渡部洋一氏(福島赤十字病院脳神経外科) |
心原性脳塞栓症の再発予防において,新規経口抗凝固薬の有用性は高い——ここでは,第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で22日に行われたポスターセッション「抗凝固療法P1」での渡部洋一氏(福島赤十字病院脳神経外科)の発表内容を紹介する。
●背景・目的
心原性脳塞栓症は発症すると重症化することが多く,再発リスクも高い。そのため,出血リスクを考慮しつつ,抗凝固療法による再発予防を行うことが重要となる。今回は,非弁膜症性心房細動患者における心原性脳塞栓症二次予防における新規経口抗凝固薬(ダビガトラン,リバーロキサバン)の使用経験を報告する。
●対象と方法
対象患者の背景は以下の通りであった。
ダビガトラン投与:50例(うち男性33例),平均年齢73.4歳,クレアチニンクリアランス(CLcr,平均)66.5mL/分,投与量は300mg/日が17例,220mg/日が33例。
リバーロキサバン投与:30例(うち男性15例),平均年齢78.4歳,CLcr(平均)53.2mL/分,投与量は15mg/日が10例,10mg/日が20例。
両薬剤の投与量はCLcr,年齢などを考慮して調整した。観察期間は服用開始から50〜455日であった。
●aPTT,PTの変化
服用開始から約1週間後の活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT),プロトロンビン(PT)活性の変化(平均値)を検討した。
[ダビガトラン]
投与開始前のaPTTは29.7±3.9秒,投与後ピーク時47.0±9.3秒,トラフ時38.4±8.8秒で,投与開始時にくらべピーク時には1.6倍,トラフ時には1.3倍に延長し,ともに正常上限値より上回った。PT活性は投与開始前100.5±21.3%,ピーク時83.0±20.6%,トラフ時86.7±22.3%で,投与開始前とくらべやや低下したが,ともに正常域内であった。
[リバーロキサバン]
aPTTは投与開始前31.7±4.7秒,投与後ピーク時41.2±12.5秒,トラフ時32.3±4.6秒で,ピーク時には1.3倍に延長したが,トラフ時は投与前とほぼ同様の値であった。PT活性は投与開始前94.7±25%,61.1±21.0%,88.7±20.0%で,ピーク時には正常下限値よりも低下し,トラフ時には正常域内に回復した。
●副作用
副作用はダビガトランを投与した6例,リバーロキサバンで2例に認められたが,ほとんどが軽微であり,輸血や外科手術を要する重篤な出血は認められなかった。ダビガトランを投与した1例で,経過中にCLcrが30mL/分以下に低下したため,リバーロキサバンに切り替えた。
●新規経口抗凝固薬服用中にtPA静注療法を行い,その後自宅退院が可能となった症例
ダビガトラン投与例では心原性脳塞栓症の再発が2例認められたが,いずれもアドヒアランスの悪い症例であった。リバーロキサバンでは1例認められた。本症例は,最終服用から約18時間経過していたこと,PT活性値が正常であったことから,リバーロキサバンの血中残存量は低いと判断し,発症から3時間40分後にtPA静注療法を施行。翌日,右片麻痺は消失し,3週間後にmodified Rankin Scale 2(軽度の言語障害)で自宅退院となった。
●結論
少数例の短期間での使用経験ではあるが,心原性脳塞栓症の再発予防において新規経口抗凝固薬は有効で,重篤な出血も発現しなかったことから,安全性は高いと考えられた。ダビガトラン,リバーロキサバンとも抗凝固作用のモニタリングとしてのaPTT,PTの測定意義は乏しいものの,極端に延長していない場合には安全で出血性合併症を起こしにくいといえるのではないかと思われた。
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