天野英夫氏 |
抗血小板薬との併用療法において,DOACはワルファリンを用いた場合に比べ致死的な出血イベントが少ない-6月17日,第3回日本心血管脳卒中学会学術集会(CVSS 2016)にて,天野英夫氏(東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野助教)が発表した。
●3剤併用療法に関する議論
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の心房細動患者に対する抗血栓療法では,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)+経口抗凝固薬(OAC)の3剤併用療法が行われる。しかし, PCI施行患者を対象に実施されたWOEST試験1)では,OACにクロピドグレルとアスピリンを追加した3剤併用療法は,OACとクロピドグレルのみの2剤併用療法と比べ出血リスクが上昇し,ステント血栓症の発症率も高い傾向がみられた。RE-LY試験のサブ解析2)も,直接的経口抗凝固薬(DOAC)に抗血小板薬を1剤追加すると,DOAC単独に比べて大出血発現率が有意に上昇し,抗血小板薬を2剤追加すると,さらに高くなることが明らかになっている。
これらの結果を受け,2014年にESCから発表された合同文書『急性冠症候群合併および/または経皮的冠動脈インターベンションまたは心臓弁インターベンション施行予定の心房細動患者に対する抗血栓療法の管理』3)では,PCI後の3剤併用療法の期間に関し,低出血リスク(HAS-BLEDスコア0~2)患者では6ヵ月まで,高出血リスク(HAS-BLED≧3)患者では4週間までとされた。しかし,DAPTの期間を4週間まで短縮して,ステント血栓症のリスクが十分に抑制できるのかどうかは疑問である。
日本では薬剤溶出ステント(DES)留置後のDAPTの期間について,添付文書上では最短のステントでも「3ヵ月以上」を推奨している。また,合同文書では抗血小板薬について,新規の薬剤については推奨できないとしており,また投与量,とくにローディングなどに関しても言及されていない。さらに,DOACの位置づけに関する議論も残されているのが現状である。
●東邦大学医療センターにおける3剤併用療法の成績
当施設では,DOACを用いた3剤併用療法の有効性および安全性に関して,ワルファリンを用いた3剤併用療法と比較する後ろ向き観察研究(平均追跡期間19.5ヵ月)を実施した。
1. 対象
対象は,2012年4月~2015年3月に血栓塞栓症の発症抑制を目的としてOAC,抗血小板薬を使用した763例である。
OACの適応症の内訳は,慢性心房細動27.7%,発作性心房細動発症27.7%,その他(機械弁,心尖部瘤,肺塞栓症,深部静脈血栓症,冠動脈バイパス術後)44.7%であった。抗血小板薬の適応の内訳は,冠動脈疾患77.7%,脳血管疾患8.3%,末梢動脈疾患6.0%,その他8.0%であった。
対象患者を,投与薬剤に応じて以下の6群に分類した。症例数および平均年齢を記す。
・DOAC群(DOAC単独359例,69歳)
・DOAC+AP群(DOAC+抗血小板薬1剤76例,73歳)
・DOAC+DAPT群(DOAC+抗血小板薬2剤32例,70歳)
・ワルファリン群(ワルファリン単独140例,66歳)
・ワルファリン+AP群(ワルファリン+抗血小板薬1剤79例,67歳)
・ワルファリン+DAPT群(ワルファリン+抗血小板薬2剤77例,68歳)
2. 患者背景
DOAC投与例では,ワルファリン投与例に比べ心房細動例が多く含まれていた。DOAC投与例のうち,低用量投与は6割以上であり,とくにDOAC+DAPT群では68.8%にのぼった。同様に,ワルファリン投与例の治療域内時間(TTR)は,併用例ほど低くコントロールされていた(ワルファリン群 55.7%,ワルファリン+AP群 51.5%,ワルファリン+DAPT群47.5%)。
3. 大出血イベント
大出血の年間発現率は,DOAC群0.7%,DOAC+AP群1.2%,DOAC+DAPT群4.3%,ワルファリン群2.2%,ワルファリン+AP群7.2%,ワルファリン+DAPT群9.3%であった。3剤併用療法の2群を比較すると,有意差はないものの,DOAC+DAPT群のほうがワルファリン+DAPT群よりも大出血発現率が低い傾向がみられた(ハザード比[HR]0.43,95%信頼区間[CI]0.05-3.35)。なお,大出血の発現時期は,大部分(30/32例)が投与後3ヵ月以降であった。
DOAC投与例において,大出血は6例(消化管出血4例,脳内出血1例,その他1例)に認められ,うち5例が腎機能障害を有していた。
ワルファリン投与例では,大出血は26例(消化管出血14例,脳内出血9例,その他3例)に認められ,DOACに比べ脳内出血発現率が高かった。一方で腎機能障害例は14例であり,DOACに比べ腎機能障害と出血の関連性が低いことが示唆された。なお,ワルファリン投与例における出血発現時の平均PT-INRは4.6と高値であったが,出血発現前の平均値は2.0と治療域内であり,外来での出血予測が困難であることがうかがわれた。
4. 脳心血管イベント
主要脳心血管イベント(心血管死,急性心筋梗塞,脳卒中)の年間発症率は,DOAC群1.2%,DOAC+AP群4.7%,DOAC+DAPT群8.5%,ワルファリン群2.6%,ワルファリン+AP群6.4%,ワルファリン+DAPT群6.5%であった。DOAC+DAPT群とワルファリン+DAPT群の間に有意差はみられなかった(HR 1.31,95%CI 0.27-6.39)。
5. リスクスコアとイベントリスク
OACと抗血小板薬の併用例(264例)でリスク評価の有用性を評価したところ,脳梗塞発症例のCHA2DS2-VAScスコア(平均4.8点)は非発症例(平均3.6点)に比べ,有意に高い値を示した(p=0.044)。また,出血発現例のHAS-BLEDスコア(平均2.6点)に関しても,非発現例(平均2.2点)に比べ有意に高い値となり(p=0.028),塞栓症リスク,出血リスクともに,リスク評価の有用性を支持する結果であった。
●まとめ
DOAC と抗血小板薬との2剤あるいは3剤併用療法は,ワルファリンを用いた場合に比べ出血性合併症が少なく,心血管イベントに対する有効性は同等である可能性が示唆された。また,DOACでは致死的な出血イベントが少なく,出血の質の点においてもワルファリンに優ると考えられた。一方で,DOACによる出血は腎機能障害と強く関連しているため,腎機能障害例に対してはワルファリンが適していると考えられる。
出血イベントは,投与開始3ヵ月以降に多く発現していたことから, 3ヵ月以内の減量を検討する必要がある。ワルファリンと抗血小板薬の併用では,PT-INRが至適治療域内でも出血が発現しており,外来で出血イベントを予測するのは容易ではなく,慎重な投与が肝要である。一方で,CHA2DS2-VAScスコア,HAS-BLEDスコアは煩雑であるが,OACと抗血小板薬の有効性と安全性の指標となり得るため,投与方法の決定に際してはスコアの活用が有用であると考えられた。
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