抗血栓トライアルデータベース
抗血栓トライアルデータベース
home
主要学会情報
テキストサイズ 
第40回日本脳卒中学会総会(STROKE 2015)2015年3月26〜29日,広島
脳卒中発症後の血圧管理
2015.4.22
豊田一則氏
豊田一則氏

抗血栓薬服用患者では特に厳格な血圧管理が必要-3月26日,第40回日本脳卒中学会総会(STROKE 2015)にて,豊田一則氏(国立循環器病研究センター)が発表した。

●急性期の血圧管理

高血圧は脳卒中発症の最大のリスク因子であるが,脳卒中発症後の適切な血圧管理法については解明されていない。高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)1)は急性期の管理について「血栓溶解療法を行った患者では,治療後24時間以内は収縮期血圧(SBP)180/拡張期血圧(DBP)105mmHg未満にコントロールする」「血栓溶解療法の対象とならない発症24時間以内の超急性期,急性期(発症2週間以内)では,SBP 220mmHg,DBP 120mmHgを超える場合,降圧前値の85~90%を目安とする」としている。しかし,急性期にSBPが220mmHgを超える患者は実際にはほとんどおらず2),ガイドラインに従うとおおかた降圧しなくてよいことになる。

日本人脳梗塞急性期患者104例の24時間血圧に関する観察研究3)では,転帰良好例(3ヵ月後のmodified Rankin Score[mRS]0~2)は転帰不良例(同5~6)にくらべ急性期の血圧が低めで,変動性も小さいことが報告されている。日本人rt-PA投与患者527例の検討でも,転帰良好例(3ヵ月後のmRS 0~1)のほうがmRS 2~6にくらべて急性期24時間SBPが低く,また死亡例にくらべて変動性が小さいことが示された4)。また,アジア人は他人種にくらべてrt-PAを使用時の症候性頭蓋内出血発現率が約1.5倍高いと報告されており5),脳卒中急性期の血圧管理は安全性を担保するうえでも非常に重要となる。しかし,急性期の血圧の変動性が転帰改善と関連するかを検討した介入研究は今のところない。

●脳卒中慢性期の血圧管理

発症1ヵ月以降の慢性期について,JSH2014では「140/90mmHg未満を降圧目標とする。両側頸動脈高度狭窄,脳主幹動脈閉塞では特に下げすぎに注意する」「ラクナ梗塞,抗血栓薬服用患者では可能であればさらに低いレベル130/80mmHg未満を目指す」としている。抗血栓薬服用患者により一層の配慮を求めるこの言及は,脳出血の多い日本人患者のための,日本独自のものである。

更なる降圧推奨の根拠はPROGRESS試験で,脳梗塞または一過性脳虚血発作後の患者6,105例において,ACE阻害薬群はプラセボ群に比し,平均血圧差9/4mmHgで脳卒中再発が28%抑制された6)。同試験の経過観察中の到達SBPと脳卒中再発の関連をみたサブ解析でも,the lower, the betterの関連がみられている7)

●抗血栓薬服用患者における脳出血

抗血栓薬服用患者では,頭蓋内出血リスクが上昇する。脳/心血管疾患で抗血栓薬を服用している日本人患者4,009例を19ヵ月(中央値)追跡したBAT研究では,出血イベントの年間発現率は,抗血小板薬単剤にくらべて2剤併用では約2倍,ワルファリンにくらべてワルファリン+抗血小板薬併用では約1.5倍高かった。また,脳血管障害を背景に抗血栓薬を服用している患者では,心血管疾患を背景に服用している患者にくらべ頭蓋内出血率が高かった8)。すなわち,脳血管障害を有すること自体が頭蓋内出血のリスク因子となっていた。

また,発現する脳出血がより重症で転帰が悪いことも報告されている。日本人脳出血患者1,006例を後ろ向きに検討したBATの解析9)では,抗血栓薬非服用患者にくらべて服用患者では24時間以内に血腫が拡大した症例が多く,背景因子調整後も,抗血小板薬(オッズ比[OR]1.92),ワルファリン(OR 4.80),抗血小板薬+ワルファリン(OR 4.94)服用者で有意にリスクが高かった。急性期(3週間以内)の死亡も抗血栓薬服用患者で多く,抗血小板薬+ワルファリン併用患者のORは9.41ときわめて高かった。

非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)について,各NOACの主要トライアルのデータでみると,ワルファリン服用患者の年間頭蓋内出血率は非アジア人が非常に大雑把に0.6%/年,アジア人が2%/年であったのに対し,NOACでは非アジア人が同じく大雑把に0.4%/年,アジア人が0.6%/年であった10)。ワルファリンよりは低いものの,アジア人ではやはり出血リスクが高いため(高塩分摂取の影響か?),NOACでも注意が必要である。

