中村紘規氏 |
アブレーション周術期において,ワルファリン継続下ならびに術当日のNOAC中止下のいずれにおいても,症候性血栓塞栓症は認められず,出血性合併症について経口抗凝固薬による差異は認めなかった-3月19日,第80回日本循環器学会学術集会(JCS 2016)にて,中村紘規氏(群馬県立心臓血管センター循環器内科)が発表した。
●背景・目的
心房細動カテーテルアブレーション(以下,アブレーションと略す)周術期における抗凝固療法については,ワルファリンを継続投与するほうが中断するよりもイベント発現率が低いと報告されている1)。また,非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)に関しても継続投与での検討が行われ2~4),ビタミンK拮抗薬と血栓塞栓症および出血性合併症の発現頻度に有意な差はなく,周術期のNOAC継続投与がビタミンK拮抗薬の代替薬となることが示唆されている。
現在,日本では五つの経口抗凝固薬が使用可能であるが,今回,アブレーション施行前よりこれらによる抗凝固療法が行われた患者において,症候性血栓塞栓症(脳梗塞,一過性脳虚血発作,全身性塞栓症),出血性合併症,無症候性脳虚血性病変(SCIL)の発現状況やその予測因子を同定することを目的に,検討を行った。
●対象・方法
対象は,2013年9月~2015年8月にアブレーションを行った連続症例917例である。アブレーション施行前後の経口抗凝固療法は,ワルファリン群(216例)は中断なく継続(アブレーション施行前日,当日,翌日とも夕のみ服用),NOACは当日のみ中止し(ダビガトラン[172例],アピキサバン[191例]は当日の朝夕,リバーロキサバン[316例],エドキサバン[22例]は当日朝のみ中止),施行前日および翌日は通常どおりの服用とした。
アブレーション施行時は,大腿静脈穿刺直後にワルファリン群では5,000単位,NOAC群では10,000単位のヘパリンをボーラス投与した。心房中隔穿刺後は500~1,000単位/時および追加ボーラス(1,000~5,000単位)投与により,ACT 300~350秒を維持した。アブレーション施行終了時にはヘパリン投与を一時中止し,穿刺部位の止血および心囊液貯留のないことを確認後,翌日の抗凝固薬再開まで10,000単位/日の持続投与を行った。
●患者背景
対象患者は年齢中央値65歳,男性73.4%,体重中央値64.1kgで,心房細動の病型は発作性50.8%,持続性29.7%,長期持続性19.5%であった。CHADS2スコア中央値は1点であり,0点は33.0%,1点は39.6%,≧2点は27.4%であった。11.1%が抗血小板薬を併用していた。
薬剤別にみると, NOACの3剤はワルファリン群に比べ,発作性心房細動が多く(ワルファリン群35.2%に対しダビガトラン群52.9%,リバーロキサバン群58.5%,アピキサバン群52.4%,すべてp<0.01),リバーロキサバン群(p<0.01),アピキサバン群(p<0.05)ではワルファリン群に比べCHADS2スコアが低かった(CHADS2スコア中央値はすべて1点)。
アブレーション施行中の平均ACTは,ワルファリン群に比べすべてのNOAC群で短く(ワルファリン群に対しすべてp<0.01),最長ACT値も同様であった(ワルファリン群に対しダビガトラン群,リバーロキサバン群,アピキサバン群ではp<0.01,エドキサバン群ではp<0.05)。
●結果
1. 周術期合併症
死亡,症候性血栓塞栓症はいずれも認めなかった。
重大な出血事象は全体で7例(0.76%),内訳はワルファリン群3例(1.4%),ダビガトラン群1例(0.6%),リバーロキサバン群3例(0.9%)であったが,群間差は認めなかった(p=0.562)。小出血は全体で71例(7.7%),内訳はワルファリン群19例(8.8%),ダビガトラン群9例(5.2%),リバーロキサバン群24例(7.6%),アピキサバン群18例(9.4%),エドキサバン群1例(4.5%)で,群間差は認めなかった(p=0.569)。
出血性合併症の有無により多変量解析を行ったところ,アブレーションに関連した出血性合併症の予測因子は長期持続性心房細動,HAS-BLEDスコア,透析,手技中の最長ACT値であった。NOAC投与患者では透析は禁忌であることから,透析例を除外した906例の検討を行ったところ,長期持続性心房細動(オッズ比[OR]2.544,95%信頼区間[CI]1.518-4.264,p<0.001),HAS-BLEDスコア(OR 1.29,95%CI 1.026-1.644,p=0.03),手技中の最長ACT値(OR 1.008,95%CI 1.002-1.013,p=0.012)が予測因子として同定された。
2. SCIL
アブレーション施行時のSCILについて,これまでの研究をまとめると,経口抗凝固療法継続例のほうが中断例より発現率が低いと報告されているが,それらのほとんどはワルファリンでの検討である。今回,アブレーション施行後MRIを行った236例(ワルファリン群41例,ダビガトラン群41例,リバーロキサバン群72例,アピキサバン群73例,エドキサバン群9例)について,検討を行った。
SCILは全体では34例(14.4%)に発現した(ワルファリン群9.8%,ダビガトラン群26.8%,リバーロキサバン群8.3%,アピキサバン群16.4%,エドキサバン群11.1%)。SCILの有無別に患者特性を比較したところ,心房細動の病型(発作性:SCIL発現例44.1%,非発現例51.5%,持続性:それぞれ20.6%,32.7%,長期持続性:35.3%,15.8%)および術式の種類(SCIL発現例は肺静脈隔離術[PVI]+追加焼灼例が多い)に有意差を認めた(それぞれp=0.022およびp=0.031)。
SCILの予測因子について多変量解析を行ったところ,長期持続性心房細動(OR 2.862,95%CI 1.271-6.448,p=0.011),ダビガトランの使用(OR 2.705,95%CI 1.176-6.223,p=0.019)が独立予測因子であった。
SCILを認めた34例中29例,44病変(ワルファリン群3例5病変,ダビガトラン群10例15病変,リバーロキサバン群3例7病変,アピキサバン群12例15病変,エドキサバン群1例2病変)に対し,術後137日(中央値)に追跡MRIを行った。44病変中41病変(93.2%)は消失し,3病変(6.8%,リバーロキサバン群,アピキサバン群,エドキサバン群各1病変)が慢性脳梗塞として残存した。
●まとめ
アブレーション周術期において,ワルファリン継続下ならびに術当日のNOAC中止下のいずれにおいても,症候性血栓塞栓症は認めなかった。SCILについては心房細動の病型,経口抗凝固薬の種類が発現頻度と関連する可能性が示唆されたものの,術後抗凝固薬継続下で慢性脳梗塞に進展する病変はわずかであった。また,出血性合併症については,経口抗凝固薬による差異は認められず,心房細動の病型,HAS-BLEDスコア,術中ACT値,維持透析が出血性合併症の予測因子として同定された。
NOACによるアブレーション周術期の抗凝固療法は,これまで標準治療であるワルファリン継続投与と同様,安全かつ有効な治療選択肢として期待できる。
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