有田卓人氏 |
観察期間の長い症例,若齢患者,1日2回服用薬使用例ではアドヒアランスが不良になる傾向がみられ,注意する必要がある-3月18日,第80回日本循環器学会学術集会(JCS 2016)にて,有田卓人氏(心臓血管研究所付属病院循環器内科)が発表した。
●背景・目的
非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は薬物動態が予測でき,食物-薬物相互作用が少なく,抗凝固モニタリングを必要としないなど,ビタミンK拮抗薬(VKA)に比べ多くの利点を有する。ただし,血中半減期が短いことから,ノンアドヒアランスが脳卒中および死亡リスクに及ぼす影響は,VKAより強い可能性があると考えられる。最近の研究では,NOAC投与患者における薬剤の継続および中断率は,VKA投与患者におけるそれと同程度との報告もある。 今回われわれは,単施設のデータベースを用い,リアルワールドにおいてNOAC(ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン)を服用している非弁膜症性心房細動(NVAF)患者のアドヒアランスとその影響因子について検討した。
●対象・方法
対象は,2011年3月~2014年7月,当施設にてNOACを180日以上投与された745例である。電気的除細動および肺静脈隔離術施行のための投与例は除外した。アドヒアランスは,NOACが実際に処方された日数を初回処方から追跡終了までの観察期間全日数で割ったもの(proportion of days covered:PDC)と定義し,PDCが90%以上の699例(93.8%)をアドヒアランス群,90%未満の46例(6.2%)をノンアドヒアランス群とした。
●結果
1. 患者背景
アドヒアランス群の平均年齢は71歳で,ノンアドヒアランス群67歳に比べ高齢で(p=0.007),平均観察期間が短かった(それぞれ534日,832日,p<0.001)。男性の割合(72%,76%),平均CHADS2スコア(1.46,1.33),同スコア2点以上(46%,41%),脳梗塞/一過性脳虚血発作(TIA)既往(6%,4%)は同程度であった。また,アドヒアランス群では抗血小板薬併用率が高く(14%,4%, p=0.004),1日2回服用薬を使用している割合が低かった(64%,85%,p<0.001)。
2. ノンアドヒアランスの予測因子
多変量モデルロジスティック回帰分析によると,ノンアドヒアランスの予測因子は,観察期間(100日延長ごと,オッズ比[OR]1.187,95%信頼区間[CI]1.100-1.282,p<0.001),年齢(OR 0.962,95%CI 0.931-0.993,p=0.018),1日2回服用薬の使用(OR 2.312,95%CI 0.982-5.443,p=0.055)であった。
上記項目を検討したところ,ノンアドヒアランス例は高齢者より若齢者(傾向p=0.027),1日1回服用薬使用例より1日2回服用薬使用例(p=0.004),観察期間が短い症例より長い症例(p<0.001)でそれぞれ多かった。
3. 脳梗塞発症
脳梗塞発症はアドヒアランス群6例(0.54%/年),ノンアドヒアランス群0例で,有意差を認めなかった(p=0.339)。
●考察
本研究のノンアドヒアランス(PDC<90%)の割合は6.2%と,先行研究に比べきわめて低かった。この理由は明確ではないものの,患者の高い社会経済状況がNOACの治療継続率と関係しているとの報告1)もあり,当院で診療される患者の医療環境や経済状況が関係している可能性が考えられる。
一方,先行研究からは,トラフ時の薬剤濃度低値はノンアドヒアランスの予測因子であること2),ノンアドヒアランスは臨床転帰不良につながること3)が示唆されている。また観察期間の長さが予測因子の一つになったことは,治療意欲の低下を示唆する可能性があり,これは先行するスタチンの報告とも一致する4)。
本研究においてアドヒアランスが良好であったことは,脳梗塞発症率が低かったことの一因と考えられる。
●まとめ
当施設でNOACを開始したNVAF患者の大部分は,アドヒアランスが良好であった。ただし,観察期間の長い症例,若齢患者,1日2回服用薬使用例ではアドヒアランスが不良になる傾向がみられたことから,注意する必要がある。
文献
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