●抗血栓薬服用患者の血圧管理

前述のBAT研究では,出血性脳卒中患者では発現までの経過観察中に血圧が上昇していたことから,SBP/DBP 130/81mmHgを出血発現のcut-off血圧値であると報告している11)。アスピリンとシロスタゾールを比較したCSPS2試験では,虚血性脳卒中患者2,672例における平均29ヵ月の追跡で,アスピリン群ではSBP到達値>140mmHgで出血性脳卒中が年間1%を上回っており12),抗血栓薬服用患者を血圧不良のまま放置すると,出血リスクが高まる。

また,2013年にはランダム化比較試験であるSPS3試験の結果も発表された13, 14)。同試験は南北米およびスペインで発症180日未満のラクナ梗塞患者3,020例を対象に行われ,抗血小板薬としてアスピリン単剤またはクロピドグレル併用投与,血圧値目標値としてSBP 130~149mmHgまたは<130mmHgを目指す2×2のファクトリアルデザインで検討された。その結果,<130 mmHgの積極降圧群のほうが脳卒中発症率が低い傾向(ハザード比[HR]0.81,95%信頼区間0.64-1.03,p=0.08)が認められ,脳卒中の内訳別にみると,脳出血は積極降圧群のほうが有意に発現率が低かった(p=0.03)。これがJSH2014において,抗血栓薬服用患者で<130 mmHgを目標として打ち出した根拠と言える。

●生活習慣改善による降圧

ではどのように血圧を管理したらよいだろうか。最初に治療の基本となるのは生活習慣の改善である。国立循環器病研究センターでは京風の減塩病院食「かるしおレシピ」15)を発行している。このような塩分少なめのレシピを参考にすることも改善の一助となる。

文献

  • 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編. 高血圧治療ガイドライン2014. ライフサイエンス出版,東京,2014.
  • Toyoda K, et al. Blood pressure changes during the initial week after different subtypes of ischemic stroke. Stroke 2006; 37: 2637-9.
  • Tomii Y, et al. Effects of 24-hour blood pressure and heart rate recorded with ambulatory blood pressure monitoring on recovery from acute ischemic stroke. Stroke 2011; 42: 3511-7.
  • Endo K, et al. Impact of early blood pressure variability on stroke outcomes after thrombolysis: the SAMURAI rt-PA Registry. Stroke 2013; 43: 816-8.
  • Mehta RH, et al. for the Get With The Guidelines-Stroke Program. Race/Ethnic differences in the risk of hemorrhagic complications among patients with ischemic stroke receiving thrombolytic therapy. Stroke 2014; 45: 2263-9.
  • PROGRESS Collaborative Group. Among 6,105 individuals with previous stroke or transient ischaemic attack. Lancet 2001; 358: 1033-41.
  • Arima H, et al. for the PROGRESS Collaborative Group. Lower target blood pressures are safe and effective for the prevention of recurrent stroke: the PROGRESS trial. J Hypertens 2006; 24: 1201-8.
  • Toyoda K, et al. for the BAT Study Group. Dual antithrombotic therapy increases severe bleeding events in patients with stroke and cardiovascular disease: a prospective, multicenter, observational study. Stroke 2008; 39: 1740-5.
  • Toyoda K, et al. for the BAT Study Group. Antithrombotic therapy influences location, enlargement, and mortality from intracerebral hemorrhage. The Bleeding with Antithrombotic Therapy (BAT) Retrospective Study. Cerebrovasc Dis 2009; 27: 151-9.
  • Toyoda K et al. Acute reperfusion therapy and stroke care in Asia after successful endovascular trials. Stroke 2015, in press.
  • Toyoda K, et al. for the BAT study Group. Blood pressure levels and bleeding events during antithrombotic therapy: the Bleeding with Antithrombotic Therapy (BAT) Study. Stroke 2010; 41: 1440-4.
  • Uchiyama S, et al. Benefit of cilostazol in patients with high risk of bleeding: subanalysis of cilostazol stroke prevention study 2. Cerebrovasc Dis 2014; 37: 296-303.
  • SPS3 Investigators. Effects of clopidogrel added to aspirin in patients with recent lacunar stroke. N Engl J Med 2012; 367: 817-25.
  • Benavente OR, et al. for the The SPS3 Investigators. Blood-pressure targets in patients with recent lacunar stroke: the SPS3 randomised trial. Lancet 2013; 382: 507-15.
  • 独立行政法人国立循環器病研究センター.国循の美味しい! かるしおレシピ.セブン&アイ出版,東京,2012.


▲TOP
抗血栓療法トライアルデータベース