西山大樹氏 |
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の3剤併用療法患者において,高齢および高血圧は出血および心血管イベント両方のリスク-4月26日,第79回日本循環器学会学術集会(JCS 2015)にて,西山大樹氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院循環器内科)が発表した。
●背景・目的
経口抗凝固薬を必要とする患者にPCIを施行する場合,アスピリンとチエノピリジン系薬剤の2剤併用療法に経口抗凝固薬を加えた3剤併用療法が必要となる。ただし,3剤併用療法は出血とともに心血管イベントも増加させる。出血や心血管イベントにどのような因子が影響するかは臨床上重要な意義があり,これまで出血関連因子として高齢,高血圧などが報告されている。 本研究では,退院時にワルファリンを含めた3剤の抗血栓薬を服用するPCI施行患者を対象に,心血管イベントおよび出血イベントに年齢や高血圧が影響するか,後ろ向き観察研究にて検討した。
●対象・方法
対象は,2000~2012年にワルファリンおよび抗血小板薬2剤を併用し,PCIを施行した連続277例(平均観察期間6.6年)である。評価項目は死亡および心血管イベント(急性冠症候群[ACS]),出血性イベント(BARC出血基準タイプ3以上)とした。 患者を年齢(70歳以上/未満)および高血圧の有無で分類し,それぞれの背景因子およびイベント発生率を比較した。
●患者背景
1. 年齢別(<70歳153例,≧70歳124例)
平均年齢は<70歳例60.4歳,≧70歳例75.4歳であった(p<0.0001)。性別(男性90.2% vs. 83.9%),糖尿病(47.1% vs. 43.6%),高血圧(70.6% vs. 70.2%)は同程度であったが,慢性腎臓病(eGFR<60mL/分/1.73m2)は≧70歳例のほうが多かった(28.8% vs. 45.2%,p=0.0047)。
2. 高血圧の有無別(非高血圧82例,高血圧195例)
平均年齢(非高血圧例66.5歳,高血圧例67.3歳),男性(90.2% vs. 86.2%)には有意差を認めなかったが,糖尿病(30.5% vs. 51.8%,p=0.0010),慢性腎臓病(25.6% vs. 40.5%,p=0.017)はいずれも高血圧例のほうが多かった。
●結果
1. 出血イベント
Kaplan-Meier法による分析では,出血イベントは、高血圧例では非高血圧例に比べ有意に多く(p=0.03),≧70歳例では<70歳例に比べ多かった(p=0.05)。 多変量解析により,出血の予測因子として高血圧(ハザード比[HR]7.33,95%CI 1.43-133.9,p=0.01),現喫煙(HR 5.22,95%CI 1.60-16.3,p=0.007),女性(HR 4.64,95%CI 1.50-13.5,p=0.009),年齢(HR 1.09,95%CI 1.01-1.17,p=0.016)が同定された。
2. 死亡およびACS
死亡およびACS発生は,高血圧例では非高血圧例に比べ多い傾向を示し(p=0.07),≧70歳例では<70歳例に比べ有意に増加していた(p=0.007)。
多変量解析により,死亡およびACSの予測因子としては,高血圧(HR 1.96,95%CI 1.19-3.37,p=0.008),慢性腎臓病(HR 1.70,95%CI 1.09-2.65,p=0.02),ベアメタルステント(HR 2.63,95%CI 1.56-4.55,p=0.0002),年齢(HR 1.03,95%CI 1.01-1.06,p=0.015),BMI低下(HR 1.09,95%CI 1.01-1.18,p=0.026)が同定された。
●まとめ
先行研究より,3剤併用療法は2剤併用療法に比べ出血リスクが高いとされている。WOEST1)では,3剤併用療法はクロピドグレル+経口抗凝固薬の2剤併用療法に比べ1年後の出血イベント,心血管イベントのいずれも増加がみられた。そのため欧米のガイドラインでは,PCI後は早期に2剤併用療法または経口抗凝固薬単独投与にすることが主流になっている。一方で,一定期間の3剤併用療法が必要な患者も存在する。そのような患者では,3剤併用期間をできるだけ短くすることが必要である。
本結果より,高齢や高血圧はPCI後の3剤併用療法における出血および心血管イベントの両方のリスクとなることが示された。このような患者に対しては,慎重な投与が求められる。
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