小谷英太郎氏 |
日本のリアルワールドにおいて,NOACは検討されたすべてのイベント発症抑制に有益である可能性が示唆-3月18日,第80回日本循環器学会学術集会(JCS 2016)にて,小谷英太郎氏(日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科講師)が発表した。
●背景・目的
J-RHYTHM registryは,日本人非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に対する経口抗凝固療法(OAC)の実態とワルファリンの適切なPT-INR管理域を検討するために行われた前向き登録観察研究であり,2年間の追跡が行われた1)。同試験は2009~2011年に実施されたが,その後非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が登場し,広く臨床に用いられるようになった。しかし,NOAC投与患者におけるイベント発症率に関するデータは,まだ十分でない。そこで,同試験の追跡期間を3年間延長し,ワルファリンが投与されているNVAF患者の長期転帰をNOAC投与患者と比較するJ-RHYTHM Registry 2が行われた。
●方法
J-RHYTHM Registry 2の試験デザインは,J-RHYTHM Registryから引き継がれており,同試験(7,937例)終了後の追跡調査継続に同意を得られなかった患者,弁膜症性心房細動,追跡不能,最終追跡時のOAC不明例を除外した5,460例を解析した2)。
主要評価項目は血栓塞栓症(症候性脳梗塞,一過性脳虚血発作[TIA],全身性塞栓症),重大な出血事象(頭蓋内出血,消化管出血,入院を要する出血を含む),全死亡である。
●患者背景
J-RHYTHM Registry 2では,観察期間中に多くの患者の薬剤が様々なパターンで変更されたが,本発表はイベント発症時または追跡期間終了時の投与薬剤をもとに解析を行った。内訳は,ワルファリン群3,964例,NOAC群923例(リバーロキサバン403例,ダビガトラン325例,アピキサバン184例,11例はNOACの薬剤名不明),非OAC群753例である。
NOAC群の平均年齢は67.1歳で,ワルファリン群70.1歳,非OAC群68.3歳よりも若齢であった(p<0.001)。男性の割合はそれぞれ72.4%,71.2%,71.6%と3群で同程度であった。心房細動のそれぞれの病型において,群間の患者数には差異がみられ(p<0.001),たとえば発作性心房細動はそれぞれ41.6%,34.3%,59.1%であった。平均CHADS2スコアはNOAC群が1.4ともっとも低く,ワルファリン群1.7,非OAC群1.5であった(p<0.001)。
登録時のワルファリン投与率は,ワルファリン群で95.5%(初回登録時よりワルファリンが継続されている),NOAC群で84.1%(ワルファリンからNOACに変更),非OAC群では44.1%(ワルファリンが中止され,OAC投与なし)であった(p<0.001)。一方,抗血小板薬併用はワルファリン群が23.1%ともっとも低く,NOAC群27.3%,非OAC群41.2%であった(p<0.001)。
●結果
1. 血栓塞栓症
血栓塞栓症は全体で4.1%(0.9%/年)に発症した。薬剤別ではNOAC群が2.1%ともっとも低く,ワルファリン群4.9%,非OAC群6.0%であった(p<0.001)。 抗血小板薬併用有無別の血栓塞栓症は,NOAC群では併用あり4.1%,併用なし1.6%で有意差はなかったが,ワルファリン群(あり7.8%,なし4.3%),非OAC群(あり9.6%,なし3.5%)では併用ありのほうが多かった(いずれもp<0.001)。
2. 重大な出血事象
重大な出血事象は全体で4.6%(1.0%/年)に発現した。薬剤別ではNOAC群が2.4%ともっとも低く,ワルファリン群5.9%,非OAC群4.8%であった(p<0.001)。 抗血小板薬併用の有無別では,NOAC群(あり1.7%,なし2.4%),非OAC群(あり4.3%,なし5.1%)では有意差はなかったが,ワルファリン群(あり8.5%,なし5.2%)では併用ありのほうが多かった(p<0.001)。
3. 死亡
全死亡は全体で6.5%(1.5%/年)に認められた。薬剤別ではNOAC群が1.4%ともっとも低く,ワルファリン群5.8%,非OAC群13.9%であった(p<0.001)。抗血小板薬併用の有無別では,NOAC群(あり1.7%,なし1.4%),非OAC群(あり13.6%,なし14.2%)では有意差はなかったが,ワルファリン群(あり9.5%,なし4.9%)では併用ありのほうが多かった(p<0.001)。
心血管死は全体で1.7%(0.4%/年)に認めた。薬剤別ではNOAC群が0.3%ともっとも低く,ワルファリン群1.8%,非OAC群3.6%であった(p<0.001)。 抗血小板薬併用の有無別では,NOAC群(あり0%,なし0.4%),非OAC群(あり4.7%,なし2.9%)では有意差はなかったが,ワルファリン群(あり3.1%,なし1.5%)では併用ありのほうが多かった(p=0.006)。
なお,本登録研究における抗血小板薬投与例は非投与例に比べ高齢で,冠動脈疾患例が多く,CHADS2スコアが高いという特徴があった。この傾向はワルファリン群で特に顕著であった。
4. 薬剤別のイベントオッズ比
CHA2DS2-VAScスコアの構成因子および抗血小板薬併用の有無を交絡因子として補正し,非OAC群を対照にオッズ比を算出した。その結果,NOAC群における血栓塞栓症のオッズ比は0.42(95%信頼区間[CI]0.24-0.74,p=0.003),重大な出血事象では 0.53(95%CI 0.31-0.93,p=0.027),全死亡では 0.10(95%CI 0.06-0.18,p<0.001),心血管死では0.12(95%CI 0.04-0.40,p=0.001)であり,すべての評価項目で有意に低値であった。
ワルファリン群では,血栓塞栓症のオッズ比は 0.90(95%CI 0.64-1.28,p=0.553),重大な出血事象では 1.20(95%CI 0.83-1.73,p=0.343),全死亡は0.30(95%CI 0.23-0.39,p<0.001),心血管死では0.44(95%CI 0.27-0.70,p=0.001)であり,全死亡および心血管死において有意に低値であった。
●結論
日本人NVAF患者においてNOACは,非OACあるいはワルファリンと比べ,今回検討したすべてのイベント発症抑制において有益である可能性がある。本結果は,心房細動治療(薬物)ガイドラインにおいて,ワルファリンとNOACの両方が適応となる場合,NOACの使用がより推奨されることを支持するものである。
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