堀 正二氏 |
新規経口抗凝固薬はいずれも,アジア人集団でのベネフィットが高い-3月22日,第78回日本循環器学会学術集会で開催された「Roundtable Discussion4/Current Topics Related to Novel Oral Anticoagulants」にて,堀正二氏(大阪府立成人病センター)が発表した。
●アジア人における脳出血発現率の高さは新規経口抗凝固薬の第III相試験でもいえるのか
ワルファリン投与下の脳出血発現率は,アジア人では白人に比べ高いことが疫学研究から明らかにされている1)。では,新規経口抗凝固薬の第III相試験ではどうか。ここでは,アジア人と非アジア人における民族差を中心に,新規経口抗凝固薬3剤の第III相試験のサブ解析から得られた知見について解説する。
●ダビガトラン
1.臨床試験の対象患者
ダビガトランの第III相試験RE-LY2)の登録患者18,113例のうち,2,782例(15%)がアジア人(日本,中国,香港,韓国,台湾,インド,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ)であった。サブ解析3)によると,アジア人は非アジア人に比べ若齢で(68歳 vs. 72歳),脳卒中既往が多く(24.2% vs. 10.4%),心筋梗塞既往が少なかった(9.3% vs. 17.9%)。血圧,CHADS2スコアは同程度であった。
ワルファリン群のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が治療域(2.0~3.0;70歳以上の日本人では2.0~2.6)にあった割合は,アジア人の54.5%に対し非アジア人は66.2%,PT-INR<2.0は35.4%に対し19.8%であり,アジア人ではPT-INRが低くコントロールされている状況がうかがわれた。
2.結果
[脳卒中/全身性塞栓症]ワルファリン群では,アジア人における脳卒中/全身性塞栓症の発症率は3.06%/年で,非アジア人の1.48%/年に比べ約2倍であった。これはアジア人ではPT-INRが低くコントロールされていることも起因していると考えられた。一方,ダビガトラン300mg/日群では1.39%/年および1.06%/年であり,ワルファリン群ほどの民族差はみられなかった。
[出血性脳卒中]アジア人のワルファリン群における発症率は0.75%/年,非アジア人は0.32%/年と,これもアジア人のほうが約2倍高く,民族差がうかがわれた。一方,ダビガトラン群ではそのような傾向を認めなかった。
[大出血]脳卒中/全身性塞栓症,出血性脳卒中とは少し異なり,アジア人のワルファリン群における発現率は3.82%/年,非アジア人は3.53%/年と,アジア人で若干高い傾向があるものの,同程度であった。一方,ダビガトラン300mg/日群では,アジア人の2.17%/年に比べ非アジア人では3.52%/年と,非アジア人のほうが高くなっていた。
その他,ワルファリン群では,消化管出血や全出血(大出血または小出血)も含め,いずれも非アジア人に比べアジア人で高値であったが,ダビガトラン群では同等かむしろアジア人で低い傾向があり,有意な交互作用を認めた。このことから,ダビガトランはアジア人において,よりベネフィットが大きいと考えられた。
●リバーロキサバン
1.臨床試験の対象患者
リバーロキサバンの第III相試験ROCKET AF4)では,登録患者14,264例のうち東アジア人(中国,韓国,香港,台湾)は932例(7%)であった。このなかに日本人が含まれていないのは,日本人では海外用量から減量し,リバーロキサバンの用量を日本人向けに設定するとともに,ワルファリンのPT-INRを日本のガイドラインに準拠させた日本独自の試験(J-ROCKET AF)5)を行ったためである。
2.結果
[頭蓋内出血]ワルファリン群の頭蓋内出血発現率は,東アジア人では2.46%/年と,全体成績の1.18%/年に比べ約2倍高く,差が認められた6)。PT-INRのコントロール目標域が異なるなど条件が異なるため単純に比較はできないが,日本人では1.6%であった5)。リバーロキサバン群ではそれぞれ0.59%/年,0.77%/年で,日本人の0.8%という発現率を考慮しても民族間で大きな差はなく,またワルファリンに対する抑制効果も一貫していた。
[重大な出血]リバーロキサバン群における重大な出血は,全体成績では3.6%/年,東アジア人では3.44%/年であり,日本人の3.0%/年を考慮しても大きな差はなかった。一方,ワルファリン群ではそれぞれ3.45%/年,5.14%/年で,東アジア人で高かった。日本人では3.59%/年であった。
なお,重大な出血の人種差,地域差を検討したサブ解析7)では,アジア人においてリバーロキサバンはワルファリンに比べて重大な出血を抑制し(HR 0.61,95%CI 0.42~0.89),白人,黒人間で有意な交互作用が認められた(交互作用p=0.0251)。このことから,リバーロキサバンにおいても,アジア人でのベネフィットが高い可能性が示唆された。
●アピキサバン
1.臨床試験の対象患者
アピキサバンの第III相試験ARISTOTLE8)では,登録患者18,201例のうち東アジア人(大部分は中国,日本,韓国,フィリピン,マレーシア,香港,シンガポール)は1,993例(11%)であった9)。
2.結果
[出血性脳卒中]東アジア人のワルファリン群における発症率は1.33%/年,非東アジア人は0.36%/年と,他の試験と同様東アジア人で約3倍高かった。一方,アピキサバン群ではそのような差を認めなかった。
[頭蓋内出血]出血性脳卒中に比べ,民族差は緩徐であったが,東アジア人でのワルファリン群における発症率は1.88%/年,非東アジア人は0.67%/年と東アジア人で高かった。一方,アピキサバン群ではそれぞれ0.67%/年,0.30%/年であった。
●まとめ
ワルファリンを対照とした新規経口抗凝固薬の国際共同第III相試験のアジア人集団サブ解析をみると,アジア人集団ではPT-INRが低めにコントロールされているにもかかわらず,ワルファリンによる出血性脳卒中,頭蓋内出血や大出血などの出血事象は,非アジア人集団に比べより高率に生じていた。一方,新規経口抗凝固薬はいずれも,ワルファリンに比べ安全性(出血)の民族差が少なかった。いずれの新規経口抗凝固薬も,ワルファリンと比較した安全性はアジア人集団で特にすぐれていた。
また堀氏は,サブ解析の限界としてアジア人集団,非アジア人集団の患者背景に差異があること,さらに,医療環境が良好であれば,出血しても大出血に至らないことが結果に影響をおよぼした可能性を指摘した。
文献
▲TOP |