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第78回日本循環器学会学術集会(JCS 2014)2014年3月21〜23日,東京
大規模臨床試験とリアルワールドのギャップ
2014.4.14
小田倉弘典氏
小田倉弘典氏

 それぞれの薬剤の有効性と安全性のみならず,患者の選好や生活スタイルも考えあわせた治療を行うなど,医療者自身の経験や専門性を生かしてRCTとリアルワールドとのギャップを埋めていくことが求められる-3月22日,第78回日本循環器学会学術集会で開催された「Roundtable Discussion4/Current Topics Related to Novel Oral Anticoagulants」にて,小田倉弘典氏(土橋内科医院)が発表した。

●RCTの限界

 ランダム化比較試験(RCT)は,リアルワールドの患者の一部を標本として抽出し,治療群または対照群に割り付けて比較検討を行い,結論を出す1)。RCTは盲検化することで情報バイアスを,ランダム化することで交絡因子を,統計的処理を行うことで偶然を排除し,内的妥当性を保つ。ただし,内的妥当性が強固になればなるほど,RCTで得られた結論がリアルワールドにどの程度あてはまるのか,すなわち,外的妥当性という問題が生じる。この点で重要なのが選択バイアスであり,RCTの選択・除外基準が少なければ少ないほど,得られた結果はリアルワールドの真実に近いことになるが,内的妥当性からは遠のくというジレンマがある。

●RCTとリアルワールドの差異

  新規経口抗凝固薬のRCT(RE-LY,ROCKET-AF,ARISTOTLE,ENGAGE AF-TIMI 48)に共通する除外基準は,機械弁,甲状腺中毒などによる二次性心房細動,中等度以上の僧帽弁狭窄症,重度の腎不全,出血高リスクなど多い2~6)。しかし,RCTに組み入れられないこれらの病態は,日常診療では決して珍しいものではない。

 それぞれのRCTの患者背景をみると,日本独自の試験J-ROCKET AFでは平均体重64kgであったが2),それ以外の平均体重は約82kgで,一般的な日本人より体格が大きい3~6)。さらに,リアルワールドで各RCTの対象基準に合致する患者がどのくらいいるかを検討した心房細動患者の登録研究7)からは, 50~60%程度であることが報告されている。

 さらに,RCTでは75歳以上の患者が全体に占める割合はRE-LYでは40%,ROCKET AFで44%,ARISTOTLEで30%程度であったが,土橋内科医院の通院患者では52%,京都市の実態調査である伏見心房細動患者登録研究(Fushimi AF Registry)では54%と8),RCTにくらべ高い。このように,RCTと日常診療のあいだには年齢においても差があることに留意すべきである。

 服薬アドヒアランスも忘れてはならない問題である。土橋内科医院において116例(ダビガトラン84例,リバーロキサバン32例)を対象に行った調査では,15%が過去3ヵ月間に飲み忘れがあったと回答している。これらは大部分がワルファリンからダビガトランへの切り替え例で,1日2回服用となったために夕食後の服用を忘れてしまう場合が多かった。

●RCTとリアルワールドを埋めるもの-観察研究

 このように,RCTとリアルワールドにはどうしても差異が存在する。このギャップを埋めるのが観察研究である。デンマークの後ろ向き観察研究9)では,RE-LYよりもCHADS2スコアが低いなど患者背景が異なるものの,RE-LYでみられたダビガトランによる消化管出血リスクの上昇は認められなかった。また,RE-LYのサブ解析10)ではビタミンK拮抗薬服用経験者と未経験者のあいだで有効性は同程度であったが,上記とは別のデンマークの観察研究11)では,ビタミンK拮抗薬服用経験者のほうが未経験者より有効性,安全性ともにダビガトランによるイベントのリスクが高いなど,RCTとは異なる結果であった。これは,ワルファリンからダビガトランへの切替え例はもともとリスクが高く,アドヒアランスもよくない患者集団であったためと考えられる。ただし,この研究は追跡期間が4ヵ月と短いため,今後,より長期の追跡研究が望まれる。

●市販後調査の結果からは,腎機能障害,高齢,低体重,抗血小板薬2剤併用に注意

 RCTは,有効性を検証するために必要最低限の限られた患者数で実施される。そのため,承認後,日常診療で多くの患者に用いられるようになった段階で予期せぬ副作用が判明する可能性があるが,新規経口抗凝固薬では,現時点ではそのような予期せぬ副作用は発生していない。一方で,市販後直後調査(6ヵ月間)における重篤な出血発現例の背景をみると,約半数が腎機能障害(クレアチニンクリアランス:ClCr 50mL/分以下もしくは不明)であり,高齢,低体重,抗血小板薬2剤併用も多かったことから,このような患者にはとくに注意が必要と考えられる。

●登録研究から明らかになった抗凝固療法のunder-dose

 Fushimi AF Registryでは,1年間の追跡終了時における抗凝固薬投与例(おもにワルファリン)の虚血性脳卒中発症率は2.2%/年,大出血発現率は1.5%/年であった12)。単純な比較はできないものの,新規経口抗凝固薬の各RCTにくらべて虚血イベントは多く,出血イベントは少ない。この理由として考えられるのは,Fushimi AF Registryの登録時にプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が治療域内であった患者の割合が54%に留まっていたことであり,抗凝固療法のunder-doseの状況が浮き彫りとなったといえる。

