2016.12.15 | AHA 2016取材班 |
山下侑吾氏 |
リアルワールドにおけるNOAC投与患者の脳卒中/全身性塞栓症,大出血発症率は,ワルファリン投与患者と有意差を認めず-11月14日,米国心臓協会学術集会(AHA 2016)にて,山下侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科学)が発表した。
●背景
心房細動はよくみられる不整脈疾患であり,特に脳卒中の発症や死亡率を上昇させる。経口抗凝固療法(OAC)は心房細動患者の脳卒中発症抑制に有効であり,非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は,大規模ランダム化比較試験にてワルファリンに対する有効性および安全性の非劣性が示された。しかし,リアルワールドのさまざまな患者における臨床転帰については,まだ十分に評価されていない。
●方法・目的
Fushimi AF Registryは,京都市伏見区の心房細動患者を全例登録し,その特性や治療の実態調査,予後追跡を行うことを目的として開始された,地域ベースの前向き研究である。2011年3月に登録を開始し,2015年11月までに4,441例が登録された。このうち3,749例について,2015年11月時点で1年以上の追跡データが得られている(追跡期間中央値3.0年)。 本解析では,このうち登録時のOACに関するデータが得られなかった18例を除く3,731例を対象とし,OACの投与状況と患者特性や転帰(脳卒中/全身性塞栓症,大出血)について比較した。また,OACの投与状況と転帰への影響について,時間依存性共変量を用いたCox比例ハザードモデルを用いて検討した。
●患者背景
登録時のOACはNOAC 270例,ワルファリン1,728例,非OAC 1,733例であった。NOAC群はワルファリン群にくらべ若齢で(平均年齢:NOAC群72.0歳,ワルファリン群74.4歳,非OAC群73.1歳),平均体重が重かった(それぞれ62.0kg,59.6kg,58.3kg)。また,脳卒中既往率(17%,24%,13%),ならびに塞栓症リスクが低かった(CHADS2スコア:2.0,2.3,1.8,CHA2DS2-VAScスコア:3.2,3.7,3.1)(ここまですべてp<0.001)。NOAC群,ワルファリン群は非OAC群にくらべ,男性の割合が高かった(62%,62%,57%,p=0.008)。大出血既往率は同程度であった(3.3%,3.7%,4.2%,p=0.65)。また,非OAC群の抗血小板療法実施率は,他の2群にくらべ高かった(17%,25%,34%,p<0.001)。 OACの使用率は5年間で変動があり,結果としてワルファリンは2011年の51%から2015年には37%へ,非OACは47%から36%へそれぞれ減少した一方,NOACは2%から26%に増加した。
●結果
カプランマイヤー法による登録時OAC投与状況別のイベント発症率は,NOAC群とワルファリン群,非OAC群の間に有意差を認めなかった(脳卒中/全身性塞栓症:p=0.43,大出血:p=0.25)。OAC投与状況を時間依存性共変量とし,おもな患者背景を調整因子としたCox比例ハザードモデルを用いた解析では,脳卒中/全身性塞栓症について,NOAC群とワルファリン群の間に有意差を認めなかった(ハザード比[HR]0.95,95%信頼区間[CI]0.59-1.51,p=0.82)。
一方,大出血については,NOAC群とワルファリン群の間に有意差は認められないものの,ややHRの低い傾向がみられた(HR 0.82,95%CI 0.50-1.36,p=0.45)。
●結論
リアルワールドにおいて, NOAC群における脳卒中/全身性塞栓症,大出血発症率は,ワルファリン群と有意差を認めなかった。
▲TOP |