2017.4.3 | JCS 2017取材班 |
奥村謙氏 |
日本人の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者のための脳梗塞リスク層別化として,脳卒中既往,高齢,持続性心房細動,高血圧,BMIから成る新しいスコアリング法を開発-3月18日,第81回日本循環器学会学術集会(JCS 2017)にて,奥村謙氏(済生会熊本病院最高技術顧問)が発表した。
●背景・目的
NVAF患者の血栓塞栓症リスク層別化において,現在,CHADS2スコアおよびCHA2DS2-VAScスコアが広く用いられている。しかし,わが国を代表する心房細動の登録観察研究,伏見 AF レジストリーでは,両スコアに含まれる項目のうち,いくつかは血栓塞栓症の有意なリスク因子ではなく,どちらにも含まれていない低体重(50kg以下)が有意なリスク因子の1つとして同定された1)。このように,日本人患者における脳梗塞リスクは,欧米とは異なる可能性がある。
CHADS2スコアについて,National Registry of AF における検討では,同スコアによるリスク評価と血栓塞栓症の発現率に明らかな相関を認めた。C統計量も0.82と,同スコアがリスク予測にすぐれることが示されている2)。しかしJ-RHYTHM Registryでは,CHADS2スコアと血栓塞栓症リスクの相関性は高くなく,C統計量は0.638であった3,4)。
今回,わが国を代表する5つの登録観察研究(J-RHYTHM Registry,伏見AF レジストリー,心研データベース,慶応KiCS-AFレジストリー,北陸plus心房細動登録研究)のデータを統合し,脳梗塞のリスク因子を同定したうえで,日本人NVAF患者のためのリスク層別化法の開発とその妥当性の検討を行った。本研究は,日本医療研究開発機構(AMED)から資金提供を受け,J-RISK AF Research Groupとして行ったものである。
●対象
対象は,わが国で行われた5つの登録研究の登録患者のうち,弁膜症性心房細動およびデータ欠損例を除くNVAF患者12,127例である。
平均年齢は70.1歳で,女性が31%を占めた。既往症は,うっ血性心不全26%,高血圧73%,糖尿病21%,脳卒中14%,血管疾患14%に認められた。心房細動の病型は発作性45%,非発作性55%であった。平均CHADS2スコアは1.7点,平均CHA2DS2-VAScスコアは2.9点であった。BMIは<18.5が7%,18.5~24.9が62%,≧25が31%であった。経口抗凝固薬(OAC)の投与状況はワルファリン64%,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)10%で,非投与例は26%であった。
●結果
平均追跡期間1.67年において,226例が新たに脳梗塞を発症した。20,267人・年での年間発症率は1.1%であった。
脳梗塞の発症についてCHADS2スコア別でみると,低リスク(0点)に対し,中等度リスク(1点)ではハザード比(HR)1.38,95%信頼区間(CI)0.78-2.44と有意差を認めなかったが(p=0.267),高リスク(2点以上)では有意なリスク上昇がみられた(HR 3.20,1.92-5.35,p<0.001)。C統計量は0.612と必ずしも高くはなかった。CHA2DS2-VAScスコア別では,低リスク(0点)に対し中等度リスク(1点)ではHR 0.47,0.20-1.08,p=0.074と脳梗塞リスクはむしろ低い傾向があり,高リスク(2点以上)でHR 1.69,0.92-3.10,p=0.091とリスクの上昇傾向を認めたのみで,C統計量は0.564であった。
1. リスク因子の同定および新規スコアリングの開発
Log-rank検定による単変量解析の結果,脳梗塞の発症率に有意差がみられた因子は,うっ血性心不全,高血圧,年齢(75~84歳,85歳以上),脳卒中既往,持続性心房細動(発作性に対し),血中クレアチニン高値(≧1.0 mg/dL),BMI<18.5,ヘモグロビン低値,およびALT低値であった。糖尿病,性別については,有意差を認めなかった。
Cox比例ハザードモデルによる多変量解析を行った結果,脳梗塞の有意なリスク因子として,OAC非服用(HR 1.94,95%CI 1.40-2.68,p<0.001),脳卒中既往(HR 2.79,2.05-3.80,p<0.001),75~84歳(HR 1.65,1.23-2.22,p=0.001),85歳以上(HR 2.26,1.44-3.55,p<0.001),持続性心房細動(発作性に対し,HR 1.65,1.23-2.23,p=0.001),高血圧(HR 1.74,1.20-2.52,p=0.003),BMI<18.5(HR 1.53,1.02-2.30,p=0.04)が同定された。
同定されたリスク因子について,HRの対数変換値をもとに各因子に以下のスコアを付与し,リスクの重み付けを行った。
脳卒中既往=10点,75~84歳=5点,85歳以上=8点,持続性心房細動=5点,高血圧=6点,BMI<18.5=4点
2. 妥当性の検証
本スコアリング法にもとづき,対象患者を4つのグループ(0~4点,5~12点,13~16点,17~33点)に層別化し脳梗塞発症についてみたところ,合計点数0~4点の低リスク例にくらべ,5~12点ではHR 2.16,95%CI 0.95-4.95(p=0.068),13~16点ではHR 4.20,1.80-9.80(p=0.001),17~33点ではHR 9.20,4.02-21.06(p<0.001)となり,スコア上昇にともなう段階的な脳梗塞リスクの上昇が確認され,C統計量は0.669であった。
本対象患者におけるCHADS2スコアのC統計量は0.612,CHA2DS2-VAScスコアでは0.564であり,これらにくらべ,今回開発したスコアリング法は脳梗塞リスクの予測にすぐれていることが示唆された。
OAC服用の有無によるサブグループ解析においても,新規スコアリングと脳梗塞リスクとの間に同様の傾向が認められ(非服用例のC統計量=0.691,服用例のC統計量=0.668),両グループともにCHADS2スコア(0.631,0.612),CHA2DS2-VAScスコア(0.581,0.564)のC統計量を上回っていた。
●結論
今回,日本人NVAF患者のための脳梗塞リスクの新しいスコアリング法(脳卒中既往=10点,75~84歳=5点,85歳以上=8点,持続性心房細動=5点,高血圧=6点,BMI<18.5=4点)を開発した。同スコアリング法によるリスク層別化は,現在広く利用されているCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアよりも,日本人NVAF患者の脳梗塞リスク予測に有用な可能性が示唆された。
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