長尾毅彦氏(東京女子医科大学神経内科) |
経口抗凝固薬の選択においては,安全性,有効性,アドヒアランスの3つの指標を考慮して,いずれを重視するべきか,患者に応じて検討することが重要——ここでは,第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われたシンポジウム5「抗血栓療法の進化(t-PA,抗血小板療法,抗凝固療法)」での「抗凝固療法の進化」をテーマとした長尾毅彦氏(東京女子医科大学神経内科)の発表内容をとりあげる。
新規経口抗凝固薬はそれぞれワルファリンを対照とした第III相試験(ダビガトランはRE-LY1),リバーロキサバンはROCKET AF2)およびJ-ROCKET AF3),アピキサバンはARISTOTLE4))が行われ,主結果が公表されて以降,そのサブ解析が論文または学術集会で発表されている。ここでは,最近発表された解析結果を中心に紹介する。
●RE-LYサブ解析(ダビガトラン)
頭蓋内出血に焦点をあてたサブ解析5)では,頭蓋内出血154件のうち,重症度がとくに高い脳内出血は46%にすぎず,硬膜下血腫が45%,クモ膜下出血が8%であった。頭蓋内出血の独立予測因子はワルファリン群とダビガトラン群で異なっており,ワルファリン群では非白人が頭蓋内出血のリスク因子であったが,ダビガトラン群ではそのような人種による影響はみられなかった。
アジア人患者2,782例に関するサブ解析6)からは,アジア人集団におけるワルファリン群は全体的にプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を低くコントロールしている傾向が明らかになった。つまり,アジア人集団では,脳梗塞をおこしやすく,出血を起こしにくいワルファリン群との比較ともいえる。実際,ワルファリン群における脳卒中/全身性塞栓症の発症率は,日本人の解析7)と同様にアジア人では非アジア人にくらべ約2倍高いだけでなく,固定用量のダビガトラン110mg×2群でも高い傾向がみられた。非アジア人では3群ともに発症は低率であった。一方,頭蓋内出血のワルファリン群での発症率は,低めのコントロールにもかかわらず,非アジア人にくらべアジア人で約2倍高かったことから,アジア人の易出血傾向がうかがわれた。
その他,主結果においてダビガトラン群で有意な増加を示した消化管出血は,アジア人ではダビガトラン群で少なく,非アジア人の高用量群で多発していることがわかった。
●J-ROCKET AFサブ解析(リバーロキサバン)
J-ROCKET AFの年齢別のサブ解析8)では,重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象に関して,75歳未満ではリバーロキサバン群とワルファリン群は同程度であったが,75歳以上ではリバーロキサバン群のほうが多く,交互作用が認められた(p=0.042)。高齢者でも脳卒中または全身性塞栓症の発症は抑制できるものの,ベネフィットとリスクのバランスをとくに評価したうえで検討することが重要である。とくに,腎機能障害例では注意が必要である。
2012年10月に終了した市販直後調査では,約20,000例中150例の出血関連副作用が報告されたが,重篤な出血の約75%は投与開始後1ヵ月以内に集中していた。また,重篤な出血事象は高齢や低体重患者で多かったことから,このような患者へ投与する際は,細心の注意を払う必要があると考えられた。また,脳出血発症例で血圧管理が不十分であったことが明らかになっている。
●ARISTOTLEサブ解析(アピキサバン)
ARISTOTLEの年齢別のサブ解析9)では,脳卒中,死亡,出血,脳内出血のいずれの発症率も年齢とともに上昇していた。ARISTOTLEでは,対象患者の30%が65歳未満であったが,死亡率や脳卒中/全身性塞栓症発症について,アピキサバンの優越性は認められず,65〜75歳でもっともベネフィットが高かった。また,75歳以上であっても減量基準に抵触しない症例の安全性も確認された。アピキサバンでは65歳未満の患者に対する投与の是非が今後の課題であると考えられた。
●新規経口抗凝固薬をめぐるトピックス
最後に長尾氏は,
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