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第82回日本循環器学会学術集会(JCS 2018)2018年3月23〜25日,大阪
リアルワールドのNVAF患者におけるDOACとワルファリンの比較-SAKURA AF Registryより
2018.5.8 JCS 2018取材班

日本のリアルワールドにおいて,脳卒中,心血管イベント,全死亡の発症リスクはDOAC群とワルファリン群で同程度であったが,大出血リスクはDOAC群のほうが低い-3月23日,第82回日本循環器学会学術集会にて,奥村恭男氏(日本大学医学部内科学系循環器内科学分野准教授)がSAKURA AF Registryの結果を発表した。また,本学術集会でいくつか発表された同研究のサブ解析のうち,西田俊彦氏(独立行政法人地域医療機能推進機構横浜中央病院循環器内科)による高齢者についての解析結果もあわせて紹介する。

奥村恭男氏
奥村恭男氏

●背景・目的

現在わが国では,非弁膜症性心房細動(NVAF)患者における脳卒中発症抑制として,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が広く用いられている。DOACに関するリアルワールドの登録研究はいくつか行われているものの,追跡率や症例規模などによって,その結果には偏りがある可能性が指摘されている。

そこで,DOACの有効性および安全性を明らかにするため,登録後患者を最低2年,最長4年追跡するSAKURA AF Registry1)が行われた。

●方法・対象

SAKURA AF Registryは,2013年9月~2015年12月の期間に東京都北部(城北地域)を中心とした63施設で登録が行われた。対象は,DOACまたはワルファリンを服用している20歳以上のNVAF患者3,267例(大学病院2施設1,185例,病院13施設1,325例,診療所48施設757例)である。

●結果

1. 追跡完了率

DOAC群1,690例,ワルファリン群1,577例が登録,それぞれ1,676例(ダビガトラン456例,リバーロキサバン761例,アピキサバン428例,エドキサバン31例),1,561例が本研究に組み入れられた。1年後の追跡完了率はDOAC群97.3%(1,630例),ワルファリン群97.8%(1,527例),2年後ではそれぞれ89.9%(1,507例),92.6%(1,445例)であった。

2. 患者背景

対象患者の平均年齢はDOAC群,ワルファリン群ともに72歳であった(p=0.2286)。DOAC群はワルファリン群にくらべ女性(それぞれ29%,24%,p=0.0009),発作性心房細動(発作性/持続性/長期持続性は42/21/36%,31/23/44%)が多かった。平均CHADS2スコア(1.7点,1.9点),平均CHA2DS2-VAScスコア(2.9点,3.1点)はDOAC群で低く,クレアチニンクリアランス(CLcr;70mL/min,65mL/min)はDOAC群で高かった。また,DOAC群は新規投与(治療期間<3ヵ月;33%,5%)が多く,治療期間中央値(7ヵ月,47ヵ月)が短かった(ここまでp<0.0001)。

3. イベント発症率

脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)/全身性塞栓症(SE)の発症率はDOAC群1.1%/年,ワルファリン群1.8%/年(p=0.3616),大出血の発現率はそれぞれ0.5%/年,1.1%/年(p=0.7328)であった(追跡期間中央値38.7ヵ月)。

また,心血管イベント(心不全,急性心筋梗塞/不安定狭心症,心血管死,その他の心イベント)の発症率はDOAC群2.6%/年,ワルファリン群1.7%/年(p=0.9180)(追跡期間中央値38.3ヵ月),全死亡は,それぞれ2.1%/年,1.7%/年(p=0.3434)(追跡期間中央値39.2ヵ月)で,すべての項目において,両群間に有意差は認められなかった。

4. 傾向スコアマッチング後の解析

年齢,性別,心房細動の病型,脳卒中リスク,治療期間などに基づき傾向スコアでマッチングした各群664例について解析を行った。治療期間中央値はDOAC群,ワルファリン群ともに15ヵ月であった。脳卒中/TIA/SE(ハザード比[HR]0.77,95%信頼区間[CI]0.43-1.37,p=0.3784),心血管イベント(HR 1.02,95%CI 0.71-1.47,p=0.9014),全死亡(HR 0.95,95%CI 0.60-1.51,p=0.8313)の発症リスクはいずれも,両群間に有意差を認めなかったが,大出血の発現リスクはDOAC群のほうがワルファリン群より有意に低かった(HR 0.51,95%CI 0.27-0.92, p=0.0265)。

