是恒之宏氏 |
出血に関して非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)およびワルファリンには民族差があり,アジア人ではNOACのベネフィットがより高い可能性がある-4月25日,第79回日本循環器学会学術集会(JCS 2015)にて,是恒之宏氏(国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター長)が発表した。
●頭蓋内出血リスクと民族差
ワルファリンは非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の虚血性脳卒中リスクを減少させるが1),使用に際しては頭蓋内出血への配慮が必要である。とくにアジア人では,他の民族に比べてワルファリンによる頭蓋内出血のリスクが高まることが指摘されており2),一層の注意を要する。
近年登場したNOACは,4つの第III相試験(RE-LY,ROCKET-AF,ARISTOTLE,ENGAGE AF-TIMI 48)のメタ解析から3),ワルファリンに比べ,虚血性脳卒中はほぼ同等の抑制効果があり,出血性脳卒中は51%減少させるとの結果が得られた。そのため,出血リスクが高いアジア人に対する有用性が期待されている。
●NOACの主要トライアルからの知見
では,NOACとワルファリンを比較した主要トライアルにおいて,アジア人に関してどのような知見が得られているだろうか。ダビガトランとワルファリンを比較したRE-LY試験のサブ解析4)によると,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)は,アジア集団のほうが非アジア集団よりも低くコントロールされていたものの(PT-INR 2.0~3.0を治療域とする平均PT-INR治療域内時間[TTR]はアジア集団54.5,非アジア集団66.2),アジア集団,非アジア集団ともにワルファリン群における出血性脳卒中の発症リスクがダビガトラン群に比し高く,その傾向はアジア集団でより顕著であった。虚血性脳卒中の発症率に関しては,地域間の交互作用を認めなかった。
エドキサバンを用いたENGAGE AF-TIMI 48試験でも,東アジア集団と非東アジア集団を比べると,ワルファリン治療中のTTRは両者で同程度であったが,ワルファリン群における出血性脳卒中の発症率は東アジア集団で非東アジア集団の約3倍にのぼった5)。さらに,ROCKET-AF(リバーロキサバン),ARISTOTLE(アピキサバン)についても,同様の知見が得られた6)。
●消化管出血リスクと民族差
消化管出血に関してはどうだろうか。上述のメタ解析からは,NOAC服用患者はワルファリン服用患者に比し,消化管出血の発現率が高いことが報告されている3)。ところが,RE-LY試験のサブ解析では,アジア集団においてワルファリン群とダビガトラン群の消化管出血リスクに差は認められなかった4)。リバーロキサバンについても,日本人を対象に実施されたJ-ROCKET AF試験7)では,重大な消化管出血の発現率は上部・下部ともにむしろリバーロキサバン群のほうが低いという結果であった。さらにENGAGE AF-TIMI 48試験でも,東アジア集団ではNOACによる消化管出血の増大はみられていない5)。ARISTOTLE試験でも,同様の傾向が認められている。
●アジア人におけるNOACの有用性
頭蓋内出血あるいは出血性脳卒中のリスクには民族差があり,アジア集団ではワルファリン服用患者でより高率に生じ,NOAC服用患者との差が拡大する傾向がみられた。さらに,非アジア集団ではNOAC服用患者で消化管出血リスクが増大するが,アジア集団ではワルファリン服用患者と変わらないか,むしろ減少するという民族差が確認された。一方で,NOACの虚血性脳卒中抑制効果はアジア集団でも一貫しており,ワルファリンと同等の効果を示した。このように,出血に関してNOACとワルファリンには異なる民族差があり,アジア人ではNOACのベネフィットがより高い可能性がある。
●わが国を除くアジアでは,アスピリンの使用率が依然として高い
最後に,世界規模で行われている登録研究GARFIELD Registry8)から,アジアにおける抗血栓療法の治療実態を簡単に紹介する。同研究は2009年12月~2011年10月に登録を行った第1コホートから2015年6月に登録開始予定の第5コホートまで,5つのコホートに分けて新しく心房細動と診断された患者を順次登録し,追跡するもので,治療の変遷を経時的に読み取ることができる。2015年5月現在,約40,000例の心房細動患者が登録されている。
まず,地域間における抗血栓薬の使用状況を比較すると,アジアでは他地域に比べアスピリンの使用率が依然として高かった。ただし,わが国に限定するとアスピリン単独の使用頻度は低く,CHA2DS2-VAScスコアが低いグループでも,アスピリン単独による治療例は少なかった。
また,第1コホートと第2コホート(2011年10月~2013年5月登録)を比べると,当然のことながら後者で世界的にNOACの使用頻度が上がっていた。とりわけわが国ではNOACの伸び率が大きく,多くの患者でNOACを含む処方がなされていたのが特徴的な点であった。
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