ト蔵浩和氏 |
心原性脳塞栓症に対するリバーロキサバンの使用頻度は顕著に増加-3月13日,第39回日本脳卒中学会総会にて,ト蔵浩和氏(島根県立中央病院神経内科)が発表した。
●背景・目的
新規経口抗凝固薬の登場により,心原性脳塞栓症の一次予防ならびに二次予防のための抗凝固療法の選択肢が拡大している。そこで,心原性脳塞栓症入院患者における退院時の抗凝固療法の状況を検討するとともに,年齢,重症度,腎機能,摂食状況,および再発状況について,投与していた抗凝固薬間で比較を行った。
●対象
ダビガトランが使用可能となった2012年1月から2013年8月までに心原性脳塞栓症により入院した165例(男性92例)を対象とした。平均年齢は81.5歳で,糖尿病は24%,高血圧は81%が有していた。また,持続性心房細動合併は65%,発作性心房細動合併は17%で,18%は心房細動を合併していなかった。入院前の抗血栓療法状況は,抗凝固薬単独22%,抗凝固薬+抗血小板薬併用6%,抗血小板薬単独27%で,投与なしは45%であった。入院中の合併症としては肺炎や尿路感染が多かった。
●退院時の抗凝固薬の選択状況
退院時に投与されていた抗凝固薬はワルファリン39%,ダビガトラン300mg/日3%,同150mg/日15%,リバーロキサバン15mg/日7%,同10mg/日14%,抗血小板薬5%,投与なし9%であった(8%が死亡)。
研究期間の途中でリバーロキサバンが使用可能になったことから,その前後の状況を比較した。2012年6月1日~10月31日の期間ではワルファリン60%,ダビガトラン24%,抗血小板薬3%,投与なしまたは死亡が13%であったのに対し,2012年11月1日~2013年8月7日の期間では,ワルファリン16%,ダビガトラン12%,リバーロキサバン43%,抗血小板薬6%,投与なしまたは死亡が23%と,リバーロキサバンが顕著に増加していた。
●退院時に投与されていた抗凝固薬ごとの背景および経過
1. CHADS2スコア
CHADS2スコアの平均は,リバーロキサバン投与例では4.0,ダビガトラン投与例では3.8,ワルファリン投与例では4.2,投与なし例では4.6,抗血小板薬投与例では4.5と,ダビガトラン投与例でやや低く,ワルファリン投与例でやや高い傾向であった。
2.年齢
各群の平均年齢は,リバーロキサバン投与例では81.4歳,ダビガトラン投与例では76.5歳,ワルファリン投与例では82.0歳,投与なし例では86.1歳,抗血小板薬投与例では80.3歳で,ダビガトラン投与例はリバーロキサバン,ワルファリン,投与なしに比して有意に年齢が低かった(いずれもp<0.03)。
3.クレアチニンクリアランス(CCr)
ダビガトラン投与例では他のすべての群とくらべて退院時のCCrが有意に高かった。ワルファリン投与例ではやや低く,おもに腎機能の悪い症例に投与されている傾向がみられた。
4 退院時modified Rankin scale(mRS)
ダビガトラン投与例ではmRSが0~1の転帰良好例が4割以上と多かった。一方,投与なし例ではmRS 5~6の転帰不良例が約9割を占めた。
5 退院時NIHSS
ダビガトラン投与例では,退院時National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)が低かった。投与なし例ではNIHSSが顕著に高かった。
6.摂食状況
ダビガトラン投与例では退院時に自分で食事が可能な割合が9割以上と高く,剤形がカプセルであることから,おもに経口投与可能患者で用いられていると考えられた。リバーロキサバン投与例では要介助が約3割,経管・胃瘻の例が約3割を占めた。
7.脳卒中再発状況
観察期間中に脳卒中を発症し,そのうち入院前から抗凝固薬を服用していた65例を検討した。ワルファリンを投与されていた症例では58例で再発がみられ,うち心原性脳塞栓症は36例,脳出血も11例みられた。ダビガトランを投与されていた症例では,2例で再発がみられた。臨床病型はいずれも心原性脳塞栓症で,投与量は220mg/日であった。リバーロキサバンを投与されていた症例では5例で再発がみられ,心原性脳塞栓症はうち4例であった。投与量は10mg/日が4例,15mg/日が1例であった。
●結論
心原性脳塞栓症患者における新規経口抗凝固薬の使用頻度は増加傾向にあり,とくにリバーロキサバンの増加は著しい。退院時の各抗凝固薬の選択状況をみると,ダビガトランは若齢で腎機能が良好な例や,mRSやNIHSSの低い軽症例に対して多く投与されている傾向があった。リバーロキサバンは,薬の剤型から,介助経口摂取例や経管栄養が必要な症例など比較的機能予後の悪い症例や高齢者にも投与されていた。新規経口抗凝固薬が登場して約3年経過し,脳卒中再発例も認められるようになってきた。投与される患者の重症度や背景が異なり,効果・安全性の比較はできないものの,2次予防の選択肢として,ワルファリンに替わって多く使用されつつあることが明らかになった。ただし,抗凝固療法を行う際には,個々の症例に対し,適切な選択および使用が重要である。
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