多変量解析の結果,臨床イベントに関連するおもな因子として,75歳以上(HR 2.03,95%CI 1.69-2.43,p<0.0001),経口抗凝固薬(OAC)の新規投与(HR 1.39,95%CI 1.09-1.76,p=0.0076),クレアチニン(1mg/dL上昇ごと;HR 1.33,95%CI 1.17-1.49,p=0.0001)が同定された。

5. 治療期間別の解析

対象患者をOAC新規投与(治療期間<3ヵ月;631例),継続投与(同≧3ヵ月;2,606例)で分けて患者背景をみたところ,新規投与例は継続投与例にくらべ若齢で(71.3歳,72.2歳,p=0.0346),女性が多く(32%,25%),持続性心房細動が少なかった(51%,66%)。また,新規投与例で平均CHADS2スコア(1.6点,1.9点),平均CHA2DS2-VAScスコア(2.8点,3.0点)が低かった(ここまでp<0.0001)。CLcrは両群間で有意差を認めなかった(69mL/min,68mL/min,p=0.1590)。

新規投与例は継続投与例にくらべ,脳卒中/TIA/SE(p=0.0156),心血管イベント(p=0.0010)の発症リスクが有意に高かった。これは,投与開始後1年間のイベント発症率が高かったことが要因として考えられる。大出血(p=0.1712),全死亡(p=0.6487)については両群間で有意差を認めなかった。

●結論

リアルワールドにおいて,脳卒中,心血管イベント,全死亡の発症リスクはDOAC群とワルファリン群で同程度であったが,大出血の発現リスクはDOAC群のほうが低い可能性が示唆された。また,臨床イベントは高齢(75歳以上),腎機能障害,OAC新規投与と関連していた。このことから,新規にOACを開始するこれらの症例には注意して経過観察することが重要であることが示唆された。

西田俊彦氏
西田俊彦氏
サブ解析:高齢者におけるDOACの有効性および安全性

●目的

高齢者におけるDOACの有効性および安全性を検討するため,SAKURA AF Registry登録患者3,267例のうち,75歳以上の1,355例(DOAC群695例,ワルファリン群660例)を対象としてサブ解析を行った。

●患者背景

平均年齢(DOAC群80.4歳,ワルファリン群80.7歳,p=0.08),男性(それぞれ64%,68%,p=0.12)は両群で同程度であったが,DOAC群は持続性心房細動が少なく(61%,69%,p=0.002),平均CHADS2スコアが低かった(2.4点,2.6点,p=0.01)。平均CHA2DS2-VAScスコアはDOAC群で低い傾向がみられた(3.9点,4.0点,p=0.06)。また,DOAC群で高血圧(72%,79%,p=0.002),心不全(22%,27%,p=0.03)が少なく,CLcrが高かった(53.7mL/min,50.1mL/min,p<0.001)。

●結果

75歳以上におけるDOAC群またはワルファリン群のイベント発症リスク 75歳以上の患者におけるイベントについて,CHA2DS2-VAScスコアの項目を含む因子を調整し解析を行ったところ,DOAC群とワルファリン群の間の臨床イベントの発現に有意差は認められなかった(脳卒中/TIA/SE:p=0.2549,心血管イベント:p=0.2892,大出血:p=0.7973,全死亡:p=0.8740,全イベントの複合:p=0.2687)。

●結論

わが国のリアルワールドにおいて,DOACを投与されている高齢者の脳卒中/TIA/SE,心血管イベント,大出血,全死亡の発症リスクは,ワルファリン投与例と同程度であった。

文献

  • Okumura Y, The Sakura Af Registry Investigators. Current use of direct oral anticoagulants for atrial fibrillation in Japan: Findings from the SAKURA AF Registry. J Arrhythm 2017; 33: 289-96.


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