梅本朋幸氏 |
虚血性心疾患を合併した心房細動患者に対しては,適切な抗凝固療法を行うと同時に,調整可能なリスクに対する積極的介入が重要-6月17日,第3回日本心血管脳卒中学会学術集会(CVSS 2016)にて,梅本朋幸氏(ミラーノ総合病院循環器内科)が発表した。
●はじめに
心房細動は加齢とともに有病率,新規発症率が高くなる疾患である。日本における心房細動有病率は,2005年には0.56%であったが,2050年には1%を超えるとの試算もあり1),“common disease”の一つになってきている。心房細動患者の脳卒中発症抑制のための治療の中心は抗凝固療法であるが,これを心房細動に対する治療全体のなかの一つとして捉え,そのほかのリスク管理に積極的に介入することが重要である。ここではとくに,虚血性心疾患を合併した心房細動患者について,抗凝固療法をいかに行うかを考えてみたい。
●CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2にみる抗凝固療法の実態
高齢化に伴い,虚血性心疾患を合併する心房細動患者が増加しており,これらの患者に対する最適な抗血栓療法が大きな臨床的課題となっている。CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2では2),経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行例における心房細動合併率は8.3%であった。心房細動合併例と非合併例で脳卒中発症率を比較すると,心房細動合併例のほうが有意に高くなっていた。これは予想通りの結果である。
この一方で,心房細動合併例のうち,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)にワルファリンを上乗せした患者とDAPTのみが投与された患者では,脳卒中発症率に有意差はみられないという意外な結果も得られた。ただし,ワルファリンのコントロールが良好と考えられる治療域内時間(TTR)65%を基準に,TTR≧65%とTTR<65%に分けて両者を比較したところ,前者では脳卒中の発症が有意に抑制されていた。また,ワルファリン投与例のうち,DAPT継続例(3剤併用療法)とDAPT中止例の比較では,DAPT継続例のほうが脳卒中発症率が高い傾向がみられたが,DAPT中止例に比べTTRが低値であった。
本研究では,心房細動患者の75%がCHADS2スコア>2であったが,ワルファリンが投与されていたのは50%未満であった。さらに,投与されていても多くが弱めのコントロールに留まっているという実態が明らかになった。
●Tokyo-MD PCI研究で同定されたリスク因子
薬剤溶出ステント(DES)留置後の有効性と安全性を観察したTokyo-MD PCI研究では,DES留置後の1,918例のうち,3剤併用療法を行った207例の大出血と心血管イベントについて解析している。その結果,主要脳心血管イベント(MACCE:死亡,心筋梗塞および脳卒中の複合)が37例,大出血が13例に認められた。MACCEに関しては 緊急PCI施行,心機能低下(左室駆出率<35%),複雑病変が,大出血については腎機能障害が,リスク因子として同定された。
●調整可能なリスクに対する積極的管理の重要性
虚血性心疾患を合併した心房細動患者を管理する際,適切な投与期間に関する議論は残されているものの,3剤併用療法は必要と考えられる。そのうえで,臨床現場では常に「出血性合併症の回避」と「虚血性脳卒中の予防」のバランスに悩まされている。
ESCが2014年に発表した合同文書『急性冠症候群合併および/または経皮的冠動脈インターベンションまたは心臓弁インターベンション施行予定の心房細動患者に対する抗血栓療法の管理』3)では,CHA2DS2-VAScスコアとHAS-BLEDスコアで塞栓症と出血性合併症のリスクを評価している。そのなかで,「高血圧」と「高齢者」が双方のリスクスコアで重複しているが,高血圧は調整可能なリスク因子であることに注目したい。
日本における高血圧治療率は約50%と低く,さらに降圧薬服用例のうち,適切に血圧管理がなされている患者は3~4割に留まっている4, 5)。したがって,高血圧に対して積極的に介入することで,塞栓症リスク,出血リスクの低下に繋がると考える。また,ワルファリン内服中の心房細動患者を対象とした観察研究によれば,PT-INRが1.6を下回ると重篤な脳梗塞が,2.6を超えると重篤な出血性合併症が増加することが明らかになっている。直接的経口抗凝固薬(DOAC)は重篤な出血性合併症が少ないことで,ワルファリンに代わる抗凝固薬として期待されるが,現時点では,3剤併用療法におけるDOACのデータが不足しているため,結論を出せない。
そのほか,アルコール摂取に対する指導など,実臨床で積極的に介入することでリスクを下げられる余地がある。それと同時に,以下に示すようなリスクスコアに含まれない “プラスα”のリスクも管理する必要がある。
●まとめ
日本人は出血性合併症の発現率が高いこともあり,ワルファリンコントロールが控えめにとどまる傾向がある。しかし,心原性脳塞栓症は他の病型に比べ重篤な転帰になりやすく,出血を過度に恐れずに管理することが肝要である。そのためには,調整可能なリスクに対しては積極的に介入し,スコアに含まれないリスク因子にも注意を払う必要がある。
また,心房細動患者の脳卒中発症抑制の中心は抗凝固療法であるが,個々の患者に応じ,外科的治療の可能性なども併せて検討しなければならない。
3剤併用療法におけるDOACの有用性が期待されるが,現時点ではまだ十分なデータが揃っていない。現在,心房細動を合併したPCI施行患者を対象にリバーロキサバンまたはビタミンK拮抗薬と抗血小板薬併用の安全性・有効性を比較するPIONEER AF-PCI試験が進行している。そのほかにもDOAC+DAPT 併用に関する臨床試験が複数進行中であり,その結果がまたれる。
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