中村紘規氏 |
アブレーション施行時の無症候性脳虚血病変発症に,心房細動の病型および経口抗凝固薬の種類が関連していたが,施行後の経口抗凝固薬の継続下では脳梗塞への進展はみられず-11月9日,米国心臓協会学術集会(AHA 2015)にて,中村紘規氏(群馬県立心臓血管センター循環器内科)が発表した。
●背景・目的
カテーテルアブレーション(以下,アブレーションと略す)施行にあたっては,血栓塞栓症などの合併症が懸念され,周術期の抗凝固療法が重要となる。臨床的に明らかな神経学的症状はないものの,頭部MRIで検出される無症候性脳虚血病変(SCIL)はアブレーション施行時によくみられる合併症であり,頻度は,ワルファリン非継続投与例では4.3~50%,継続投与例では2~18.2%とされる1)。
本研究では,経口抗凝固薬投与下のアブレーション施行患者における拡散強調MRI画像(DWI)陽性SCILの発症頻度とその予測因子を同定するとともに,アブレーション施行後のDWI陽性SCIL病変が明らかな脳梗塞に進展するか否かを検討した。
●方法
アブレーション施行前に3週間以上経口抗凝固薬を服用し,施行後にMRIを予定している心房細動患者連続例183例を前向きに登録。処方薬剤別にワルファリン群(30例,目標国際標準比[INR]1.6~2.6[70歳以上],2.0~3.0[70歳未満]),ダビガトラン群(30例,110mgまたは150mg,1日2回),リバーロキサバン群(62例,10mgまたは15mg,1日1回),アピキサバン群(61例,2.5mgまたは5mg,1日2回)とした。機械弁,透析,ヘパリンアレルギーまたはヘパリン誘発性血小板減少症既往,MRIへの絶対的/相対的禁忌症例は研究から除外した。
アブレーション施行前後の経口抗凝固薬は,ワルファリン群は中断なく継続(アブレーション施行前日,当日,翌日とも夕のみ服用),非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は当日のみ中止(ダビガトラン,アピキサバンは当日の朝夕中止,リバーロキサバンは当日朝中止)し,施行前日および翌日は通常どおり服用とした。
アブレーション施行時のヘパリン投与は,大腿部静脈穿刺直後にワルファリン群では5,000単位,NOAC群では10,000単位をボーラス投与し,その後は500~1,000単位/時および追加ボーラス投与により,活性化全凝固時間(ACT)300~350秒を維持した。施行終了時にはヘパリン投与をいったん中止し,穿刺部位の止血および心囊液貯留のないことを確認した後,翌日の抗凝固薬再開まで24時間あたり10,000単位の継続投与を行った。
●患者背景
対象患者は平均65歳,男性72.7%,平均体重65kgで,心房細動の病型は発作性50.8%,持続性31.7%,長期持続性17.5%であった。ワルファリン群と比較すると,ダビガトラン群では糖尿病が少なく(33.3%,6.7%),リバーロキサバン群とアピキサバン群ではCHADS2スコアが低かった(1.7,1.0および1.0)(すべてp<0.05)。
左房径および左室駆出率などの心エコー検査項目には有意差を認めなかったが,ワルファリン群に比べ,NOAC群ではINRが低かった(ワルファリン群1.81,ダビガトラン群1.06,リバーロキサバン群1.12,アピキサバン群0.99,すべてp<0.01)。
アブレーション施行中の平均ACTは,ワルファリン群に比べNOACの3群で短く(ワルファリン群342秒,ダビガトラン群320秒,リバーロキサバン群309秒,アピキサバン群320秒,すべてp<0.015),最長ACT値も同様であった(それぞれ383秒,340秒,333秒,341秒,すべてp<0.01)。
●結果
死亡ならびに症候性血栓塞栓イベントは認めなかった。大出血はリバーロキサバン群1例(1.6%),処置を必要としない小出血はワルファリン群2例(6.7%),ダビガトラン群1例(3.3%),リバーロキサバン群2例(3.2%),アピキサバン群2例(3.3%)に認めた。
アブレーション施行後のSCILは26例に認めた(ワルファリン群10.0%,ダビガトラン群30.0%,リバーロキサバン群8.1%,アピキサバン群14.8%)。SCILの有無別に患者特性を比較したところ,心房細動の病型(発作性:SCIL発症例34.6%,非発症例53.5%,持続性:それぞれ23.1%,33.1%,長期持続性:42.3%,13.4%)に有意差を認めた(p=0.002)。また,SCIL発症例ではBNP値が高く(172.5pg/mL,126.2pg/mL,p=0.032),アブレーション施行中に電気的除細動を要した症例が多かった(73.1%,51.6%,p=0.042)。
また,ダビガトラン群(SCIL発症例34.6%,非発症例13.4%)では他の3群(ワルファリン群11.5%,17.2%,リバーロキサバン群19.2%,36.3%,アピキサバン群34.6%,33.1%)に比べ,SCIL発症例が多かった(p=0.037)。
SCILの予測因子について多変量解析を行ったところ,長期持続性心房細動(オッズ比[OR]5.812,95%CI 2.192-15.414,p<0.001),ダビガトランの使用(OR 4.350,95%CI 1.561-12.122,p=0.005)が独立予測因子であった。
MRIによるSCILの追跡は9例,13病変(ワルファリン群1例,1病変,ダビガトラン群4例,6病変,リバーロキサバン群1例,2病変,アピキサバン群3例,4病変)に対し,平均152日間行った。アブレーション施行後3ヵ月以上経口抗凝固薬を継続し,明らかな脳梗塞に進展したものはなかった。
●結論
アブレーション周術期のワルファリンおよびNOACの投与は,症候性血栓塞栓症イベントを認めず,出血性合併症発現率は同程度であった。アブレーション施行後のSCILの予測因子として,心房細動の病型および経口抗凝固薬の種類が関連していた。しかしながら,アブレーション施行後,経口抗凝固薬投与下ではSCILの慢性脳梗塞への進展は認められなかった。
文献
Nakamura K, et al. Silent Cerebral Ischemic Lesions After Atrial Fibrillation Ablation Among Oral Anticoagulants: Predictors of Diffusion-Weighted Imaging-Positive Lesions and Follow-up Study.
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