河野祥一郎氏 |
ワルファリンまたはNOAC投与下のラット一過性脳虚血モデルにおいて,NOACはワルファリンよりもneurovascular unitに保護的に作用することで,rt-PA投与後の出血性合併症を抑制する可能性が示唆-3月27日,第40回日本脳卒中学会総会(STROKE 2015)にて,河野祥一郎氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学)が発表した。
●背景・目的
脳梗塞に対する組織プラスミノーゲン活性化因子(rt-PA)による血栓溶解療法には,優れた有効性が期待される。その一方で,副作用としての出血性脳梗塞への懸念があり,とくに抗凝固療法中の患者ではその危険性が高いと考えられる。そこで,ワルファリンならびに非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC,リバーロキサバン,アピキサバン)投与下のラット一過性脳虚血モデルを用い,rt-PA投与による脳出血への影響を抗凝固薬間で比較した。
●方法
11週齢,オスのWistarラットに,ワルファリン(0.2mg/kg/日:ワルファリン群,n=13),リバーロキサバン(2mg/kg/日:リバーロキサバン群,n=9),アピキサバン(10mg/kg/日:アピキサバン群,n=10)もしくは0.5%カルボキシメチルセルロース(対照群,n=12)をそれぞれ7日間経口投与させた。そのうえで最終投与から1時間後に塞栓子を挿入し,中大脳動脈を閉塞することで2時間の一過性脳虚血状態を負荷。塞栓子の除去(再灌流)時にrt-PA(10mg/kg)を投与し,その24時間後に断頭して脳を摘出した。脳梗塞および脳出血の体積を測定するとともに,neurovascular unitの免疫組織化学染色,およびマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)のゼラチンザイモグラフィー(酵素電気泳動)を行い,出血の機序を検討した。
●結果
1. 臨床データ
収縮期血圧ならびに拡張期血圧については,一過性脳虚血の前後を問わず,4群間で大きな差はなかった。断頭までの生存率は,他の群に比べてワルファリン群でやや低い傾向がみられた。
2. 脳梗塞体積と脳出血体積
脳梗塞の体積は,4群間でほぼ同等であった。一方,出血体積をみると,対照群,リバーロキサバン群,アピキサバン群のいずれに比べても,ワルファリン群で有意に大きかった(いずれもp<0.05)。
3. neurovascular unitの免疫組織化学染色
コラーゲンIV(基底膜のマーカー)およびグリア線維性酸性蛋白(GFAP:アストロサイトのマーカー)による二重染色の結果,ワルファリン群では基底膜からアストロサイトの足突起が解離している様子が認められ,血管解離指数(dissociation index)で定量を行ったところ,リバーロキサバン群およびアピキサバン群ではその解離が有意に抑制されていた(p<0.01)。
また,血小板由来成長因子β受容体(PDGFRβ:周皮細胞のマーカー)とGFAPによる二重染色の結果,ワルファリン群では周皮細胞とアストロサイトが解離している様子が観察されたが,リバーロキサバン群およびアピキサバン群ではその解離が有意に抑制されていた(p<0.01)。
4. MMP-9の活性
rt-PAは血管外に漏出するとMMP-9を活性化し,細胞外マトリックスの障害を介して出血に関与するとの報告があることから,梗塞巣周囲のMMP-9活性をゼラチンザイモグラフィーにより検討した。その結果,同側半球では,ワルファリン群においてMMP-9の活性が対側と比較し有意に亢進しており(対側に対しp<0.01),それに対しリバーロキサバン群およびアピキサバン群ではその活性が有意に抑制されていた(同側ワルファリン群に対しp<0.05)。
●結論
ワルファリンまたはNOAC投与下のラット一過性脳虚血モデルを用いてrt-PA投与による脳出血への影響を比較した。ワルファリン投与下では,NOAC投与下に比べて出血体積が有意に大きく,neurovascular unitの解離が認められた。またワルファリン群では,梗塞巣周囲のワルファリンよりもneurovascular unitに保護的に作用することによって,rt-PAの出血性合併症を抑制する可能性が示唆された1)。
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