元木博彦氏 |
上部消化管内視鏡による生検を施行時の周術期において,抗血栓療法を中止する必要はないと考えられる-3月23日,第78回日本循環器学会学術集会にて,元木博彦氏(信州大学医学部循環器内科学講座)が発表した。
●背景・目的
近年,欧米の抗凝固療法や抗血小板療法の管理に関するガイドラインでは,抗血栓療法の継続下で消化器内視鏡検査を施行することの安全性について言及されており,日本のガイドラインでも同様の治療戦略が推奨されている。しかし,日本人患者に抗血栓療法を継続して上部消化管内視鏡による生検を行った場合の消化管出血についての検討は,十分に行われていない。今回,多施設前向き観察研究ASAMA studyにて,抗凝固薬または抗血小板薬の投与を継続下で上部消化管内視鏡による生検を行うことの安全性について,検討を行った。
●対象・方法
対象は,上部消化管内視鏡による生検を施行した281例である。施行時における抗血栓療法の実施の有無により,抗血栓療法実施群(93例),非実施群(188例)に分け,生検施行2週間後における治療を要する消化管出血の発症率を評価した。
●患者背景
抗血栓療法実施群は非実施群にくらべ高齢で(平均年齢73歳 vs. 65歳,p<0.001),男性(74% vs. 45%,p<0.001),うっ血性心不全および慢性腎臓病の合併率が高かった(いずれも2% vs. 0%,p=0.044)。糖尿病(4% vs. 3%,p=0.171),高血圧(1% vs. 0%,p=0.154),胃がん(20% vs. 19%,p=0.717)の合併率は同程度であった。
抗血栓療法実施群における抗凝固療法はすべてワルファリンであった(38例[41%])。抗血小板療法はアスピリン42例(45%),クロピドグレル10例(11%)であった。ワルファリン+アスピリン併用は1例(1%),抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は4例(4%)に行われていた。抗血栓療法の適応は心房細動29例(32%),脳梗塞26例(28%),人工弁6例(7%),肺血栓塞栓症2例(2%),冠動脈疾患33例(35%)であった。
●結果
出血は抗血栓療法実施群3例(3.2%)で,非実施群3例(1.6%)と同程度であった(p=0.241)。血栓塞栓症の発症はみられなかった。
出血発症例(6例)と非発症例(275例)を比較したところ,平均年齢(66歳 vs. 68歳,p=0.678),男性の割合(67% vs. 40%,p=0.561),生検により採取した組織のサイズが大きかった割合(83% vs. 92%,p=0.446),生検施行の平均回数(3.7回 vs. 3.7回,p=0.972),胃がんの病理所見(17% vs. 3%,p=0.801)などの臨床的特徴に有意差は認めなかった。
出血について単変量ロジスティック回帰分析を行ったところ,抗血栓療法はオッズ比1.551(95%CI 0.340-7.077,p=0.571)と有意な関連を認めず,抗血栓療法は上部消化管内視鏡による生検の施行後における消化管出血の予測因子ではなかった。その他,年齢,性別,生検により採取した組織のサイズ,生検の回数,胃がんの病理所見についても,出血との有意な関連は認めなかった。
●結論
抗血栓療法を継続しての上部消化管内視鏡による生検について,施行後の消化管出血リスクは抗血栓療法非実施例と同等であり,周術期に抗血栓療法を中止する必要はないと考えられた。
▲TOP |