泉 学氏(済生会宇都宮病院) |
日本人の脳卒中発症率は欧米と同程度だが,日本人は脳出血およびクモ膜下出血が多いなど,脳卒中の発症様式や病理学的特徴は欧米とは明らかに異なる−2013年3月15〜17日に開催された第77回日本循環器学会学術集会で,泉学氏(済生会宇都宮病院),鈴木一夫氏(秋田県立脳血管研究センター)が17日の一般口述セッション「Cerebrovascular Circulation/Stroke」にて報告した。
●背景・目的
米国心臓協会の報告1)によれば,日本人は心血管疾患による死亡率が低いかわりに,脳卒中による死亡率が高いとされており,また,日本からも脳卒中の発症様式は西洋と異なるとの報告がある2)。Akita Stroke Registryは1983年に開始された秋田県全域をカバーする登録研究で,県内の42施設が参加している。OECDヘルスデータ2012によれば,日本でのMRIやCT普及率は,諸外国とくらべて圧倒的に高いことが報告されている。このような画像装置の普及率の高さを背景にして,脳卒中に関する画像データを豊富に蓄積し,詳細な情報を得ることができるのは,日本におけるregistryだけと思われる。今回は本研究のデータを用い,日本における脳卒中の病理学的・解剖学的特徴を詳細に検討し,欧米との比較を行った。
●方法・結果
対象は1995〜2004年に登録した初発の脳卒中患者28,781例(脳梗塞18,018例[62%],脳出血7,423例[26%],クモ膜下出血3,340例[12%])である。脳卒中の診断は,WHO MONICAの脳卒中診断基準に従った。5年刻みで年齢別に発症率を算出し,全年齢を対象とした病型別の発症率をヨーロッパ標準人口で年齢補正を行い比較した。脳出血と脳梗塞は,男性において高い発症率を示し,しかも年齢の上昇にともなって増加を示したが,女性はクモ膜下出血が高い傾向を示した。
40〜84歳の患者集団における脳卒中発症率は,ヨーロッパ標準人口にあわせると339/100,000人で,欧米の報告(306〜370/100,000人)3〜7)とほぼ同程度であった。しかし,病型別の内訳は較差がみられ,脳梗塞はヨーロッパの79〜86%に対し日本は59%と低く,脳出血は9〜16%に対し28%,クモ膜下出血は4〜6%に対し13%と,それぞれおよそ2倍程度高い傾向がみられた。
脳卒中発症率の特徴について,病理学的部位別に検討を行った。
脳梗塞:内訳は皮質下梗塞6,121例(34%),ラクナ梗塞5,347例(30%),テント下梗塞2,703例(15%)であった。男性は女性にくらべ発症率が高く,とくに皮質下梗塞発症率は加齢にともない急激に上昇した。
脳出血:内訳は視床出血2,251例(36%),被殻出血1,379例(22%),皮質下出血1,204例(19%)であった。視床出血および皮質下出血は男女とも加齢につれ上昇傾向がみられたが,被殻出血は女性では加齢にしたがい上昇したのに対し,男性では60歳代で最高となり,その後は横ばいであった。
クモ膜下出血:責任病変別の内訳は内頸動脈818例(25%),前交通動脈809例(24%),中大脳動脈779例(23%)であった。女性は男性にくらべ発症率が高かった。責任病変は明らかに性差が認められ,女性では内頸動脈,男性では前交通動脈が多かった。女性の発症率は加齢にともない線形的に上昇したが,男性では60歳以上ではむしろ横ばいから減少傾向がみられた。
●結論
脳梗塞の発症率は女性より男性で高く,とくに加齢に伴い皮質下梗塞の発症率が上昇したが,これは心原性脳梗塞などによるものと考えられた。脳卒中の発症率自体は,欧米諸国と大差はなかったが,その発症様式は異なり,日本人では脳出血の割合が28%と欧米諸国の15%程度とくらべて有意に高かった。この要因として,日本人では高血圧や低コレステロール血症の割合が高いことが関与しているかもしれない。
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