中村麻子氏(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学) |
ワルファリン内服中に心原性脳塞栓症を発症した場合,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が1.5未満の患者では発症時の神経学的重症度が高く,退院時機能予後も不良——第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われた一般口演「抗凝固療法1」にて,中村麻子氏(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学)が報告した。
●背景・目的
心原性脳塞栓症は脳梗塞のなかでも重症度が高く,発症すると重度の後遺障害や死亡に至るリスクが高いため,予防が重要となる。ワルファリンによる予防はきわめて有効であり1),PT-INRが治療域内にあれば血栓が形成されにくくなること2〜7),たとえ脳梗塞が発症しても,血栓自体が壊れやすく,再開通しやすい可能性があることから,神経学的重症度や機能予後は比較的良好と考えられる。心房細動にともなう脳梗塞発症患者を対象として発症時の抗血栓療法の有無,その重症度や機能予後を検討した報告はいくつかあるものの5, 8〜10),ワルファリン服用患者のみを対象とした検討はほとんど行われていない。
福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry:FSR)は,急性期脳卒中患者の病態分析と病因解明を行い,治療のエビデンスを構築することを目的とした,福岡県の8施設による登録研究である。今回は,FSR登録データを用い,脳梗塞発症時のワルファリン療法の強度と神経学的重症度(National Institute of Health stroke scale:NIHSS)および退院時の機能予後(modified Rankin Score:mRS)の関連について,検討を行った。
●対象
1999年6月〜2012年8月までに登録された,脳梗塞発症前のmRSが0〜1,発症から24時間以内の脳梗塞患者1,747例のうち,ワルファリン内服中に心原性脳塞栓症を発症した非弁膜症性心房細動患者387例を対象とした。
●結果
心原性脳塞栓症発症時のPT-INRは,1.5未満281例(73%),1.5以上2.0未満81例(21%),2.0以上25例(6%)であった。背景因子を比較したところ,虚血性心疾患のみ有意差がみられたが(1.5以上2.0未満群27% vs. 2.0以上群8%,p<0.05),年齢,性別,高血圧などに有意差は認められなかった。
重症脳梗塞(NIHSS≧10)発症リスクについて,PT-INR 2.0以上群を参照として解析を行った。性別および年齢で調整した場合,1.5以上2.0未満群ではオッズ比(OR)1.74(95%CI 0.65-5.28,p=0.28)と同程度であったが,1.5未満群ではOR 3.03(95%CI 1.22-8.60,p=0.002)と上昇していた。多変量調整*でも同様に,1.5以上2.0未満群はOR 1.99(95%CI 0.72-6.21,p=0.19)と同程度であったが,1.5未満群はOR 3.04(95%CI 1.20-8.79,p=0.02)と有意に上昇していた。
(*:年齢,性別,高血圧症,糖尿病,陳旧性脳梗塞,発症前の抗血小板薬内服)
退院時機能予後不良(mRS≧4)リスクについて,PT-INR 2.0以上群を参照として解析を行った。性別および年齢で調整した場合,1.5以上2.0未満群ではOR 3.35(95%CI 1.01-15.3,p=0.048),1.5未満群ではOR 5.09(95%CI 1.66-22.2,p=0.003)といずれも上昇していた。多変量調整**では,1.5以上2.0未満群はOR 4.65(95%CI 0.91-31.5,p=0.07)と上昇傾向,1.5未満群ではOR 6.88(95%CI 1.50-42.7,p=0.01)と有意な上昇が認められた。
(**:調整因子:年齢,性別,高血圧症,糖尿病,陳旧性脳梗塞,発症前の抗血小板薬内服,発症時NIHSS,血栓溶解療法)
●結論
ワルファリン内服中の非弁膜症性心房細動にともなう心原性脳塞栓症患者では,約73%がPT-INRが1.5未満での発症であった。PT-INR1.5未満の場合は発症時の神経学的重症度が高く,退院時の機能予後が不良であった。心原性脳塞栓症発症予防における,至適治療域での十分な抗凝固管理の重要性が示唆された。
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