法に関しては,術後に出血性合併症がないことが確認されれば,ただちに内服を開始する。なお,ワルファリン継続下にアブレーションが施行されていない場合には,効果発現まではヘパリン投与を継続する。ヘパリンは安静解除時から開始することが望ましい。

術後の抗凝固療法は,少なくとも3ヵ月は継続することが望ましい。CHADS2スコア2点以上の患者では心房細動の再発を考慮し,それ以降も継続することが望ましい。

●アブレーションにともなう合併症とその対策

心房細動アブレーションにともなう重篤な合併症には,心タンポナーデ,食道関連合併症,血栓塞栓症,肺静脈狭窄,横隔神経麻痺,周術期死亡などがあげられる。この中でも最も頻度が高いのが心タンポナーデで,Worldwide surveyや日本不整脈学会のアンケート調査の結果から1.28%とされている1)。原因は,カテーテル操作,過度な焼灼や心房内中隔穿刺などによる。血圧低下を認めることが多く,診断が遅れると致命的となる場合があるため,術中の血圧モニターが重要である。

血栓塞栓症は0.1〜2.8%,脳梗塞では0.27%と報告されている。カテーテルシースの血栓形成,アブレーションカテーテル電極への凝血塊付着,アブレーション部位の血栓形成,左房内既存血栓の遊離などが原因とされる。多くは術後24時間以内に発生し,広範な脳梗塞が生じた場合は周術期死亡の原因にもなる。予防としての抗凝固療法がきわめて重要となる。

文献
  1. 日本循環器学会.カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン. http://www.j-circ.or.jp/guideline

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