富田泰史氏 |
NOAC内服中に発症した心原性脳塞栓症の重症度や機能的予後は,抗凝固療法未実施例や,ワルファリンの治療域未満での管理例より良好-3月26日,第40回日本脳卒中学会総会(STROKE 2015)にて,富田泰史氏(弘前大学大学院医学研究科循環器腎臓内科学講座)が発表した。
●背景・目的
非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は非弁膜症性心房細動患者における脳卒中および全身性塞栓症の予防に用いられ,ワルファリンと比較した大規模臨床試験により,その有効性と安全性が報告されている1~3)。ワルファリン内服患者において,心原性脳塞栓症発症時のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が治療域内であった症例の入院時重症度や退院時における予後は,治療域未満であった症例と比較して良好であったと報告されている4, 5)。しかし,NOAC内服中に発症した心原性脳塞栓症患者の臨床的特徴,特に重症度や予後については,データはまだ十分ではない。
本研究では,NOAC内服中に発症した心原性脳塞栓症患者における入院時重症度および退院時予後について,ワルファリン内服中の発症例,ならびに抗凝固療法がなされていなかった発症例との比較を行った。
●方法
2011年4月から2014年3月までの3年間に,644例が心原性脳塞栓症のため弘前脳卒中・リハビリテーションセンターに入院した(発症から7日以内の急性期治療516例+発症から60日以内のリハビリテーション128例)。このうち,発症から48時間以内に入院し,発症前のmodified Rankin Scale(mRS)が0~1であった355例を本研究の対象とした。すべての対象患者は,急性期治療から回復期リハビリテーションまで施設完結型医療を実施し,一貫した治療を行った。
対象患者のうち,262例は抗凝固療法がなされていなかった。ワルファリン服用は79例,NOAC服用は14例であった。ワルファリン服用例は入院時のPT-INR値にもとづき,低治療域群(PT-INR<1.6,63例),治療域内群(同≧1.6,16例)に分けて解析を行った。
●結果
1. 患者背景および転帰
対象患者の年齢は同程度であったが,ワルファリン治療域内群では男性が多かった(p=0.04)。CHADS2スコア中央値(抗凝固療法なし群3[四分位範囲2~4],ワルファリン低治療域群3[3~5],治療域内群3[3~4],NOAC群3[1~4])には有意差を認めたが(p=0.01),CHA2DS2-VAScスコア(それぞれ5[3~6],5[4~6],5[4~5],5[2~6],p=0.25)は同程度であった。年齢や腎機能の程度には有意な差を認めなかった。
National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)にもとづき,入院時の重症度について4群間で比較した。ワルファリン治療域内群(NIHSS中央値5)ならびにNOAC群(5)では,抗凝固療法なし群(11),低治療域群(12)と比較してNIHSSは低値であった(p=0.006)。退院時の機能良好(mRS 0~1)の割合は,ワルファリン治療域内群10/16例(63%),NOAC群9/14例(64%)で,抗凝固療法なし群80/262例(31%),低治療域群21/63例(33%)と比べ有意に多かった(p=0.02)。
抗凝固療法なし群を参照とした多変量解析では,入院時NIHSS≦5に影響を与える因子としてNOAC群のみが有意であった(オッズ比[OR]5.45;95%CI 1.73-20.7,p=0.004)。退院時mRS 0~1ではワルファリン治療域内群(OR 3.51;1.22-10.9,p=0.02)およびNOAC群(OR 3.85;1.21-13.5,p=0.02)が有意であった。
2. NOAC群における服薬管理状況
NOAC群における心原性脳塞栓症発症前の服薬管理状況をみたところ,通常の服用下で発症した症例は3/14例(21%)のみであり,3/14例(21%)はNOAC内服開始後2週間以内,4/14例(29%)では一時的に中断中,4/14例(29%)では内服が不規則な可能性がみられた。一時中断中に発症した2例は入院時のNIHSSが高く,退院時の機能的転帰も不良であった(mRS 5および6)。
●結論
心原性脳塞栓症患者の入院時重症度は,NOAC群ならびにワルファリン治療域内群で,ワルファリン低治療域群ならびに抗凝固療法なし群に比較して良好であった。退院時機能的予後も,NOAC群ならびにワルファリン治療域内群で,ワルファリン低治療域群ならびに抗凝固療法なし群に比べ良好であった。
なお,NOAC内服患者における心原性脳塞栓症発症には,一時的休薬やアドヒアランス不良などの関連性が考えられ,内服管理の重要性が示唆された。
文献
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