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欧州心臓病学会学術集会(ESC 2017)2017年8月26〜30日,バルセロナ
脳卒中/TIA/全身性塞栓症および大出血の既往を有する心房細動患者の特徴と転帰:Fushimi AF Registry
2017.9.28 ESC 2017取材班
小川尚氏
小川尚氏

脳卒中/TIA/全身性塞栓症と大出血の両方の既往を有する日本人心房細動患者は,大出血の既往がない患者と比べ大出血再発リスクが高い-8月28日,欧州心臓病学会(ESC)にて,小川尚氏(国立病院機構京都医療センター循環器内科医長)が発表した。

●背景・目的

心房細動は脳梗塞をはじめとする血栓塞栓症や死亡のリスクを増大させるが,心房細動患者において脳卒中,一過性脳虚血発作(TIA),全身性塞栓症(SE)の既往は脳梗塞再発のもっとも強いリスク因子である。そのため,脳卒中/TIA/SE既往を有する心房細動患者に対しては,経口抗凝固薬による二次予防がきわめて重要となる。一方で,大出血既往は大出血再発のリスク因子であるが,脳卒中/TIA/SEと大出血の両方の既往を有する症例に対し,経口抗凝固薬を処方すべきかどうかの決断には,困難がともなう。

 Fushimi AF Registryは,京都市伏見区の心房細動患者を全例登録し,長期追跡を行うことを目的として開始された,地域ベースの前向き研究である。2011年3月の登録開始以降,2016年12月までに4,442例(平均年齢73.6歳,平均CHADS2スコア2.04)が登録されている。

 本研究では,Fushimi AF Registryの登録患者を対象に,脳卒中/TIA/SE既往例について,大出血既往の有無別に臨床的特徴,治療および転帰を評価した。

●方法・対象

脳卒中/TIA/SE既往を有する832例を,ベースライン時の大出血既往の有無で分類した。なお,大出血はISTH出血基準にもとづき,ヘモグロビン値2g/dL以上の低下をきたす出血,2単位以上の輸血,重要な部位/臓器における症候性出血と定義した。

●結果

1. 大出血既往の有無別の患者背景

解析対象832例のうち,大出血既往例は106例(12.7%),非既往例は726例(87.3%)であった。既往例は非既往例に比べ,女性が多かったが(47.2%,36.9%,p=0.042),年齢(それぞれ77.7歳,76.6歳),BMI(22.3kg/m2,22.4kg/m2),血圧(124.9/71.9mmHg,126.0/71.3mmHg),心房細動の病型(発作性39.6%,38.4%,持続性4.7%,9.2%,永続性55.7%,52.3%)は同様であった。

また,CHADS2スコア(3.84,3.70),CHA2DS2-VAScスコア(5.37,5.18)には有意差を認めなかったが,HAS-BLEDスコア(4.28,3.27,p<0.001)は大出血既往例のほうが高かった。

合併症では,大出血既往例は非既往例に比べ,出血性脳卒中(69.8%,0%,p<0.001)の割合が多く,逆に虚血性脳卒中(42.5%,86.4%,p<0.001),TIA(1.9%,10.5%,p=0.005)やSE(0.9%,6.5%,p=0.023)は少なかった。そのほか大出血既往例では,経口抗凝固薬(57.6%,70.2%,p=0.009)や抗血小板薬(30.2%,40.5%,p=0.042)の投与割合が少なかった。(数値は割合または平均値を示す)

2. 臨床イベント発症率

次に,大出血既往例と非既往例で追跡期間中の臨床イベントを比較したところ,全死亡(HR[95%CI]1.22[0.82-1.75],p=0.325,log-rank p=0.313),脳卒中/SE(HR 1.20[0.64-2.08],p=0.543,log-rank p=0.534)の発症には有意差を認めなかった。しかし,出血性脳卒中(HR 3.39[1.20-8.45],p=0.024,log-rank p=0.008)および大出血(HR 1.93[0.95-3.58],p=0.067,log-rank p=0.046)の発症は,大出血既往例でリスクが増大した。

3. 抗凝固薬・抗血小板薬の服用別に見た臨床イベント発症率

経口抗凝固薬および抗血小板薬の有無で調整後のハザード比は全死亡(HR 1.11[0.74-1.61],p=0.593),脳卒中/SE(HR 1.21[0.64-2.11],p=0.053)の発症は大出血の既往例と非既往例で差はなかったが,出血性脳卒中(HR 3.30[1.15-8.40],p=0.028),大出血(HR 2.08[1.01-3.90],p=0.046)の発症は大出血既往例で有意に高かった。

また,大出血既往例のみにおいて全死亡,脳卒中,SE,大出血の複合エンドポイント発症率を,経口抗凝固薬の有無別に検討したところ,経口抗凝固薬を投与されている群で発症率が低い傾向を認めたが,有意差は認められなかった(HR 0.58[0.31-1.09],p=0.091,log-rank p=0.086)。

●結論

脳卒中/TIA/SEと大出血の両方の既往を有する日本人心房細動患者は,大出血非既往例と比べHAS-BLEDスコアが高く,抗凝固療法が控えられる傾向にあった。大出血既往例における観察期間中の全死亡ならびに脳卒中/SEの発症リスクは非既往例と同程度であったが,大出血の再発リスクは高かった。


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