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第42回日本脳卒中学会学術集会(STROKE 2017)2017年3月16〜19日,大阪
急性期心原性脳塞栓症患者に対する経口抗凝固療法開始時期
2017.3.31 STROKE 2017取材班
新井徳子氏
新井徳子氏

非弁膜症性心房細動(NVAF)を有する急性期脳梗塞患者において,経口抗凝固療法(OAC)は欧米の推奨よりも比較的早期に開始されており,出血イベントは少ない-3月16日,第42回日本脳卒中学会学術集会(STROKE 2017)にて,新井徳子氏(埼玉医科大学国際医療センター神経内科),出口一郎氏(埼玉医科大学国際医療センター神経内科講師)が発表した。

●背景・目的

 NVAFは脳梗塞のリスク因子であり,非NVAF例よりも脳梗塞発症率は約5倍高いとされている。心原性脳塞栓症は,発症後早期の再発リスクが高いため,可能な限り早期にOACを開始(または再開)する必要がある。NVAFを有する脳梗塞急性期のOAC開始時期について,米国のガイドラインは発症後14日以内を推奨しており1),欧州不整脈学会(EHRA)は,脳卒中の重症度に応じてOACの開始時期を決定する「1-3-6-12ルール」を提唱している2)。しかし,これらは十分なエビデンスにもとづいたものではない。NVAFを有する脳梗塞急性期のOAC至適開始時期は,あまり検討されていない。

 本研究では,「出血性梗塞を生じる可能性が低い比較的軽症な脳梗塞急性期では,EHRAの提唱より早くOACが行われている」という仮説を検証するため,脳梗塞発症後のOAC開始時期について検討した3)

●対象・方法

 2012年4月~2016年3月に入院した,NVAFをともなう急性期脳梗塞患者のうち,OACが投与された300例を対象とした。NVAFはリウマチ性僧帽弁疾患(僧房弁狭窄症),人工弁置換のない心房細動と定義した。

 処方薬別(直接作用型経口抗凝固薬:DOACまたはワルファリン)に,患者背景および脳梗塞発症からOAC 投与開始までの日数について比較した。また,入院時の重症度別(軽症:National Institutes of Health stroke scale:NIHSS<8,中等症:同8~16,重症:同>16)でも検討を行った。

●患者背景

 186例にDOAC,114例にワルファリンが処方された。DOAC群はワルファリン群よりも若齢で(平均年齢はそれぞれ74.8歳,79.7歳),女性が少なかった(36.9%,57.9%)。DOAC群は平均クレアチニンクリアランスが高く(66.1mL/分,47.5mL/分),CHADS2スコア中央値(2[四分位範囲1~2],2[1~3]),CHA2DS2-VAScスコア中央値(3,4),入院時NIHSS中央値(4,9.5),OAC前のヘパリン静注施行率(7.5%,23.7%)は低かった。DOAC群の入院期間中央値は18.5日と,ワルファリン群37日にくらべ短かった(CHADS2スコアはp=0.001,それ以外はすべてp<0.001)。再開通療法施行率は20.4%,12.3%で,有意差はなかった。

 患者年代別のOAC処方率は,若齢の患者ほどワルファリンよりもDOACが多く,高齢になるにしたがいワルファリンが多く処方されていた。

●結果

1. 薬剤別のOAC開始時期

 DOAC群における脳梗塞発症からOAC開始までの日数(中央値)は3日で,ワルファリン群の7日にくらべ有意に短かった(p<0.001)。

 DOACの種類別にOAC開始日(中央値)を解析したところ,ダビガトラン群1.5日,その他の各DOACはそれぞれ4日であり,ダビガトラン群では他のDOACよりも短かった。入院時NIHSSはダビガトラン群で2,その他のNOACでは4~7であった。

2. 入院時重症度別の比較

 入院時NIHSS別にOAC開始日(中央値)を解析したところ,軽症例(164例)2日,中等症例(88例)7日,重症例(48例)11日と,重症となるにしたがい開始までの日数が長くなった。DOAC群のみの解析でも,軽症例(118例)3日,中等症例(43例)4日,重症例(25例)9日と,同様の傾向がみられた。

3. 出血イベント

 OACの中止を必要とする出血イベントは,DOAC 群では認めなかったが,ワルファリン群で3例(消化管出血1例,出血性梗塞2例)みられた。

●考察

 NVAFを有する脳梗塞急性期患者において,DOAC群はワルファリン群よりも早期にOACが開始されていた。一方で,プロペンシティスコアを合致させた各群50例の解析ではDOAC群5日,ワルファリン群6日となり,有意差が消失したことから(p=0.539),年齢や重症度などの背景疾患の違いがOACの投与開始までの期間に影響していると考えられる。

 ダビガトラン群は他のDOAC群よりもOAC開始までの期間が短かった。ダビガトラン群の入院時NIHSSは他のDOAC群よりも低く,ダビガトランは経口摂取が可能な軽症例で選択されていたためと考えられた。

 脳梗塞発症後,OACは早期に開始されており,特にDOAC投与例では,中等度以上の脳梗塞でも「1-3-6-12ルール」よりも早く開始されていた。これは,NVAFを有する急性期脳梗塞患者を対象とした先行研究SAMURAI-NVAF study 4)と一致した結果であった。

●結論

 DOACはワルファリンにくらべ若齢患者に多く投与されていた。急性期脳梗塞患者に対する発症からOAC投与開始までの期間は,DOAC群のほうがワルファリン群よりも有意に短かった。軽症例では発症後早期からOACが開始されていたが,特にDOACは中等度以上の患者でも「1-3-6-12ルール」よりも早く開始されていた。脳梗塞急性期であっても出血イベントは少なかった。

文献

  • Kernan WN; American Heart Association Stroke Council, Council on Cardiovascular and Stroke Nursing, Council on Clinical Cardiology, and Council on Peripheral Vascular Disease. Guidelines for the prevention of stroke in patients with stroke and transient ischemic attack: a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke 2014; 45: 2160-236.
  • Kirchhof P, et al. 2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with EACTS. Eur Heart J 2016; 37: 2893-962.
  • Deguchi I, et al. Timing of treatment initiation with oral anticoagulants for acute ischemic stroke in patients with nonvalvular atrial fibrillation. Circ J 2017; 81: 180-4.
  • Toyoda K, et al. Trends in oral anticoagulant choice for acute stroke patients with nonvalvular atrial fibrillation in Japan: the SAMURAI-NVAF study. Int J Stroke 2015; 10: 836-42.


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