是恒之宏氏 |
3月22日,第78回日本循環器学会学術集会において,ランチョンセミナー「心房細動に対する抗凝固療法の新時代:日本人における新たなエビデンス」(座長:下川宏明氏[東北大学])が開催された。心房細動ガイドライン改訂版のポイントについて,是恒之宏氏(国立病院機構大阪医療センター)が解説した。
●新規経口抗凝固薬の推奨に関して
2014年1月,日本循環器学会の『心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)』1)(以下,ガイドライン)が発表された。今回の改訂における大きな変更点の一つが,新規経口抗凝固薬に関する記載の追加である。ガイドラインの緒言では,改訂時点で使用経験が限られている新規経口抗凝固薬の推奨度を決めるのは難しいため,大規模臨床試験の結果や,2013年12月時点までに得られた情報にもとづいて推奨内容を決めたことが記されている。「新知見が加われば推奨度に変更が加えられることになる」と,今後の検討への含みをもたせている。
以下に,今回の改定におけるポイントをあげて解説する。
●新規経口抗凝固薬を含めた抗凝固療法の選択指針
非弁膜症性心房細動患者における心原性脳塞栓症予防のための抗血栓療法について,ガイドラインではCHADS2スコアにもとづくフローチャート形式で選択指針を示している。2点以上の場合は,すべての新規経口抗凝固薬ならびにワルファリンが「推奨」(ただし,同等レベルの適応がある場合は,ワルファリンよりも新規経口抗凝固薬が望ましいと注釈に記載),1点の場合はダビガトランとアピキサバンが「推奨」,リバーロキサバン,エドキサバン(改訂時点で保険適応未承認)ならびにワルファリンが「考慮可」とされた。0点の場合は,「その他のリスク」として心筋症,年齢(65~74歳),血管疾患のいずれかに該当する場合に,すべての新規経口抗凝固薬ならびにワルファリンが「考慮可」とされている。
1. CHADS2スコア1点の患者に対する推奨
ダビガトランとアピキサバンについては,それぞれ大規模臨床試験RE-LY2),ARISTOTLE3)により,CHADS2スコア1点の症例においてもそれ以外の症例と同等の有効性・安全性が示されていることから,ガイドラインではこの2剤が「推奨」とされた。リバーロキサバンとエドキサバンは,それぞれROCKET AF4),J-ROCKET AF5),ENGAGE AF-TIMI 486)の対象患者にCHADS2スコア1点の症例が含まれていないことから,現時点では「考慮可」の記述にとどめられた。一方,ワルファリンについては,脳卒中予防効果が出血性合併症リスクを十分に上回ることが明らかでないため,「考慮可」とされた。
2. CHADS2スコアがカバーしない「その他のリスク」とCHA2DS2-VAScスコア
心原性脳塞栓症のリスク因子のなかには,CHADS2スコアには含まれないものもある。なかでも抗血栓療法の選択時に考慮すべき「その他のリスク」として,改訂前の『心房細動治療(薬物)ガイドライン 緊急ステートメント』7)では心筋症,年齢(65~74歳),女性,冠動脈疾患,甲状腺中毒の5つをあげていたが,今回のガイドラインでは心筋症,年齢(65~74歳),血管疾患(心筋梗塞既往,大動脈プラーク,末梢動脈疾患)の3つとされた。
すなわち,今回のガイドラインでは,CHADS2スコアが0点の場合,CHA2DS2-VAScスコアの後半の「V」に対応する「血管疾患」と,「A」に対応する「年齢(65~74歳)」および心筋症の3つをあわせて考慮する。このことで,結果的に低リスク患者の評価に優れるとされるCHA2DS2-VAScスコアとほぼ同じ項目を用いて抗血栓療法を選択するという流れになっている。
リスク層別化に最初からCHA2DS2-VAScスコアを採用しなかった理由としては,以下の点をあげている。
・CHADS2スコアよりも評価が煩雑である(循環器専門医以外の実地医家も使用するガイドラインであることを考慮)
