2017.4.7 | STROKE 2017取材班 |
由比智裕氏 |
脳卒中急性期および慢性期治療の進歩により,脳卒中の再発率は時代とともに低下-3月16日,第42回日本脳卒中学会学術集会(STROKE 2017)にて,由比智裕氏(九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野)が発表した。
●背景・目的
近年,急性期治療が大きく進歩したことなどにより,脳卒中による死亡率は低下した。その結果,再発予防が重要な課題となっている。これまでに,脳卒中再発率が時代とともにどのように推移しているかについて,わが国の地域住民を対象として検討した報告はない。そこで,福岡県久山町における時代の異なる2つの集団の追跡調査結果を用いて,脳卒中再発率の時代的推移を検討した。
●方法・対象
久山町研究における以下の2つのコホートを対象とし,全脳卒中の再発について解析した。追跡期間は,脳梗塞初発から10年間,もしくは各コホートの追跡終了までとした。
・前期コホート(1961~1985年)
1961年に健診を受診した40歳以上の男女1,621人のうち,1985年までの24年間における脳卒中初発例318例(追跡期間中央値1.7年)。
・後期コホート(1988~2012年)
1988年に健診を受診した40歳以上の男女2,646人のうち,2012年までの24年間における脳卒中初発例363例(追跡期間中央値3.7年)。
●結果
1. 患者背景
平均年齢は,前期コホート(61歳)より後期コホート(65歳)のほうが有意に高かった。高血圧の有病率は両コホートで差はなかったが,降圧薬服用率が4.1%から23.7%へ有意に上昇し,血圧は149/85mmHgから143/80mmHgへ有意に低下した(いずれもp<0.001)。一方で,糖代謝異常(14.5%→42.4%)や高脂血症(7.2%→38.0%),肥満(12.6%→25.9%)といった代謝性疾患の有病率はいずれも有意に上昇し(ここまですべてp<0.001),心房細動の有病率も有意に上昇していた(1.0%→3.6%,p=0.04)。喫煙率(47.6%→26.5%,p<0.001)および飲酒率(42.1%→31.4%,p=0.01)は,いずれも有意に低下した。
脳卒中初発時の年齢は,前期コホート(72歳)よりも後期コホート(76歳)で有意に高かった(p<0.001)。
脳卒中初発時の病型の内訳は,前期および後期コホートにおいて,脳梗塞がそれぞれ72.0%, 69.2%,脳内出血が17.6%,21.8%,くも膜下出血が9.1%,9.1%,不明が1.3%,0%であり,両者に差はみられなかった。
2. 脳卒中再発率の推移
脳卒中初発例のうち,前期コホート69例,後期コホート75例で追跡期間中に再発がみられた。累積再発率はそれぞれ46%,35%と,後期コホートで有意に低かった(p=0.04)。後期コホートの前期コホートに対する脳卒中再発の性・年齢調整後ハザード比(HR)は0.63,95%信頼区間(CI)0.45-0.88であり,再発リスクは後期コホートで有意に低下していることが示された(p=0.01)。
3. 初発時と再発時の脳卒中病型の関連
脳卒中初発時および再発時の病型の関連性は以下のとおりである。脳梗塞初発例およびくも膜下出血初発例では,時代を問わず再発時の病型も同じである割合が高かったが,脳出血初発例では,再発病型が脳梗塞である症例も少なくなかった。
・前期コホートにおける再発時の病型
脳梗塞初発例:脳梗塞88%,脳内出血12%,くも膜下出血0%,不明1%
脳出血初発例:脳梗塞33%,脳内出血50%,くも膜下出血17%,不明0%
くも膜下出血初発例:脳梗塞17%,脳内出血0%,くも膜下出血83%,不明0%
・後期コホートにおける再発時の病型
脳梗塞初発例:脳梗塞87%,脳内出血11%,くも膜下出血3%,不明0%
脳出血初発例:脳梗塞42%,脳内出血58%,くも膜下出血0%,不明0%
くも膜下出血初発例:脳梗塞0%,脳内出血0%,くも膜下出血100%,不明0%
●結論
久山町研究のコホートにおいて,脳卒中の再発率は時代とともに有意に低下していた。この背景として,脳卒中初発時の急性期および慢性期治療の進歩が寄与していると考えられた。
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