峰松一夫氏(国立循環器病研究センター) |
新規経口抗凝固薬の脳梗塞急性期における未解決の問題に対しては,日本も後れをとることなく,エビデンスを構築していかなければならない——第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われたシンポジウム5「抗血栓療法の進化(t-PA,抗血小板療法,抗凝固療法)」での峰松一夫氏(国立循環器病研究センター)の発表内容を紹介する。
●脳梗塞急性期における血栓溶解療法
日本の脳卒中治療ガイドライン20091)では,発症から3時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に対し,アルテプラーゼ(rtPA)が推奨された(グレードA)。その後,発症から4.5時間後までの治療のベネフィットが認められたことから2, 3),治療開始可能時間が延長され,4.5時間以内のrtPA静注が2012年8月に保険適応となった。日本脳卒中学会も,それと同時にrtPA静注療法の適正な施行に関する緊急声明を発表している。病院到着から少なくとも1時間以内に治療の適応を判定して,投与を開始するよう勧められていることから,脳梗塞発症から3.5時間以内に病院へ搬送されれば,rtPA静注が可能ということになる。
2012年10月には,パブリックコメントを募集したうえで適正治療指針の第2版4)も公開された。2013年3月現在,英訳版も作成中であり,海外にも広く知られるガイドラインになると期待されている。
●脳梗塞急性期における抗血小板療法
脳卒中ガイドライン20091)では,脳梗塞急性期の抗血小板療法としてアスピリンおよびオザグレル(グレードAおよびB)を推奨しているが,いずれも単独療法でのリスク低下率は小さい。そこで近年,脳梗塞急性期における抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)をアスピリン単独療法と比較した試験が実施されている。CHANCE5)では発症から24時間以内の軽症脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)患者の再発予防として,アスピリン単独療法とDAPT(アスピリン+クロピドグレル,22日目以降はクロピドグレル単独療法)の比較が行われた。その結果,DAPTでアスピリン単独療法にくらべ有意に脳卒中再発が抑制され,DAPTの有用性が期待されている。
●脳梗塞急性期における抗凝固療法
脳卒中ガイドライン20091)では,脳梗塞急性期の抗凝固療法としてアルガトロバンを推奨(グレードB),ヘパリンは使用を考慮してもよいが,十分な科学的根拠はないとしている(グレードC1)。現在,日本では非弁膜症性心房細動患者の脳梗塞および全身性塞栓症予防として,新規経口抗凝固薬のダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバンが使用可能であり,脳梗塞急性期におけるこれらの薬剤の有用性も期待されている。
2013年3月のStroke Therapy Academic Industry Roundtable(STAIR)VIIIで,脳卒中急性期治療における諸問題について議論が行われた。新規経口抗凝固薬の未解決の問題として,救急外来における抗凝固作用の強度を測定するマーカーの確立,新規経口抗凝固薬服用中患者への血栓溶解療法の可否,新規経口抗凝固薬の新規導入時期,急性期使用における有効性と安全性,服用中に発症した頭蓋内出血への対処法があげられた。海外ではこれらの課題を検討する試験がすでに計画されており,新たなエビデンスの集積が始まっている。峰松氏は,「日本も後れをとることがないようにしなければいけない」と講演を結んだ。
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