心原性脳塞栓症の発症前に約60%が抗凝固療法を受けていたが,そのうちの約80%はプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が非治療域——第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われたポスターセッション「抗凝固療法P2」にて,原靖幸氏(熊本赤十字病院神経内科)が報告した。
●背景・目的
抗凝固療法が適切に行われ,PT-INRが治療域内にコントロールされていれば,虚血性障害の範囲や梗塞サイズ,重症度は軽減するとされている1〜3)。今回は,心原性脳塞栓症発症前の抗凝固療法の実施状況を明らかにするとともに,抗凝固療法の強度と脳梗塞の重症度および退院時転帰との関連性を検討した。
●対象
対象は2009年4月〜2011年3月に入院した脳梗塞の連続症例1,026例のうち,発症前に非弁膜症性心房細動が確認されていた心原性脳塞栓症126例である。発症前のmodified Rankin Score(mRS)≧2は除外した。対象患者の平均年齢は78.9歳,男性は45.2%で,心房細動の病型は発作性9.5%,持続性90.5%であった。リスク因子は高血圧73.0%,糖尿病17.5%,うっ血性心不全15.9%,脳梗塞または一過性脳虚血発作の既往39.0%などであった。
●脳梗塞リスクと治療の関係
[抗血栓療法の状況別の解析]
入院前の抗血栓療法は抗凝固薬単独56.4%,抗凝固薬+抗血小板薬併用4.0%,抗血小板薬15.9%,投与なし23.8%で,抗凝固薬投与(単独および抗血小板薬併用)を受けていた症例のうち,PT-INRが治療域内(入院時のPT-INRが70歳未満は2.0〜3.0,70歳以上は1.6〜2.6)であったのは21.0%,非治療域(入院時のPT-INRが70歳未満は<2.0,70歳以上は<1.6)であったのは79.0%であった。
入院時の抗血栓療法の状況別に,ワルファリン未治療群(50例,抗血小板薬または投与なし),非治療域群(60例),治療域群(16例)の3群に分けて解析を行った。PT-INRは未治療群1.04±0.07,非治療域群1.30±0.21,治療域群2.16±0.71であった(p<0.001)。入院時のNational Institute of Health stroke scale(NIHSS)中央値(15,12.5,11.5),退院時の転帰良好(mRS 0〜1:36.1%,23.7%,27.3%),転帰不良(mRS 2〜6:63.9%,76.3%,72.7%)について,群間差は認められなかったが,未治療域群で,転帰がやや悪い傾向がみられた。
なお,ワルファリン未治療群50例での投与中止または非投与の理由は,「抗血小板薬で代用」が40%,「医師の判断で中止」が20.0%,「患者の判断で中止」が12.0%,「治療を拒否」が6.0%などであった。医師の判断での中止理由は手技・手術の施行,出血,アドヒアランス不良などで,出血性合併症を起こさないことをより重視する傾向,抗血小板薬で抗凝固薬の代用が可能という誤った認識がうかがわれた。
[CHADS2スコア別の解析]
CHADS2スコア別に低リスク群(0〜1点25例)および中・高リスク群(2〜6点101例)の2群に分けて解析を行った。入院時のPT-INRは低リスク群1.16±0.28で,中・高リスク群1.34±0.48にくらべ低かった(p=0.01)。入院時のNIHSS中央値(14および13),退院時の転帰良好(27.3%および28.6%),転帰不良(72.7%および71.4%)について,群間差は認められなかった。
●結論
心原性脳塞栓症の発症前に非弁膜症性心房細動が確認されていた症例の約60%は抗凝固療法を受けていたが,そのうち約80%はPT-INR治療域を下回っていた。今回,抗凝固療法の強度や塞栓症リスクと重症度や退院後の機能転帰との間には明らかな相関を認めなかったものの,心原性脳塞栓症は,いったん発症すると重症化はまぬがれない。ワルファリンコントロールの重要性を再認識し,コントロールが困難な場合は新規経口抗凝固薬への変更を検討することが必要である。
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