2018.4.9 | JCS 2018取材班 |
井上博氏 |
腎機能障害を有する高齢の日本人NVAF患者では,ワルファリンコントロールが不良であり,血栓塞栓症と全死亡リスク上昇と関連していた-3月24日,第82回日本循環器学会学術集会にて,井上博氏(済生会富山病院院長)が発表した。
●背景・目的
心房細動(AF)患者において,腎機能障害および慢性腎臓病は脳卒中,出血,全死亡のリスク因子となる1, 2)。腎機能が低下した患者では,必要とされるワルファリンの用量が少ないことや,ワルファリンコントロールが悪化することが報告されている3, 4)。
そこで今回,J-RHYTHM Registryのデータを用い,70歳以上の日本人非弁膜症性AF(NVAF)患者における腎機能およびワルファリンコントロールの質と転帰の関連を検討した。
●方法・対象
J-RHYTHM Registryは,日本人AF患者を対象とした前向き観察研究である。2009年1月~7月に7,937例を登録し,観察期間は2年とした。このうち,弁膜症性AF患者,クレアチニンクリアランス(CrCl)および治療域内時間(TTR)のデータのない症例,70歳未満の症例を除いた2,782例を今回の解析対象とした。
評価項目は血栓塞栓症(虚血性脳卒中,一過性脳虚血発作[TIA],全身性塞栓症),大出血,全死亡,およびこれらの複合イベントである。
●結果
1. 患者背景
平均年齢は75歳,男性は65%であった。平均CrClは54mL/分,平均CHADS2スコアは2.1点,平均HAS-BLEDスコアは1.9点,登録時のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)は1.89で,観察期間中のPT-INR測定回数は平均14回であった。
CrCl(mL/分)を<30,30~49.9,50~79.9,≧80で層別化し検討したところ,CrClが低いほど高齢,低体重で、女性が多い傾向がみられた。また,CHADS2スコアおよびHAS-BLEDスコアともに,CrClが低いほど高い傾向がみられた(ここまですべて p<0.001 for trend)。ベースライン時のPT-INRはCrClによる差はみられなかったが,CrClが低いほどベースライン時のワルファリン投与量が少なく,TTRは低く,抗血小板薬の使用率が高い傾向がみられた(すべてp<0.001 for trend)。
2. ワルファリンコントロールの質に及ぼす因子と転帰への影響
TTRを<65%,≧65%で層別化し,ロジスティック回帰分析によりTTR<65%と関連する因子についてオッズ比(OR)を検討した。CrCl<30mL/分(OR 1.49,95%CI 1.13-1.95,p=0.004),抗血小板薬併用(OR 1.37,1.13-1.67,p=0.002),年齢≧75歳(OR 1.24,1.04-1.48,p=0.016),心不全(OR 1.23,1.03-1.47,p=0.020),BMI≧25kg/m2(OR 0.82,0.68-0.99,p=0.038)で関連が認められた。
TTR別に各イベントの粗発現率を比較したところ,血栓塞栓症(p=0.001),全死亡(p=0.001),複合イベント(p<0.001)はTTR<65%で発現率が高かったが,大出血では有意差を認めなかった。CrCl別では,全死亡,複合イベントはCrClが低いほど発現率が高かったが(いずれもp<0.001 for trend),血栓塞栓症ならびに大出血では有意差を認めなかった。
さらに,複合イベントについて,CrClのレベル別にTTRとの関連を解析した。CrCl 30~49.9mL/分(Log-rank p=0.049),50~79.9mL/分(Log-rank p<0.001),≧80mL/分(Log-rank p=0.024)の症例においては,TTR≧65%は<65%にくらべてイベント回避率が有意に高かった。CrCl<30mL/分では有意差を認めなかった(Log-rank p=0.531)。
3. 血栓塞栓症および大出血のリスク因子
イベントに対する影響因子を検討するために多変量解析を行った。塞栓症についてはTTR<65%(ハザード比[HR]2.26,95%CI 1.37-3.72,p=0.001),大出血については年齢≧75歳(HR 1.89,1.07-3.32,p=0.027)および女性(HR 0.54,0.31-0.93,p=0.027)が独立予測因子であった。
また,全死亡ではCrCl<30mL/分(HR 5.32,1.56-18.18,p=0.008),TTR<65%(HR 1.60,1.07-2.38,p=0.022),心不全(HR 2.54,1.66-3.90,p<0.001),年齢≧75歳(HR 1.74,1.03-2.93,p=0.039),脳卒中/TIA既往(HR 2.04,1.31-3.18,p=0.002),女性(HR 0.47,0.30-0.76,p=0.002)が独立予測因子であった。
複合イベントに関しては,CrCl<30mL/分(HR 2.03,1.10-3.76,p=0.024),TTR<65%(HR 1.58,1.22-2.04,p=0.001),心不全(HR 1.54,1.18-2.01,p=0.002),年齢≧75歳(HR 1.69,1.23-2.32,p=0.001),脳卒中/TIA既往(HR 1.64,1.22-2.21,p=0.001),女性(HR 0.60,0.44-0.81,p=0.001)が独立予測因子であった。
●考察
先行研究では、腎機能が低下した患者でワルファリン投与量が少なくなることやコントロールが悪化する要因として,腎外クリアランスや分布容積の変化,CYP代謝の低下,ワルファリンの蛋白結合率や血清アルブミン値の変化,尿毒症物質およびサイトカイン,心不全を含む併存疾患があげられている5)。
●結論
腎機能障害を有する高齢の日本人NVAF患者では,ワルファリンコントロールが不良であり,血栓塞栓症と全死亡リスク上昇と関連していた。ワルファリンを慎重にコントロールすることにより,これらの患者の予後が改善される可能性がある。
文献
▲TOP |