志賀 剛氏 |
新規経口抗凝固薬(非ビタミンK拮抗抗凝固薬[NOAC])投与後,早期に服薬中止となるケースは少なくない。患者への十分な説明と服薬の障害となる問題の把握が重要-第62回日本心臓病学会学術集会のシンポジウム「新規経口抗凝固薬(NOAC)をどう使いこなすか」にて,9月27日,志賀剛氏(東京女子医科大学循環器内科)が発表した。
●背景・目的
NOACの登場により,非弁膜症性心房細動患者における血栓塞栓症予防のための治療の選択肢は広がってきた。大規模臨床試験の結果では,いずれもワルファリンを上回る有用性が確認されたが,いわゆる「リアルワールド」での評価はまだこれからである。特にこれからのステージでは,抗凝固薬をいかに継続して服用させていくかが新たな課題になってくる。
近年,服薬遵守に対する用語は「コンプライアンス」から「アドヒアランス」へと変わりつつある。すなわち,医師の指示に患者がどの程度従うかという「患者側の問題」という考え方から,患者が積極的に治療方針の決定に参加し,「相互理解の下,治療を行う」という考えに変化してきた。
服薬アドヒアランスを維持するには,その治療が患者にとって実行可能か,服薬を妨げる要因があるとすればなにか,といったことを考えたうえで,患者と相談しながら治療を決定することが重要である。しかし,NOACに関する情報は,薬剤の有効性と安全性を検証した臨床試験の結果に限られているのが現状である。
そこで,実臨床におけるNOACの服薬状況,服薬中止事由などを調査するため,経口抗凝固薬が導入された心房細動患者を対象に後ろ向き研究を実施した。
●方法
対象は,東京女子医科大学病院循環器内科および神経内科に通院中の心房細動患者のうち,血栓塞栓症予防を目的にNOAC(ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン)を導入された患者とした。各薬剤の採用開始から28ヵ月間(アピキサバンは採用後20ヵ月間)に新規導入された連続症例を医事課データベースから抽出し,全例カルテ調査を実施した。対照として,同時期にワルファリンを新規導入された患者を設定した。なお,透析例は本解析対象から除外した。
●結果
解析対象者は,ダビガトラン導入例248例,リバーロキサバン導入例155例,アピキサバン導入例81例,ワルファリン導入例251例となった。患者背景を比較すると,ワルファリン導入例に比べ,ダビガトラン導入例,リバーロキサバン導入例で若干平均年齢が高い,ダビガトラン導入例には脳卒中・一過性脳虚血発作(TIA)の既往例が多いなどの特徴がみられた。
虚血性脳卒中の発症は,ダビガトラン導入例2例,リバーロキサバン導入例2例,アピキサバン導入例1例,ワルファリン導入例2例にみられ,4つの集団に大きな差異はみられなかった。出血性脳卒中や全身性塞栓症の発症は認めなかった。
頭蓋内出血の発現は,NOAC導入例では認められなかったが,ワルファリン導入例では2例にみられた。一方,消化管出血はダビガトラン1例,リバーロキサバン4例,アピキサバン4例,ワルファリン3例,小出血はそれぞれ48例,12例,10例,51例にみられた。
服薬中止に関する調査では,ダビガトラン導入例83例(33%),リバーロキサバン導入例36例(23%),アピキサバン導入例5例(6%),ワルファリン導入例53例(21%)が服薬を中止していた。中止理由の多くが有害事象によるもので,それぞれ36例(43%),17例(47%),2例(40%),7例(13%)であった。このうち,もっとも多かった有害事象は消化器症状や出血事象であった。その他,患者希望による中止という理由もあり,ダビガトランで11例(13%),リバーロキサバンで7例(19%),ワルファリンで9例(17例)であった。また中止例には自己中止も含まれ,その多くが消化器症状などを理由に開始2週間以内に中止しており,NOAC導入例ではワルファリン導入例に比し,より早期に服薬を中止する傾向がみられた。
NOACを中止した後の対応としては,ワルファリンへの切り替えがもっとも多く,次いで他のNOACへの切り替えが多かった。しかし,血栓塞栓症予防薬の投与を中止しているケースも少なくなかった。
●まとめ
本調査とは別に,抗凝固薬服用中の外来患者186例(2014年3月~5月)に対し,処方薬の服用に関する意識・実態調査を行った結果,約20%が「飲まなかったことがある」と回答しており,「ほぼ毎日飲まなかった」と回答した症例もあった。
服薬中止や服薬不遵守は患者側だけの問題でないことも多く,患者への十分な説明と服薬の障害となる問題の把握,たとえば剤形や服薬回数,コストなど,患者の希望も考慮することが重要だと考えられる。米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)は,忍容性や患者の好みも考慮した薬剤選択を推奨している1)。また,有害事象は導入期に起こりやすいことを十分に説明し,その対応を示すことも重要である。志賀氏は「適切な治療が適切な患者に行われるように留意して診療にあたりたい」と述べ,講演を終えた。
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