島田潤一郎氏(千葉大学,千葉県循環器病センター) |
心原性脳塞栓症予防のための抗凝固療法実施率は,新規経口抗凝固薬の導入により改善された可能性があるが,いまだ十分ではなく,より一層の啓発活動が必要——第38回日本脳卒中学会総会(3月21〜23日,グランドプリンスホテル新高輪)で23日に開催された「一般口演」から,島田潤一郎氏(千葉大学,千葉県循環器病センター)の発表「抗凝固薬による心原性脳塞栓症の予防状況—新規抗凝固薬発売前と発売後における脳塞栓症発症状況の比較—」を紹介する。
●背景と目的
心原性脳塞栓症は発症すると重症化しやすいため,予防が重要である。しかし,ワルファリンは安全域が狭いうえに,効果がビタミンKを含有する食物や併用薬剤によって変動しやすく,そのため定期的にプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を測定し,至適範囲内に維持されるよう用量調整を行うことが必要となる。このような煩雑さに加え,アジア人は他の人種にくらべてワルファリン療法中の頭蓋内出血発現率が高く1),出血リスクへの懸念などから,抗凝固療法の実施率は低い。そのような弱点を克服すべく,2011年にダビガトラン,2012年にリバーロキサバンが発売された。両剤ともワルファリンにくらべ頭蓋内出血発現率が低く2〜4),より簡便に,かつ安全に使用可能と考えられ,抗凝固療法実施率の上昇が期待されている。
そこで今回は,心原性脳塞栓症予防における新規経口抗凝固薬の影響について検討を行った。対象は,非弁膜症性心房細動による心原性脳塞栓症で入院した連続203例である。発売前後(前期:2010年4月1日〜2011年3月31日,後期:2011年10月1日〜2012年9月30日)での心原性脳塞栓症入院患者数,発症時のCHADS2スコア,同スコア≧2点の患者における内服状況の比較と,治療域の抗凝固薬内服下で心原性脳塞栓症を発症した症例について,調査を行った。
●結果
期間中のすべての脳梗塞入院患者数は前期群303例,後期群312例で,うち心原性脳塞栓症は,前期群109例(36.6%),後期群94例(30.4%)と,新規経口抗凝固薬発売後の後期群で減少傾向がみられた。発症時のCHADS2スコアが≧2点であった割合は,それぞれ70.4%および81.9%であった。
CHADS2スコア≧2点の症例において,心原性脳塞栓症発症時の抗凝固療法の実施率をみたところ,抗血栓薬がまったく投与されていなかった割合は前期群37.8%および後期群39.1%,抗血小板薬投与は,それぞれ35.0%および31.1%であった。ワルファリンは,投与されていたものの治療域に達していなかった患者が23.3%および22.0%,治療域に届いていた患者もしくは新規経口抗凝固薬投与例(後期群のみ)は3例(3.9%)および6例(7.8%)であった。
この9例の内訳は,ワルファリン投与が6例,ダビガトラン投与が3例であった。抗凝固療法なし,または治療域に届かない抗凝固療法実施患者と比較して,ベースライン時のCHADS2スコアが有意に高く(p=0.005),心原性脳塞栓症再発回数が有意に多かった(p=0.01)。入院時の重症度(National Institute of Health stroke scale:NIHSS)は低い傾向がみられた(p=0.06)。年齢,最大病巣径,退院時の機能転帰(modified Rankin Score:mRS)には有意差を認めなかった。
●結語
心原性脳塞栓症で入院した症例の9割以上が,抗凝固療法未実施あるいは,治療域内の抗凝固療法が行われていなかった。小規模単年比較ではあるが,予防のための抗凝固療法は新規経口抗凝固薬の導入により改善された可能性はある。しかしいまだ十分ではなく,より一層の啓発活動が必要である。
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