Victoria Jacobs氏 |
NOAC長期服用患者では,大血管イベントのみならず,微小血管イベントの発症率がワルファリン服用患者よりも低く,NOACが認知症のリスク低下に関連する可能性-11月8日,米国心臓協会学術集会(AHA 2015)にて,Victoria Jacobs氏(Intermountain Medical Center,米国)が発表した。
●背景・目的
心房細動患者では認知症のリスクが高いことが知られている。さらに,われわれはワルファリン長期服用患者では,治療中のPT-INR至適治療域内時間(TTR)が低いほど,認知症リスクが高まることを報告している1)。ワルファリンによる抗凝固作用が過度になれば微小出血が引き起こされ,不十分な場合には微小塞栓が形成される。その両者とも認知症の発症要因になり得ると考えられる2)。つまり,抗凝固療法の質が認知症発症に影響を与える可能性がある。
非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は安定した抗凝固作用が期待でき,ワルファリンと比べて脳梗塞あるいは脳出血の発症率が低い。そのため,心房細動患者の血栓塞栓症予防において,ワルファリンに代わり得る薬剤である。本研究では,中等度~高リスクの心房細動患者を対象に,NOACはワルファリンに比べ脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)および認知症の発症を抑制するという仮説を検証する,長期観察研究を行った。
●方法
対象は,2010年6月~2014年12月の間に,血栓塞栓症予防を目的として長期抗凝固療法(NOACあるいはワルファリン)を開始した18歳以上の心房細動患者である。認知症あるいは認知機能障害患者は除外した。ベースライン時の患者背景(傾向スコア)をもとに,NOAC群とワルファリン群を1:1の割合でマッチングさせ,5,254例(NOAC群,ワルファリン群各2,627例)を解析対象とした。NOACの内訳は,リバーロキサバン55.3%,アピキサバン22.5%,ダビガトラン22.2%であった。
なお,患者背景および転帰の評価に関しては,『疾病及び関連保健問題の国際統計分類第9版(ICD-9)』および『疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版(ICD-10)』の病名コードを参照した。
●結果
1. 患者背景
ワルファリン群はNOAC群より高齢で(73.5歳,71.2歳,p<0.0001),男性は同程度であった(それぞれ58.4%,59.6%)。両群を比較すると,ワルファリン群では中等度リスク患者が多く(CHADS2スコア 2~4はワルファリン群66.5%,NOAC群57.5%),高リスク患者が少なかった(CHADS2スコア≧5はそれぞれ2.3%,4.7%,p<0.0001)。NOAC群では血管疾患の既往(ワルファリン群16.9%,NOAC群24.3%,p<0.0001),血栓塞栓症の既往(それぞれ0.1%,7.2%,p<0.0001)が多くみられた。脳卒中/TIAの既往については,両群に差異を認めなかった(ワルファリン群10.7%,NOAC群10.8%)。
2. 評価項目発症率
脳卒中,TIA,認知症の複合評価項目発症率は,観察期間を通して,ワルファリン群に比しNOAC群で低く推移し,3年以上の長期観察において,NOAC群で複合評価項目発症率が有意に低いことが示された(多変量調整ハザード比0.49,95%信頼区間[CI]0.35-0.69,p<0.0001)。 個々の評価項目については,認知症の発症率はワルファリン群に比べてNOAC群で有意に低く(p=0.03),脳卒中,TIAに関しても同様の結果であった。 なお,NOAC薬剤間による差異は認めなかった。
●まとめ
NOACとワルファリンを比較した先行のランダム化比較試験において,脳血管転帰に対するNOACの有用性はすでに証明されている。今回行った地域住民を対象とした大規模観察研究においても,大血管イベントのみならず,微小血管イベントに対するNOACのワルファリンに対する優位性が確認され, 認知症リスクの低減という新たな観点において,NOACがワルファリンに優る可能性が示唆された。
文献
Jacobs V, et al. Dementia and Stroke Rates Were Lower Among Patients Receiving Long-term Anticoagulation Therapy With Novel Oral Anticoagulants Compared to Warfarin.
▲TOP |