経口抗凝固療法中の日本人心房細動患者における大出血リスク因子
-Fushimi AF Registry
2017.4.5 | JCS 2017取材班 |
石井充氏 |
経口抗凝固薬(OAC)内服中の日本人心房細動患者において,大出血との関連が示唆されたのは65歳以上,貧血,抗血小板薬-3月18日,第81回日本循環器学会学術集会(JCS 2017)にて,石井充氏(国立病院機構京都医療センター循環器内科)が発表した。
●背景・目的
OACは心房細動患者における脳梗塞リスクを低減させるが,その一方で出血リスク増加の懸念がある。出血リスク因子について,これまでHAS-BLEDスコア,ORBITスコア,ATRIAスコアなど,さまざまな報告がなされている1~3)。
Fushimi AF Registryは,京都市伏見区の心房細動患者を全例登録することを目指し,患者背景や治療の実態調査,予後追跡を行う前向き登録観察研究である。伏見区は総人口約280,000人を擁する京都市内最大の行政区であり,わが国の典型的な都市型人口構成を有している。
本研究では,Fushimi AF RegistryにおけるOAC内服中の日本人心房細動患者について,大出血に関連するリスク因子の検討を行った。
●対象・方法
Fushimi AF Registry登録患者4,680例(伏見区総人口の1.7%)のうち,2016年7月末時点で1年間の追跡が完了している3,979例を解析対象とした。解析対象患者の平均年齢は73.7歳,59.4%が男性で,平均体重は59.2kgであった。心房細動の病型は発作性48.8%,持続性9.4%,永続性41.8%。併存疾患は,脳卒中/全身性塞栓症(SE)既往が20.5%,心不全が27.3%,高血圧が62.3%,糖尿病が23.1%に認められた。平均CHADS2スコアは2.03点であった。
登録時のOACの有無により,患者背景およびイベント発症率を比較した。また,登録時にOACを内服していた症例について,追跡中の大出血発現の有無別に患者背景を比較し,大出血に関連する因子を検討した。
●結果
1. OACの有無別の患者背景
解析対象3,979例のうち,OACあり群は2,150例(54.3%),なし群は1,807例で,22例では不明であった。OACあり群はなし群にくらべ高齢で(平均年齢はそれぞれ74.1歳,73.1歳,p=0.0065),男性(62.1%,56.5%,p=0.0004),永続性心房細動が多かった(発作性37.3%,62.3%,持続性10.3%,8.4%,永続性52.3%,29.3%,p<0.0001)。OACあり群はなし群にくらべ体重が重く(60.2kg ,58.2kg),脳卒中/SE(25.8%,14.2%),心不全(33.6%,19.8%,ここまでp<0.0001),高血圧(64.3%,59.8%,p=0.0036),糖尿病(24.8%,20.9%,p=0.003)が多かった。
平均CHADS2スコアは2.25点,1.77点と,OACあり群のほうが高かった(p<0.0001)。
2. OAC中の大出血発現率
OACあり群の大出血は136例(6.3%)に発現し,なし群の発現率にくらべ高い傾向がみられた(log-rank検定 p=0.063)。
3. 大出血発現の有無別の患者背景
登録時にOACが投与されていた2,150例について,追跡中の大出血発現の有無(136例/2,014例)により患者背景を検討した。
大出血あり群の平均年齢はなし群と同程度であった(それぞれ75.4歳,74.0歳,p=0.08)。大出血あり群はなし群にくらべ男性が多く(70.6%,61.5%,p=0.031),平均体重が重く(62.8kg,60.0kg,p=0.023),収縮期血圧(126.8mmHg,123.2mmHg,p=0.032),クレアチニン(1.25mg/dL,1.03mg/dL,p=0.0048)が高かった。大出血あり群は登録時からヘモグロビンが低く(12.7g/dL,13.1g/dL,p=0.029),貧血が多かった(21.4%,13.4%,p=0.016)。脳卒中/SE既往(29.4%,25.6%)のほか,心不全,高血圧,糖尿病,慢性腎臓病に関しては有意差を認めなかった。
抗血栓療法をみると,大出血あり群ではなし群にくらべワルファリンが多く(93.4%,81.4%,p<0.0001),直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は6.6%,18.6%と少なかった(p<0.0001)。大出血あり群では抗血小板薬使用(34.6%,22.8%,p=0.0027),抗血小板薬2剤以上併用(4.4%,2.8%,p=0.01)が多かった。
リスクスコアに関しては,平均CHADS2スコア(大出血あり群2.52点,なし群2.23点,p=0.011),平均HAS-BLEDスコア(2.19点,1.75点,p<0.0001),平均ORBITスコア(2.29点,1.87点, p=0.0022)は,いずれも大出血あり群で有意に高かった。平均CHA2DS2-VAScスコア(3.87点,3.59点,p=0.051),平均ATRIAスコア(6.95点,6.58点,p=0.13)では有意差を認めなかった。
4. 大出血に関与する因子の検討
大出血に関連する因子を検討したところ,年齢65歳以上(p=0.015),貧血(ヘモグロビン<11.0g/dL,p=0.0004),抗血小板療法(p=0.0047)で有意差を認め,大出血が多くなった。性別,高血圧(≧160mmHg),腎機能障害,肝機能障害,脳卒中既往,出血既往では有意差はみられなかった。
●結論
OACを内服している日本人心房細動患者において,65歳以上,貧血,抗血小板療法は,大出血との関連が示唆された。
文献
▲TOP |