2017.12.14 | AHA 2017取材班 |
Daniel Kramer氏 |
「高齢者における直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の治療戦略」は重要な臨床的課題の1つである-11月12日,米国心臓協会学術集会(AHA)にて,Daniel B. Kramer氏(Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School,米国)が発表した。
●はじめに
心房細動診療において,現在のガイドラインだけでは対応できない問題に遭遇することがある。今回は,血栓塞栓症予防を目的とした薬物治療およびデバイス治療における臨床的課題に焦点をあて,その答えとなり得る2つの臨床試験のデザインを提案する。
●高齢者の抗凝固療法に関する臨床試験
心房細動の薬物治療における重要な臨床的課題の1つに,高齢者の抗凝固療法があげられる。高齢者では心房細動の発症率,有病率のみならず,脳卒中発症リスクが上昇することが知られており1, 2),経口抗凝固薬の効果がもっとも期待できる集団である。しかし,加齢により出血リスクも上昇するため,抗凝固療法が必要な患者であっても適切な管理が行われていない,または抗凝固療法自体行われていない場合も少なくなく,大きな問題となっている。
DOACはワルファリンにくらべ出血イベントが少なく,理論上薬物相互作用も少ないことから,抗凝固療法の第一選択とされている。
しかし,DOACもまた年齢,虚弱度,併存疾患などにより薬物動態や薬力学が変化する。とくに慢性腎臓病(CKD)は高齢心房細動患者に高率に合併し,薬物動態に影響を及ぼすことが知られている。一方,リアルワールドでの調査では,DOACの低用量を投与すべき腎機能低下例に対して通常量が投与されていたり(オーバードーズ),通常量を投与すべき患者で減量されているケース(アンダードーズ)が少なくないことが報告されている3)。また,DOAC同士の直接比較データは十分に得られていない。このようにDOACであっても,高齢者では解決すべき課題が多く存在する。
そこで,高齢者に対するDOAC投与について検討する臨床試験をデザインした。対象は,75歳以上で,ステージ2~3のCKD,フレイル,大出血の既往などを有し,DOAC低用量が適用される非弁膜症性心房細動患者である。抗血小板薬を要する患者には低用量アスピリンを投与し,アピキサバン2.5mg 1日2回,リバーロキサバン15mg 1日1回*,ダビガトラン75mg 1日2回,あるいはエドキサバン30mg 1日1回のいずれかにランダムに割り付け,出血,脳卒中/全身性塞栓症,腎機能低下の進展について観察するというものである。
●WatchmanとDOACを比較する臨床試験
心房細動患者における脳卒中/全身性塞栓症の発症予防において,経皮的左心耳閉鎖デバイスWatchmanとDOACのどちらが優れるかは不明である。Watchmanに関する臨床試験(PROTECT AF,PREVAIL)の5年後の成績を統合解析したデータからは,Watchmanがワルファリンよりも出血性脳卒中,大出血のリスクを低下させることが示唆されている4)。そして,DOACもまたワルファリンより出血性脳卒中を減少させることが示されている。
そこで,非弁膜症性心房細動患者におけるWatchmanとDOACの有用性を比較する無作為化比較試験を提案する。Watchman群には治療後45日間ワルファリンとアスピリンを投与し,その後抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)に切り替え,最終的にアスピリン単独投与とする。一方,DOAC群はアピキサバン,リバーロキサバン,ダビガトラン,エドキサバンのいずれかを投与し,血栓塞栓症や出血イベントを観察する。
出血リスクへの懸念から,可能であれば経口抗凝固薬の服用を避けたいと考える患者も存在する。そのような患者に対して,われわれは心房細動患者における血栓塞栓症予防の標準的治療であるDOACとWatchmanに関してどのような説明を行えばよいのか,その答えが得られるのではないかと期待する。
●まとめ
心房細動の血栓塞栓症予防に着目し,2つの臨床試験を提案した。資金面など,解決しなければならない問題も多いが,実施する機会が得られることを願っている。
*:リバーロキサバンの海外用量は20mg 1日1回(CLcr50mL/分未満は15mg 1日1回),わが国本邦での用量は15mg 1日1回(CLcr 50mL/分未満は10mg1日1回)です。
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