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米国心臓協会学術集会(AHA 2017)2017年11月11〜15日,アナハイム
心房細動をどう管理するか
2017.12.14 AHA 2017取材班
Isabelle Van Gelder氏
Isabelle Van Gelder氏

心房細動患者の生存率と再発予防には,抗凝固療法に加え併存疾患の管理も重要-11月12日,米国心臓協会学術集会(AHA)にて,Isabelle C. Van Gelder氏(University Medical Center Groningen, オランダ)が発表した。

●併存疾患の管理

2016年の欧州心臓病学会(ESC)心房細動診療ガイドラインでは,心房細動の管理を「5ステップ」で提示している。ステップ1で血行動態を改善し,ステップ2で増悪因子を管理することが推奨されている1)。これらは併存疾患の管理を行うことで心血管リスクを低減し,生存率を向上させることが目的である。

ここで,併存疾患の管理と心血管イベントリスクの低減に関する知見を3つ紹介する。1つ目はHOPE3試験2, 3)である。対象は心房細動患者ではないものの,男性55歳以上,女性65歳以上で,心血管疾患はないが心血管リスク因子(ウエスト-ヒップ比の上昇,喫煙,耐糖能異常,初期の糖尿病,冠動脈疾患の家族歴,初期の腎機能障害,高血圧)を1つ以上有する患者である。したがって,われわれが日常臨床で頻繁に遭遇する心房細動患者と背景が共通する患者を対象とした試験といえる。

この試験は,コレステロール低下治療(ロスバスタチン vs プラセボ)と降圧治療(カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド併用 vs プラセボ)を検討する2×2ファクトリアルデザインで行われた。コレステロール低下薬群ではLDLコレステロールが,降圧薬群では収縮期血圧が低下し,それぞれ心血管イベント発症率がプラセボ群より有意に低下した。

CARDIO-FIT試験4)は,肥満の発作性または持続性心房細動患者を対象に,運動などによる心肺適応能(cardiorespiratory fitness:CRF)の改善がもたらす効果を検討した試験である。CRFの改善および10%以上の体重減少の両方が得られた心房細動患者では,心房細動の無イベント生存率が向上することが示された。RACE3試験5)では,初期の持続性心房細動および心不全を有する患者を対象に,電気的除細動前に併存疾患の治療を行った場合の効果を検討した。その結果,併存疾患の治療は,1年後の洞調律維持率を高くすることが示された。

これらの試験から,併存疾患をターゲットにした治療が心房細動患者の生存率と再発予防に重要であることがわかる。

●心房細動患者の脳卒中発症抑制

ESCガイドラインにおける心房細動管理のステップ3は,「脳卒中リスクの評価」である。脳卒中の発症抑制もまた,心房細動患者の生存率向上に非常に重要である。

脳卒中リスクの評価にはCHA2DS2-VAScスコアを用い(2016 ESC:クラスI,レベルB),2点以上に対して経口抗凝固薬を投与する。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)はワルファリンと同等またはそれ以上の脳卒中/全身性塞栓症発症抑制効果を示し,出血リスクを高めないことから,DOACの適応となる患者に対しては,ワルファリンよりもDOACが推奨されている(2016 ESC:クラスI,レベルA)。

ただし,中等度~重度の僧帽弁狭窄症あるいは人工心臓弁の患者に対しては,依然としてワルファリンが唯一の選択肢である(2016 ESC:クラスI,レベルB)。また,抗凝固療法では出血が重要な問題であり,修正可能な出血リスク因子を特定する必要がある(2016 ESC:クラスIIa,レベルB)。しかし,出血リスクのみを懸念して抗凝固療法の開始や継続を断念すべきではない。

抗凝固療法を開始する際は,脳卒中および出血のリスクについて患者とよく話し合い,患者の意向にもとづいた決定を行わなくてはならない(2016 ESC:クラスI,レベルC)。

●症状改善を目的とした心房細動治療

ESCガイドラインにおける心房細動管理のステップ4,5では,症状を改善するための治療,つまり「レートコントロール」あるいは「リズムコントロール」を行うことが推奨されている。

心房細動患者にレートコントロールを行う目的は4つあると考えられる6)。1つ目は追加治療としての投与である。すなわち,リズムコントロールを行っているかどうかにかかわらず,心房細動再発時に頓服薬として服用し,心拍数の安定化を図る。2つ目は,症状がほとんどない高齢患者に対する第一選択薬としての投与である。3つ目は,リズムコントロールがうまくいかなかった場合の投与,4つ目は洞調律に戻すリスクがベネフィットを上回る場合の投与である。

2014年のAHA/ACC/HRS心房細動ガイドラインには,レートコントロールに用いる薬剤としてβ遮断薬,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ジゴキシンが記載されている7)。併存疾患がある場合には,それに応じた薬剤選択を行う。たとえば,左室駆出率が低下している心不全患者に対してCa拮抗薬は選択できないといった具合である。症状のある心房細動患者に対しては,安静時心拍数を80回/分未満にコントロールするとよい(2014 AHA/ACC/HRS:クラスIIa,レベルB)。一方,症状がなく左室収縮能が維持されている心房細動患者に対しては,安静時心拍数を110回/分未満という緩徐なレートコントロールが適している可能性がある(2014 AHA/ACC/HRS:クラスIIb,レベルB)。

リズムコントロールもまた併存疾患によって使い分ける必要がある。器質的心疾患のない発作性心房細動に対しては,カテーテルアブレーションが第一選択となっているが,治療の判断は患者の意向にもとづくことが重要である。

●まとめ

心房細動患者における脳卒中発症抑制の第一選択薬はDOACである。一方で,心房細動は単独で存在することはまれであり,多くの場合,患者は併存疾患を抱えている。加齢,男性(性別),人種,遺伝的要素などの修正できない要素のほかに,修正可能な要素も数多く存在する。たとえば飲酒,喫煙,肥満,高血圧,糖尿病などである。心房細動の管理にあたっては,これらを特定し,治療することが重要となる。

文献

  • Kirchhof P, et al. 2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with EACTS. Eur Heart J 2016; 37: 2893-962.
  • Lonn EM, et al. for the HOPE-3 investigators: Blood-pressure lowering in intermediate-risk persons without cardiovascular disease. N Engl J Med 2016; 374: 2009-20.
  • Yusuf S, et al. for the HOPE-3 investigators: Cholesterol lowering in intermediate-risk persons without cardiovascular disease. N Engl J Med 2016; 374: 2021-31.
  • Pathak RK, et al. Impact of CARDIOrespiratory FITness on Arrhythmia Recurrence in Obese Individuals With Atrial Fibrillation: The CARDIO-FIT Study. J Am Coll Cardiol 2015; 66: 985-96.
  • ESC2017にて発表
  • Van Gelder IC, et al. Rate control in atrial fibrillation. Lancet 2016; 388: 818-28.
  • January CT, et al. 2014 AHA/ACC/HRS guideline for the management of patients with atrial fibrillation: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on practice guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation 2014; 130: e199-267.


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