入來泰久氏 |
アブレーションの周術期における抗凝固療法下の無症候性脳血栓および心タンポナーデの発症率は,リバーロキサバン,アピキサバン,ワルファリンで同程度-8月31日,欧州心臓病学会(ESC 2015)にて,入來泰久氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心臓血管・高血圧内科学)が発表した。
●背景・目的
心房細動に対するカテーテルアブレーション(以下,アブレーションと略す)では,血栓塞栓症や出血のリスクが懸念される。一方,アブレーション周術期の抗凝固療法において,ワルファリン継続投与はワルファリン中断よりも,出血性合併症を増加させずに血栓塞栓症を抑制することが示されている1)。近年,アブレーション周術期における非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の有用性が期待されているが,われわれはダビガトランを用いた検討で,ワルファリンに比べ,無症候性血栓塞栓症および心タンポナーデのリスクが高かったことを報告している2)。 そこで本研究は,アブレーション周術期の抗凝固療法について,リバーロキサバン,アピキサバン,ワルファリンの無症候性脳血栓および心タンポナーデの発症率を比較した。
●対象・方法
本研究は,2013年3月から2014年12月に鹿児島大学病院にてアブレーション施行の心房細動患者174例を前向きに登録した。NOAC投与群をリバーロキサバン群(55例),アピキサバン群(50例)に無作為に割り付け,ワルファリン投与群は薬剤を変更せずにワルファリン群(69例)とした。周術期管理として,リバーロキサバンは1日1回夕食後投与を継続し,アピキサバンは施行日の朝食後のみ投与を中止し,ワルファリンはPT-INRが治療域内にあることを確認し継続とした。
経食道心エコーで左房および左心耳に血栓がないことを確認した後,complex fractionated atrial electrogram(CFAE)を指標としたアブレーション(CFAE ABL),またはCFAE ABLに肺静脈隔離術(PVI)を追加したアブレーション(CFAE ABL+PVI)を施行した。PVIにはリング状カテーテルを使用した。ヘパリン投与は活性化凝固時間>300秒になるよう投与した。また,MDCT検査で冠動脈狭窄症が疑われた症例では,心臓カテーテル検査(CAG)を実施した。無症候性脳血栓の有無は,アブレーション施行の翌日のMRI検査により評価した。
●結果
1. 抗凝固療法
対象患者の平均年齢はリバーロキサバン群59.1歳,アピキサバン群58.7歳,ワルファリン群60.7歳で,男性はそれぞれ82%,82%,75%,発作性心房細動は60%,62%,51%,平均CHADS2スコアは1.1,1.1,1.0,平均HAS-BLEDスコアは1.4,1.2,1.1と,いずれも群間差はなかった。
術前検査については,脈波伝播速度およびNT-proBNP値に差を認めなかった。PT-INRはワルファリン群で他の2群より高かった(リバーロキサバン群1.2,アピキサバン群1.2,ワルファリン群2.0,いずれもp<0.01)。
アブレーションに関しては,ワルファリン群は他の2群に比べCFAE ABL+PVIが多く(それぞれ36%,48%,73%,いずれもp<0.01),リング状カテーテルの左房内留置時間が長かった(29分,32分,45分,リバーロキサバン対ワルファリンはp<0.01,アピキサバン対ワルファリンはp=0.04)。ヘパリンの総投与量は,ワルファリン群で有意に少なかった(15,745単位,14,240単位,11,377単位,リバーロキサバン対ワルファリンはp<0.01,アピキサバン対ワルファリンはp=0.02)。また,ワルファリン群ではアピキサバン群に比べ,除細動が必要であった(9%,0%,13%,アピキサバン対ワルファリンはp<0.01)。その他,併存疾患,およびアブレーション施術前のエコー検査項目には3群間で差異を認めなかった。
2. 抗凝固薬の種類別の合併症発症率
アブレーションにともなう合併症について比較したところ,無症候性血栓塞栓症(リバーロキサバン群16.4%,アピキサバン群20.0%,ワルファリン群18.8%),症候性血栓塞栓症(全群0例),心タンポナーデ(それぞれ3.6%,2.0%,2.9%)のいずれにおいても,有意な群間差は認められなかった。
3. 無症候性脳血栓
次に,対象患者を無症候性脳血栓が認められた32例(血栓例)および認められなかった142例(非血栓例)に分けて比較した。血栓例は非血栓例に比べ高齢で(平均年齢:血栓例62.7歳,非血栓例59歳,p=0.04),CHADS2スコアが高く(それぞれ1.6,1.1,p<0.01),HAS-BLEDスコアが高かった(1.8,1.3,p<0.01)。また,高血圧(88%,71%,p=0.04),糖尿病(21.9%,8.0%,p=0.026),冠動脈疾患(21.9%,7.0%,p=0.019)が多かった。
血栓例は非血栓例よりも,平均脈派伝播速度が速く(それぞれ1,618cm/秒,1,494cm/秒,p=0.015),左房容積係数が大きかった(115.5g/m2,99.7g/m2,p<0.01)。さらに,CAG施行例が多く(18.8%,3.5%,p<0.01),リング状カテーテルの左房内留置時間が長かった(51分,33分,p=0.023)。
4. 無症候性脳血栓の予測因子
CHADS2スコア,脈派伝播速度,左房容積係数,CAG施行,リング状カテーテルの左房内留置時間,リバーロキサバン使用,アピキサバン使用の各項目に関し検討したところ,CAGのみが無症候性脳血栓の独立予測因子であった(オッズ比[OR]5.25,95%CI 1.23-22.39,p=0.02)。
●結論
心房細動アブレーション周術期における抗凝固療法による無症候性脳血栓および心タンポナーデの発症率に関し,リバーロキサバン,アピキサバン,ワルファリン間では差はみられず同程度であり,いずれもアブレーション周術期において有用と考えられた。
文献
Iriki Y, et al. Evaluation of safety and efficacy of perioperative use of rivaroxaban and apixaban in catheter ablation for atrial fibrillation. Eur Heart J 2015; 36(abstract supplement): 687.
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