2017.4.12 | STROKE 2017取材班 |
目時典文氏 |
超高齢の高リスク患者に対する抗凝固療法の新たな指針が必要-3月16日,第42回日本脳卒中学会学術集会(STROKE 2017)にて,目時典文氏(弘前脳卒中・リハビリテーションセンター内科副部長)が発表した。
●背景・目的
わが国は超高齢化社会へ向かっており,それにともない心原性脳塞栓症患者数の増加も無視できない状況となっている。本研究は,80歳以上の心原性脳塞栓症患者の特徴から,抗凝固療法の問題点を明らかにすることを目的として行った。
●方法・対象
2014年4月~2016年3月の2年間,弘前脳卒中レジストリーに登録された救急入院連続例1,176例より,発症前modified Rankin Scale(mRS)が0~1の心原性脳塞栓症患者を抽出した。年齢,性別,身体状況,搬入時血液データ,既往歴,退院時予後を検討した。
●結果
1. 患者背景
登録された脳卒中患者1,176例のうち,心原性脳塞栓症は284例(24%)であった。他の病型はアテローム血栓性脳梗塞46%,ラクナ梗塞14%,病型不明(鑑別困難)8%,その他8%であった。心原性脳塞栓症例の平均年齢は80.9歳で,アテローム血栓性脳梗塞例74.0歳,ラクナ梗塞例69.3歳よりも高かった。
心原性脳塞栓症例の性別は男性49%,女性51%とほぼ同じ割合であったが,平均年齢は男性78.0歳,女性83.7歳で,女性のほうが高かった。平均体重は53.1kg(男性59.1kg,女性47.3kg)であり,女性の体重分布は低体重側に偏っていた。
2. 年齢別の結果
退院時の予後不良(mRS 5~6)を年齢別に解析したところ,80歳以上群では82例(47.1%)で,80歳未満群21例(19.4%)よりも有意に多かった(p<0.00001)。
また,80歳以上群における腎機能低下例(クレアチニンクリアランス:CLcr<30mL/分)は40例(23.3%)で,80歳未満群2例(2.0%)よりも有意に多かった(p<0.0001)。低体重(<45kg)も,80歳以上群では70例(40.2%)で,80歳未満群9例(8.5%)よりも有意に多かった(p<0.00001)。
脳内出血既往(80歳以上群4.6%,80歳未満群5.6%,p=0.75)や冠動脈疾患既往(それぞれ12.4%,10.5%,p=0.57)については,両群間に有意差を認めなかった。
●考察
脳梗塞と頭蓋内出血の両方のリスクが高いと考えられる超高齢者において,抗凝固療法中の頭蓋内出血の頻度は,脳梗塞の1/10にも満たず,net clinical benefitは無治療よりも抗凝固療法ありの方が優れるとの報告がある1)。したがって,超高齢者であっても,出血リスクを過度に懸念せず,脳梗塞の予防を重要視すべきであると考えられる。
一方,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は,高齢,低体重,腎機能障害では使用に制限があり,特に腎機能障害において,CLcr<30mL/分では慎重投与,同<15mL/分では禁忌とされている。本研究では,80歳以上の患者のうち49.1%が腎機能障害または低体重のいずれか一つ以上を有していた。超高齢者に対する抗凝固療法は容易ではないが,脳梗塞の予防は重要であり,適切な抗凝固療法を選択する必要がある。
●結論
超高齢の高リスク患者に対する抗凝固療法について,エビデンスにもとづく新たな指針が必要と考えられた。
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