・現在の臨床現場ではCHADS2スコアですら十分に広まっているとはいえない
・新規経口抗凝固薬の大規模臨床試験のサブ解析結果はCHADS2スコアにもとづいて示されている
3. 新規経口抗凝固薬のメリットとデメリット
ガイドラインでは,改訂時点で使用可能な新規経口抗凝固薬のメリット,デメリットおよび注意点として,以下のように記載された。
[ダビガトラン]
メリット
・高用量と低用量を選択できる
・高用量では虚血性脳卒中をワルファリンより有意に減少
・低用量で重大な出血が少ない
デメリット
・上部消化器症状が多いことや高用量で消化管出血が多い(アジア人を対象としたサブ解析8)では,ダビガトランはワルファリンにくらべ消化管出血を増加させないことが示された)
・腎排泄が80%であることから,腎機能低下の影響をより受けやすい
・1日2回投与
問題点
血中濃度はAPTTと相関することが知られているが,APTT値は標準化されていない
[リバーロキサバン]
メリット
・1日1回1錠
・服薬継続下では脳卒中,全身性塞栓症をワルファリンより有意に減少
デメリット
・CHADS2スコア1点以下でのエビデンスが確立されていない
・75歳以上や50kg以下の低体重で,ワルファリンよりも重大な出血や臨床的に有意な出血が多い可能性がある
問題点
血中濃度はPTと相関することが知られているが,試薬によって値が異なる
[アピキサバン]
メリット
・脳卒中,全身性塞栓症をワルファリンより有意に減少
・重大な出血が少ない
デメリット
・1日2回投与である
・臨床経験が少なく,とくに日本人における有用性と安全性がまだ確立されていない
問題点
・血中濃度はAPTTやPTとは十分な相関関係を示さない
●重大な出血の関連因子
注意を要する重大な出血の関連因子として,ガイドラインでは新規経口抗凝固薬の大規模臨床試験や市販後調査の結果から,高齢(75歳以上),低体重(50kg以下),腎機能障害(クレアチニンクリアランス50mL/分以下),抗血小板薬併用の4つがあげられた。
また,頭蓋内出血を避けるための方法として,禁煙や適量飲酒,抗血小板薬併用回避,血圧や血糖のコントロールとともに,そもそもワルファリンよりも頭蓋内出血発症率の低い新規経口抗凝固薬を選択することをあげている。
なお,出血リスクを予測するツールとして欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインで用いられたHAS-BLEDスコア9)については,その具体的な内容を示したうえで「新規経口抗凝固薬へ応用した場合の検証が今後は必要」としている。
●新規経口抗凝固薬に関する推奨の変更点
「抗血栓療法の適応と方法」において,新規経口抗凝固薬に関するおもな変更点は以下のとおり。
・機械弁置換患者
RE-ALIGN10)の結果より,ダビガトランの使用はクラスIII,すなわち有用でないと記載された。これに準じて,現時点では他の新規経口抗凝固薬についても,機械弁置換患者には使用すべきではないと考えられる。
・抜歯や手術時の対応
ワルファリンや抗血小板薬に準じ,新規経口抗凝固薬についても,抜歯および白内障手術は内服継続下に行ってよいとされた。消化管内視鏡については,生検のみであれば出血低危険度の手技と同様の扱いとされたが,出血高危険度の手技の場合は従来どおり休薬または置換が推奨され,新規経口抗凝固薬の場合はヘパリンに置換するとされた。
・出血発症時の対応
新規経口抗凝固薬投与中は,出血性合併症の重症度に応じて投与を中止すること,ならびに点滴を適切に行って利尿による体外排出を促進することが推奨された。
●まとめ
新規経口抗凝固薬については,それぞれの薬剤にメリットとデメリットがあり,市販後調査のデータもまだ十分とはいえない。今後,EXPAND研究のような大規模前向き研究をはじめとしたさまざまなデータを蓄積していくことで,次回のガイドライン改訂に資する知見が得られることが期待される。
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