![]() 藤本一眞氏(佐賀大学医学部内科学) |
2012年,日本消化器内視鏡学会(JGES)の「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」が発表された。これまでのガイドラインでは,内視鏡施行時は出血のリスクを重視し抗血栓薬の休薬を行うとされていたが,本ガイドラインでは,休薬による血栓塞栓症の発症リスクを考慮することに重点がおかれた。内視鏡検査・治療を出血リスクで分類し,さらに治療ごとに抗血栓薬の服用状況を分類することで,休薬をしなくても施行可能な処置を明確にしている。
ここでは,第77回日本循環器学会学術集会(3月15日〜17日,パシフィコ横浜)で15日に行われたミート・ザ・エキスパート3「関連学会のガイドラインに学ぶI」での藤本一眞氏(佐賀大学医学部内科学)の発表内容を紹介する。
●抗血栓薬休薬時の血栓塞栓症発症リスク
現在,日本では抗血小板薬が多くの患者に使用されており,売上数も年々増加している。脳心血管疾患の高リスク患者では,低用量アスピリンによって心血管イベントの発症リスクは約3/4程度にまで抑制されるが1),アスピリン未投与あるいは中断した患者では,主要心血管イベント発症リスクが約3倍上昇する2, 3)。また,心房細動患者において内視鏡検査時にワルファリンを中止または減量した場合,患者が本来有している凝固亢進状態に戻ることで,脳梗塞が起こる頻度は1.06%と報告されている4)。
●抗血栓薬単剤投与の患者に休薬は必要か
抗血小板薬による出血のリスクをみると,アスピリン服用者では上部消化管出血のリスクが上昇するうえ5),剤型・用量にかかわらず消化性潰瘍の発症リスクが増加するとの報告がある6)。また,低用量アスピリンに起因する出血性潰瘍患者は近年増加傾向にある7)。しかし,内視鏡処置時,とくに内視鏡的粘膜生検を行う際にアスピリンが消化管出血のリスクを上昇させるかどうかについて明確なエビデンスはない。海外のデータでは,低用量アスピリンと抗血栓薬の2剤を併用した場合は上部消化管出血リスクが大幅に上昇すると示されているものの,アスピリン単剤投与における出血リスクについての検証は十分でない8)。
このような背景から,休薬による血栓塞栓症のリスクを考慮したうえで,消化器内視鏡施行時の休薬の必要性をより明確にするべきとの議論がなされてきた。そこでJGESが中心となり,日本神経学会,日本脳卒中学会,日本血栓止血学会,日本糖尿病学会,日本循環器学会の5学会と合同で本ガイドラインが作成された。
●消化器内視鏡の出血リスクと休薬による血栓塞栓症リスク
本ガイドラインでは,消化器内視鏡を出血リスクによって,通常の消化器内視鏡,内視鏡的粘膜生検,出血低危険度の消化器内視鏡,出血高危険度の消化器内視鏡の4つのカテゴリーに分類。さらに,休薬による血栓塞栓症発症の高リスク群を分類し,抗血小板薬の服用者では,冠動脈ステント留置後2ヵ月以内や冠動脈薬剤溶出性ステント留置後12ヵ月以内の患者などを,抗凝固薬服用者では,心原性脳塞栓症の既往や弁膜症を合併した心房細動,弁膜症を合併していないが脳卒中高リスクの心房細動患者などを高リスク群とした。
なお,抗凝固療法中の休薬にともなう血栓塞栓症のリスクはさまざまであるが,一度血栓塞栓症を発症すると重篤である場合が多い。そのため,抗凝固薬による治療中の患者は,全例を高リスクとして対応することが望ましいとしている。
●消化器内視鏡治療における休薬と服薬の再開
内視鏡治療時の出血リスクと抗血栓薬の休薬に関するエビデンスはきわめて少ない。そのため本ガイドラインでは,アンケート調査をもとに多専門家グループなどがもつ直観的意見や経験的判断を集約・洗練する技法であるDelphi法を用い,本ガイドラインを発表した。
1. 通常の消化器内視鏡
抗血小板薬,抗凝固薬のいずれも休薬せず施行可能。
2. 内視鏡的粘膜生検
抗血小板薬,抗凝固薬のいずれか1剤を服用している場合は休薬せず施行可能。ワルファリンの場合はプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が通常の治療域であることを確認する。2剤以上を併用している場合は症例に応じて慎重に対応する。
3. 出血低リスクの消化器内視鏡(バルーン内視鏡,マーキング,消化管/膵管/胆管ステント留置など)
抗血小板薬,抗凝固薬のいずれか1剤を服用している場合は休薬せず施行可能。ワルファリンの場合はPT-INRが通常の治療域であることを確認する。
4. 出血高リスクの消化器内視鏡(ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術など)
抗血小板薬,抗凝固薬の服用状況によって,以下の内容を推奨する。
5. 抗血栓薬休薬後の服薬開始
内視鏡で止血が確認できた時点から,それまで投与していた抗血栓薬を再開する。
藤本氏は,本ガイドラインの記載内容のほとんどが臨床経験にもとづくもので,臨床のエビデンスに乏しいことを指摘。とくに新規抗凝固薬に関しては,使用経験が浅く,たとえばダビガトランでは24〜48時間前の投与中止としているが,出血リスクや腎機能によって休薬期間も異なる。また,リバーロキサバンなどの第Xa因子阻害薬については,発売前の時点での情報にもとづき作成されたことから,本ガイドラインでは十分に反映されていないこともふまえ,「ガイドラインを検証することがエビデンスの構築につながる。今後,JGESが中心となり,他学会の協力も得つつエビデンスを構築していきたい」と講演を結んだ。
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