2018.4.17 | JCS 2018取材班 |
小川尚氏 |
日本人AF患者において,DOACの不適正使用は死亡率増加と関連-3月24日,第82回日本循環器学会学術集会にて,小川尚氏(国立病院機構京都医療センター循環器内科医長)が発表した。
●背景・目的
本邦において,心房細動(AF)患者における脳卒中発症抑制を目的とした直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の使用は増加している1)。海外においても,米国の外来心疾患患者を対象とした登録研究PINNACLE registryにより,同様の状況であることが明らかにされている2)。
その一方で,DOACの不適正使用が問題となっている。日本人AF患者を対象とした多施設登録研究SAKURA AF Registryでは,DOAC使用例の20~30%で,投与量が不適正に減量されている実態が示された3)。また,米国の前向き登録研究であるORBIT-AF II Registryでは,1/8の患者で添付文書と異なる用量が投与されており,DOACの不適正使用は有害事象リスクの増大と関連することが示唆されている4)。
そこで今回,Fushimi AF Registryに登録されたAF患者を対象に,実臨床におけるDOAC使用の現状と転帰について評価を行った。
●方法・対象
Fushimi AF Registryは,京都市伏見区のAF患者全例の登録を目指す,地域ベースの前向き登録研究である。2017年7月までに4,261例(追跡期間中央値1,242日,追跡率91.0%)が登録され,そのうち処方データが入手でき,ベースライン時にDOACが投与されていた534例(ダビガトラン158例,リバーロキサバン161例,アピキサバン190例,エドキサバン25例)を本解析の対象とした。
●結果
1. DOACの使用状況別患者背景
DOACが投与された534例のうち,不適正使用群は120例(22.5%),適正使用群は414例(77.5%)であった。不適正使用の内訳は,overdose 9例,underdose 53例,投与禁忌(弁膜症AF,クレアチニンクリアランス[CrCl]低値など)51例,CrClまたは体重未測定7例であった。
不適正使用群は適正使用群にくらべ高齢で(75.0歳,72.4歳,p=0.033),体重(58.5kg,63.1kg,p=0.014),CrCl(35.4mL/分,67.1mL/分,p<0.001)が低かった。平均CHADS2スコア(2.08,2.04),平均CHA2DS2-VAScスコア(3.45,3.28),平均HAS-BLEDスコア(1.76,1.56)は両群で同程度であったが,不適正使用群で大出血の既往が多かった(11.7%,2.7%,p<0.001)。
抗血小板薬やベラパミル,アミオダロンの併用については,両群間で有意差を認めなかった。
2. イベント発現率
不適正使用群では適正使用群にくらべ,全死亡率が高い傾向を認めたものの有意ではなかった(ハザード比[HR]1.85,95%CI 0.84-3.80,p=0.120)。脳卒中/SE(HR 1.35,0.49-3.22,p=0.539),全出血(HR 0.75,0.39-1.34,p=0.352),大出血(HR 0.22,0.01-1.05,p=0.059),複合イベント(HR 0.96,0.59-1.49,p=0.847)にも両群間で差異はなかった。
ただし,患者背景(年齢,性別,体重,脳卒中/一過性脳虚血発作/SEの既往,心不全,高血圧,糖尿病,血管疾患,慢性腎臓病,大出血の既往)で調整し,多変量解析を行ったところ,不適正使用と全死亡の増加に有意な関連がみられた(HR 2.62,95%CI 1.05-5.90,p=0.039)。そのほか,DOAC投与禁忌例では適正使用例,underdose例,overdose例にくらべ,全死亡,脳卒中/SE,複合イベントの発現率が顕著に高い傾向がみられた。
●結論
日本人AF患者において,DOACの不適正使用は死亡率の増加と関連していた。
文献
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