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第62回日本心臓病学会学術集会(JCC 2014)2014年9月26〜28日,仙台
心房細動のワルファリン治療における一次予防例と二次予防例のイベント発症率:J-RHYTHM Registry からの検討
2014.10.9
小谷英太郎氏
小谷英太郎氏

心房細動の一次予防例,二次予防例ともにワルファリン療法の至適PT-INRは1.6~2.6であることを確認-9月28日,第62回日本心臓病学会学術集会にて,小谷英太郎氏(日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科)が発表した。

●背景・目的

脳卒中の既往がある非弁膜症性心房細動(NVAF)患者では心原性脳塞栓症の再発リスクが高く,塞栓症リスクスコアであるCHADS2スコアでは,高血圧など他の項目は1点であるのに対し,2点が加算される。再発防止のための抗凝固療法として,ワルファリンの目標プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)値は70歳未満では2.0~3.0,70歳以上では1.6~2.6が推奨されている1)。ただし,この値は二次予防例を対象としたエビデンスによるものであり,一次予防例での妥当性は明確になっていない。

そこで今回,NVAFに関するわが国の多施設共同研究J-RHYTHM Registry2, 3)の登録患者を対象とし,日本人NVAF例における一次予防例と二次予防例でのイベント発症,および一次予防例における至適PT-INR値について検討を行った。

●方法

J-RHYTHM Registryでの解析対象となったNVAF患者7,406例を一次予防例(6,384例)と二次予防例(1,022例)に分け,患者背景,ワルファリン投与状況,PT-INR値,イベント発症率を比較した。観察期間は2年である。

●患者背景

二次予防例では一次予防例に比べ高齢で,男性,永続性AFが多く,冠動脈疾患および糖尿病の合併率が高く,CHADS2スコアは3.5点 vs. 1.4点と約2点高かった。抗血栓療法は,二次予防例では一次予防例よりもワルファリンおよび抗血小板薬の投与率が有意に高かったが,登録時の平均PT-INRは2.0 vs. 1.9と同程度であった。PT-INRの分布では年齢にかかわらず,1.6~2.6が65~70%と大半を占めた。

●結果

1. イベント発症率
2年間の観察期間中のイベント発症率は,二次予防例では一次予防例に比し,血栓塞栓症(2.8% vs 1.5%,p=0.005)および大出血(3.0% vs 1.7%,p=0.006)ともに有意に高率であった。ワルファリンの有無別にみると,血栓塞栓症は二次予防例(ワルファリン投与例2.2% vs. 非投与例8.7%,p<0.001),一次予防例(1.3% vs. 2.5%,p=0.006)ともにワルファリン投与によって有意に抑制され,この効果は特に二次予防例で顕著であった。

さらにワルファリンの有無と年齢で比較したところ,70歳以上の例では二次予防例,一次予防例のいずれも,70歳未満例に比べワルファリン投与による血栓塞栓症の発症率が有意に低く(p=0.008,p=0.015),ワルファリンによる血栓塞栓症抑制効果が顕著であった。大出血の発症率は,ワルファリンの有無および年齢による差を認めなかった。

2. 一次予防例における目標PT-INR値
さらに,一次予防例における至適PT-INR値について検討するため,イベント発症時のPT-INR値とイベント発症との関連をみた。一次予防例においては, 血栓塞栓症はPT-INR<1.6でワルファリン非投与例よりもやや高く,大出血はPT-INR≧3.0で顕著に高かった。この傾向は,70歳未満よりも70歳以上で明らかであった。

二次予防例では,ワルファリン非投与例に比べPT-INR 1.6~2.6の例ではイベント発症率が特に低く,ワルファリンによる血栓塞栓症抑制効果が顕著に現れていたが,PT-INR<1.6では血栓塞栓症,PT-INR≧2.6では大出血が高率となった。この傾向は,70歳以上で明らかであった。

●結論

わが国の基幹病院での登録例を対象とした今回の結果から,NVAFの二次予防例では一次予防例に比べ,心原性脳塞栓症の再発リスクが高いが,抗凝固療法による予防効果も高いことが示された。また,一次予防例,二次予防例ともに,PT-INR 1.6~2.6に維持されていた症例では,ワルファリン非投与例よりもイベント発症率が低く,この値が至適治療域であると考えられる。一次予防例ではPT-INR≧3.0,二次予防例ではPT-INR≧2.6は大出血の発症率が特に高く,注意が必要であることが示唆された。

文献

  • 日本循環器学会. 心房細動(治療)ガイドライン. http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf
  • Atarashi H, et al. Present status of anticoagulation treatment in Japanese patients with atrial fibrillation: a report from the J-RHYTHM Registry. Circ J 2011; 75: 1328-33.
  • Inoue H, et al. Target international normalized ratio values for preventing thromboembolic and hemorrhagic events in Japanese patients with non-valvular atrial fibrillation: results of the J-RHYTHM Registry. Circ J 2013; 77: 2264-70.


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