 また,広南病院(仙台市)の調査では,発症7日以内に心房細動の記録がある脳梗塞または一過性脳虚血性発作患者383例のうち,抗凝固療法は130例(ワルファリン118例および新規経口抗凝固薬12例)にしか行われておらず,しかも新規経口抗凝固薬投与例のうち4例は不適切用量投与(ダビガトラン75mg/日1例,150mg/日3例)であった(未発表データ)。

 さらに,リバーロキサバンはClCr 50 mL/分未満の場合のみ,低用量である10mg/日の投与対象となるが,特定使用成績調査では10mg/日投与例の実に半数が,本来は15mg/日の投与の対象となるべきClCr 50mL/分以上の患者であった。臨床現場では,新規経口抗凝固薬でもunder-doseに陥りやすい状況が示唆された。

●もう一つのリアルワールド: 抗凝固薬が投与されていない患者の存在

 ここまで,リアルワールドとは「抗凝固薬を投与されている心房細動患者全体」であるとして論じてきたが,現実にはその他にも,抗凝固薬の適応があるにもかかわらず服用していない心房細動患者や,無症候性心房細動患者もしくは医療施設へ通院しない心房細動患者も多数存在する。

 Fushimi AF Registryでは,医療施設に通院する心房細動患者の過半数が抗凝固療法を受けておらず,さらにCHADS2スコア2点以上の高リスク患者でも同様であった8)。GARFIELD Registryでは,CHADS2スコア2点以上の患者にビタミンK拮抗薬が投与されない理由として医師の選択が全体の48%を占め,その理由としては出血リスクの懸念(15%),転倒リスクの懸念(13%)があげられている13)。その他,患者の拒否が7%あり,この問題の解決は容易ではないが,まずは患者とのコミュニケーションを密にすることが重要である。このように,リアルワールドと一口に言っても,どのような患者を想定するかにより,検討すべき問題がさまざまに変化することに注意したい。

●まとめ

 選択バイアスの存在を考慮すると,リアルワールドにおいて,RCTの対象患者に近い背景を有する患者は50~60%前半に留まると考えられる。とくに,RCTでは高齢者,腎機能低下例が除外されてしまうことから,これらの患者に関するデータが不足していることに注意したい。こうしたRCTとリアルワールドとのギャップを埋めるための数々の観察研究が進行中であり,まだデータは限定的で追跡期間も短いものの,RCTとはまた異なる意義をもつ重要なデータが得られつつある。さらに,市販後調査も進められるなかで,適応があるにもかかわらず抗凝固薬が投与されていない症例は相当数にのぼり,これらの症例に対する新規経口抗凝固薬の有効性・安全性は明らかではない。

 現時点では,日常診療のなかで,それぞれの薬剤の有効性と安全性のみならず患者の選好や生活スタイルも考えあわせた治療を行うなど,医療者自身の経験や専門性を生かしてRCTとリアルワールドとのギャップを埋めていくことが求められている。

文献

  • Fletcher R. Clinical Epidemiology: The Essentials. Lippincott Williams & Wilkins, 2012.
  • Hori M, et al. Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation. Circ J 2012; 76: 2104-11.
  • Patel MR, et al. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91.
  • Connolly SJ, et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-51.
  • Granger CB, et al. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-92.
  • Giugliano RP, et al. Edoxaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2013; 369:2093-2104.
  • Lee S, et al. Representativeness of the dabigatran, apixaban and rivaroxaban clinical trial populations to real-world atrial fibrillation patients in the United Kingdom: a cross-sectional analysis using the General Practice Research Database. BMJ Open 2012; 2: e001768.
  • Akao M, et al. Current status of clinical background of patients with atrial fibrillation in a community-based survey: the Fushimi AF Registry. J Cardiol 2013; 61: 260-6.
  • Larsen TB, et al. Efficacy and safety of dabigatran etexilate and warfarin in "real-world" patients with atrial fibrillation: a prospective nationwide cohort study. J Am Coll Cardiol 2013; 61: 2264-73.
  • Ezekowitz MD, et al. Dabigatran and warfarin in vitamin K antagonist-naive and -experienced cohorts with atrial fibrillation. Circulation 2010; 122: 2246-53.
  • Sorensen R, et al. Dabigatran use in Danish atrial fibrillation patients in 2011: a nationwide study. BMJ Open 2013; 3: e002758.
  • Akao M, et al. Current status of anti-thrombotic therapy for patients with atrial fibrillation in Japan: insights from the Fushimi AF Registry.(2014年日本循環器学会学術集会にて発表)
  • Kakkar AK, et al. Risk profiles and antithrombotic treatment of patients newly diagnosed with atrial fibrillation at risk of stroke: perspectives from the international, observational, prospective GARFIELD registry. PLoS One 2013; 8: e63479.


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