高橋 賢氏(岩手県立中央病院神経内科) |
脳梗塞発症前に非弁膜症性心房細動と診断されていた患者のうち,抗凝固療法が導入されていたのは約半数にすぎず,導入されていても適切にコントロールされていない症例が多かった——第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われた一般口演「抗凝固療法1」にて,高橋賢氏(岩手県立中央病院神経内科)が報告した。
●背景・目的
全国規模の登録研究であるJ-RHYTHM Registry 1)では,対象となった心房細動患者の多くは循環器専門医が所属する病院でフォローアップされており,ワルファリン導入率は87.3%と高い。一方,京都南部地域を中心に行われている伏見心房細動患者登録研究(Fushimi AF Registry)2)では,プライマリケア医でフォローアップされている症例が多く,ワルファリン導入率は48.5%にとどまっている。そのため,より日本の地域医療全般の実態を反映しているのは後者と思われる。今回は,当院における非弁膜症性心房細動をともなう急性期脳梗塞患者について,入院前の抗凝固療法の状況を検討した。
●対象
2011年4月〜2012年3月に入院した,発症から7日以内の急性期脳梗塞患者のうち,非弁膜症性心房細動が確認された連続135例を対象とした。平均年齢は80.7歳,男性73例,女性62例で,心房細動の病型は発作性45例,慢性90例であった。リスク因子は高血圧78%,糖尿病19%,心不全の既往または左室内径短縮率25%未満26%,虚血性心疾患の既往14%,脳梗塞/一過性脳虚血発作の既往38%であった。
●ワルファリン投与率
入院前に抗凝固療法を受けていた患者は51例(38%)で,すべてワルファリンが投与されていた。このうち,入院時のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が治療域内にあったのは14例(27%)のみであった。
発症前に92例(68%)がかかりつけ医に心房細動と診断されていたが,抗凝固療法が導入されていたのは49例(53%)であった。ワルファリン導入率は,慢性心房細動患者(ワルファリン投与47%,非投与28%)は発作性心房細動患者(ワルファリン投与7%,非投与18%)にくらべ高かった(Fisher’s exact test p=0.0035)。また,脳虚血既往患者(ワルファリン投与34%,非投与13%)は既往のない患者(ワルファリン投与19%,非投与34%)にくらべ,導入率が高かった(p=0.0008)。年齢別の解析では有意な関連を認めなかった。
抗凝固療法を受けていた49例におけるCHADS2スコアは0点0%,1点6%,2点18%,3点18%,4点29%,5点29%であった。これに対し,抗凝固療法を受けていなかった43例では0点5%,1点16%,2点40%,3点21%,4点7%,5点9%,6点2%で,塞栓症リスクが高いとされる2点以上が79%を占めていた。
●結論
脳梗塞発症前に非弁膜症性心房細動と診断されていた患者のうち,抗凝固療法が導入されていたのは約半数にすぎず,導入されていても適切にコントロールされていない症例が多かった。脳卒中リスク評価を行ったうえでワルファリンによる厳密な管理を行うか,もしくは新規経口抗凝固薬の導入が必要である。
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